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いつでも空から
「ポケットの中には〜
百円玉ひとつ〜」
夜道を歩くひとりの男。
懐かしい歌を口ずさみ、
汚れたズボンを叩いた。
だが、男のポケットには
本当に一枚の硬貨があるだけ。
「叩いただけで増えるなら
苦労はしないって」
生活は困窮を極めていた。
住む家も、食べる物もない。
「これしか……ない」
ゴミ捨て場で拾った包丁を手に、
コンビニの明かりを睨んだ。
人気のない深夜だ。
やるなら今しかない。
男が空を見上げると、
満天の星が飛び込んできた。
『人様に迷惑をかける生き方はダメよ。
私はいつでも空から見ているから』
亡くなった母の顔が過ぎった。
ビスケットが増えるという
ふしぎなポケットの歌。
その歌も、母が好きな曲だった。
男は強盗を思い留まった。
角掛みなみ様がYou Tubeにて展開されている「サカイメの書架」。
八月の応募作品です。
〜お題「星」〜





