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ショートショート習作2 「ラッパ」「タコ」「歩く」

作者: アツラム

 かつてハーメルンでは笛吹く男が子供たちを連れ去ったという。知らぬ人のほうが少ないおとぎ話だ。では、砂浜に呆然と立ちすくむ私の眼前に広がる光景は、その再現なのだろうか?


 先頭には確かに笛吹く者がいる。そのあとに続く見るからに小柄な者たちの姿もある。ラッパを吹き鳴らしながら歩く者の後ろを、百鬼夜行の如く従う姿は、まさにハーメルンの笛吹き男と連れ去られる子供たちのようだ。これだけを聞けばその情景を簡単に思い浮かべていただけると思う。


 しかし、だ。目の前で行進を続ける笛吹きも、その後に続く者たちも、男ではなく子供でもない。というか人間ですらない。


 笛吹き男は、タコだ。八本の足と丸い頭を持ったまごうことなきタコが、口にラッパを突き刺し、器用にベルを上向け歩いている。その柔らかい頭を膨らませたかと思うと、急速にしぼませラッパを天高く吹き鳴らし、行進しているのだ。

 そしてそのあとに続く子供役と思われる者たちは、色とりどりの小魚だった。明らかに成魚に満たない矮躯の魚たちが、どうしたわけか空中にふよふよ浮かびながら、先頭のタコの後について、練り歩き、もとい、練り『泳いで』いく。


 あまりの非現実的な眺めに固まってしまった私の眼前を、意気揚々とラッパを吹き続けるタコが右から左へ悠然と通り過ぎていく。その後ろに続く小魚たちは、踊るようにふらふらと、しかし確実にタコを追いかけながら空を泳いでいく。

 やがて行進を続けていたタコが波打ち際までたどり着くと、一際大きなラッパの音を鳴らした後、大きく飛び上がって海へ飛び込んだ。後に続いていた小魚たちも、すぐさま大きく弧を描きながら次々と海中へ飛び込み、最後の一匹がちゃぷんと音を立てて波の中へ消えていった。


 何事もなかったかのように静謐さを取り戻した砂浜で、ぽつんと立ち尽くす私の耳には、タコの吹き鳴らすラッパの音だけが響き続けていた。


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