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裸の王様
夏休みのある学生が羨ましい。
社会人になってから、その想いは年々強くなる。
窓から見える積乱雲は、
俺の恨みを具現化しているのかも。
くだらない思考に苦笑が漏れた。
労働基準法で過労死と定められた線を軽々と超え、
日々の激務に耐えている。
他にやりたいこともなく、
逃げることもできない現状に嫌気が差す。
目が覚めたら六十五歳。
現実逃避でそんな妄想に囚われてしまう。
よそ様の倍は稼働している。
数字だけ見れば定年退職には十分だ。
ため息をついて、ソファに体を沈める。
今年の夏期休暇もあっという間だ。
口の中へ放り込んだ砂糖菓子のように、
時間が溶けてゆく。
今の俺は、海岸に作った砂の城へ籠城する裸の王様だ。
「仕事したくねぇ」





