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独房へ籠もったような世界
またひとつ、想い出の場所が消えた。
目の前の景色は移り変わり、
地図からも形を失うだろう。
それは時の流れと同じように、
呆気ない速さで書き換えられてゆく。
人情や風情も感じさせない
極めて機械的な動きで。
隣人の顔さえ知らないという
殺伐としたこの時代を憂う。
遠く離れた人でさえ、
会話をすることが可能になった。
けれどそれと引き替えに、
僕等は触れ合う機会を著しく失った。
独房へ籠もったような世界の中で、
僕等の生活も大きく変わった。
そんなことを思いながら、
鋼鉄の爪が振り下ろされる様を
僕たちは呆然と見つめている。
何度も目にした富士山は、呆気なく崩れた。
けれど、この銭湯を介して生まれた繋がりは、
決して消えることはない。





