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電話ボックス
小春日和に誘われて、
コートを脱いだ街並みを歩いた時だ。
ある変化に足が止まる。
あそこには、良く利用していた
電話ボックスがあったのに。
携帯電話が無かった頃、
言葉と心を通わせる
キューピットになってくれたのは彼だった。
日々の他愛ないことを話す僕を包み、
聞き耳を立てながらも口の堅かったあいつ。
甘い言葉からデートの予定に至るまで、
事細かに把握していたはずだ。
あいつが繋いだ彼女との待ち合わせは、
いつも僕が待つ側。
けれどその間には、
話すべきあれこれに想像を巡らせ、
退屈だなんて感じる暇もなくて。
そうして彼女を迎え、こう答えるんだ。
「僕も、今来たところだよ」
あいつは次の縁を結ぶため、
別の街へ行ったに違いない。
銘尾友朗さん主催「春センチメンタル企画」参加作品です。