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甘い記憶
「記憶って、どうして忘れていくのかな」
僕は彼女へ疑問を投げ掛け、
かき氷の山へスプーンを突き立てた。
「記憶を留めてどうしたいの?」
「嬉しいことや楽しいことって、
いつまでも覚えていたいじゃないか。
忘れたくない想い出もあるだろ。
甘い記憶に囲まれていたら、
苦痛があっても軽減されると思うんだ」
「それはそうね。
だけど、こういう考え方はどう?」
彼女はテーブルの端へ手を伸ばし、
ひとつの小瓶を手に取った。
それは塩だ。
疑問を浮かべる僕へ微笑み、
かき氷へそれを振りかけた。
「甘いだけなんて退屈でしょ。
時には、刺激や苦味も必要だと思うの。
それに、苦痛をいつまでも覚えていたい?
忘れられるから、
前に進むこともできるのよ」





