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嘘
「あなたの嘘は、もう沢山」
頬を伝う一筋の涙と共に、
君の心が離れてゆく。
僕の胸は軋んだ悲鳴を上げるけれど、
君の心にはそれ以上の傷を負わせてしまった。
そこへ言葉を重ねても、
いたずらに傷を増やすだけだと分かっている。
長い歴史の中で、
最初に嘘をついたのは誰だったのか。
心を上書き保存するように、
嘘で嘘を塗り固め、
真実を隠したのは誰だ。
その人がついた嘘もまた、
誰かを救うための嘘であってくれたなら。
これ以上、僕が抱える複雑な家庭事情に、
君を巻き込むわけにはいかない。
涙を堪えて背を向けながら、
最後にもうひとつだけ嘘を重ねる。
悪者になるのは、僕だけで十分なのだから。
「他に好きな人が出来たんだ。ただそれだけだよ」