61/136
僕は肩を叩かれた
座席に腰掛け、通勤電車に揺られる日々。
当たり前のように、
ただ毎日が過ぎてゆくと思っていた。
高望みはしない。
ありふれた日常で十分だった。
でもそれは、僕と隣人の間の
僅かな隙間を狙っていたように、
不意にやってきた。
言葉はないが、気配を感じる。
それは徐々に形を持ち、
肩越しに、息づかいが伝わるほどになった。
電車の揺れに合わせて重みがかかる。
払いたいのに、体が動かない。
隣に座るそれが、僕の顔を覗き込む。
不敵な笑みを浮かべた気がした。
そして、恐怖と共に一瞬で悟った。
僕は肩を叩かれたのだと。
蝋燭へ灯る火を消すように、
生暖かい息が首筋へ吹きかかる。
命の砂時計があるのなら、
すぐに逆さへ返すのに。
災害は、予期せぬ形で訪れる。





