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童話
「みんなは幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし」
童話集を閉じると、意識は現実へ。
おとぎの国を出た僕の横では、
こどもが小さな寝息を立てている。
いつか自分が見聞きしていたもの。
それをこどもが受け継ぐことを、
とても感慨深く思ってしまう。
伝統を継ぐ、だなんて
大それたものではないけれど、
名前が、血が、意思が、想いが、
こうして後生へ繋がってゆく。
僕の命もいつかは尽きる。
ひ孫の代ともなれば、
僕を知る人はなくなるだろう。
それが無性に寂しい。
この童話のように、
語り継がれるような証を残したい。
僕が生きていた証が欲しい。
愛する人と結ばれた。
それ以上を望むのは我が儘だろうか。
この葛藤は、生ある限り続くだろう。
角掛みなみ様が展開されている「サカイメの書架」。
七月の応募作品です。





