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イノベーションと81マスの聖域
休日の午後。
押し入れから将棋盤を持ち出して、
名人戦の棋譜を再現してみた。
たった81マス。
その聖域で起こる、至高の頭脳戦。
僕の感覚は鋭敏に研ぎ澄まされ、
思考が明瞭になってゆく。
「毎週毎週、良く飽きないわね」
デザートの器を持った彼女が
盤面を覗き込んできた。
「邪魔しないでくれ。
もうすぐ大詰めなんだ」
「あら。ごめんなさいね。
でも、ルールとはいえ、
型に填まった動きしか
できないなんて可哀想」
「どういう意味?」
「型破りで大胆な発想も、
時には必要なんじゃない?
先人のやり方をなぞってるだけじゃ、
イノベーションは起こせないわよ」
「それは、僕への皮肉?」
タピオカの入ったゼリー。
それを食べる彼女へ苦笑で応えた。





