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しゃぼん
父は、生まれたときから
僕の父として存在しているのだと思っていた。
やがて僕も成長し、
物事の分別がつくようになると、
その考えが大きな誤りだったと気付いた。
父から与えてもらった数々の想いや言葉も、
今となっては蜃気楼のようにおぼろげだ。
十八歳で家を出てしまった僕には、
共に過ごした時間はほんのわずかにも思える。
光輝いていたはずの父の命は、
しゃぼんの泡のように弾けて消えた。
余りにも呆気ない結末だった。
残された時間を知れる。
残酷なことに思えるけれど、
今となっては幸せだったと
いえるのかもしれない。
すべてを受け入れ、
心の準備を済ませ、
父と、自分と
向き合うことができたように思う。
今は、ありがとうの気持ちしかない。





