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孤高の天才 3-2 「古賀コン8参加作品」
「すみません。用事が」
申し訳なさそうに頭を下げた新井は、そそくさと走り去っていった。
走る後ろ姿までまぶしい奴だ。その若さが羨ましくて、つい舌打ちが漏れた。
「どうせ、高峯の様子でも見に行くんだろ」
口を開いたら、心まで夕闇に浸食される。
「高峯か。孤高の天才なんて言われてるけど、ただの社畜じゃねぇか。新井の教育係は俺だぞ。この平田様をないがしろにしやがって」
俺だって、仕事へのやる気に満ちていた時期はある。気付けば椅子取りゲームに負け、平社員まっしぐらの人生だ。
「でもな……」
これはこれで悪くない。給料はそこそこだが、ワークライフ・バランスを重視した日々に大きな不満はない。
俺は天才未満の存在で構わない。





