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白きエルフに花束を【初版】  作者: 宝島 登&玉城つむぎ
赤の章
4/15

赤の章(壱)

 僕がこのツリーハウスに住み着いて4日が経った。意外といろんなことができて、アイリーンさんも魔法とか使えたりする。

 あ、アイリーンさんというのは宿泊先の白い子のことだ。

「レイヤクン、外でフトン干してね」

「わかったけど……水汲みに行くの大変でしょ。食べたら僕がやるよ」

 本当に色々あったが、中でも一番驚いたことは食事の際は手づかみで食べるのが常識というだった。毛皮に豆かソバガラを詰めたと見える簡単な肘掛けにもたれて、ぬるい風に当たりながら香菜で包んで蒸した熊肉を頬張る。まるでペンションのように気楽だった。

 とにかく、ローストでも山菜の盛り合わせでも手で食べるので、何を食べてもおいしかった。彼女は自然の恵みを直接取り入れて生きて来たのだと毎回実感する。

 ただ、豆はあっても麦や米、芋はなかなか取れず、そこはスナック菓子を時々つまんで補った。アイリーンさんと水でふやかした冷製カップ麺をすすったりもした。化学調味料ではあったものの、スープの味は嫌いじゃないらしかった。けど、ここの料理には遠く及ばないんだって。

 かれこれ色々なことに慣れてくると、違ったことや興味を持てることを探したくて今さらウズウズする。スマホも持ってこず、ましてや向こうのニュースなんて知るはずもなく、ダラダラと何日も何日も、3か月をとうに越えてもここで過ごしていた。僕はいつの間にか、彼女の呼び方をアイリーンさんからアイルに切り替えていた。


 珍しく、夜遅くに、人が訪ねてきた。二人の細身が連れ立って恭しくアイルに話しかけた。

「アイル・インさまはおわしますか? わたくしどもはフォエイタンス真風教会助祭のハリラ、こちらはジェクーと申します。ご長男のケイ・イン殿の所在が判明いたしました。破壊神ゼ・ノンの力に取り憑かれており、各地に災厄を起こされる可能性があります。真風第三教会にて緊急会議を開きますので至急此方までお越しくださいとお伝え願えませんか?」

「え、アイルにお兄さんがいたの?!」

「はぁ? 御主の名を……おまえ、不敬罪ですね。召し取られたいのですか?」

 ハリラと名乗る男が、僕の肩を引っ掴んだ。どうやら目を見て話に付き合わなければ、離すつもりはないらしい。体つきを見れば、絡んでも大丈夫か判りそうなものなのに……。一体どういう神経をしているのだろうか。

 というか、そもそも翻訳機ないのに僕たちはどうやって会話してるんだ? 精度がさっきより高い。まさか。

「その方を離してください。翻訳機がうまく機能していないだけかもしれませんよ」

「……アイル・イン様!?」

「会議にはすぐに出させていただきます。彼は不注意だけど、決して、悪い人ではありません。この私が保証いたします」

 アイルの喋り方も物凄くキレイ! 

 より高度な翻訳指輪を携行している。でも、何のために?

 「それは、そうかもしれませんが」

 「納得いかないでしょうから、こうしてきちんとした性能の翻訳機を使います。それでもまだ不服ですか?」

 無茶を押し通す彼女に呆れたのか、彼らにとっても相手をするのが面倒くさくなったようだ。

 「———―分かりました。そこまでおっしゃるなら、わたくしどもから申し上げることはありません。それで、この男は何者ですか?」

 「私の客人です。馬が合うので、これから知り合っていこうかと思っています」

 アイルが表情筋を強張らせて遠回しな言いくるめをはねつけようとしている。彼らは彼らで言葉には出さないけど、さっきから仕草で同調圧力をかけ続けているのだ。

 でも、このやり取りから察するに、アイルは僕のことを気に入り始めているってことか?まだ早すぎると思うけど……。

 「何ですか」

 アイルが発した一言に疑問を覚えてハリラを見やると、意味深なしたり顔をしていた。手を後ろに隠してそわそわと体を揺らして、ぬらついた眼でこちらをじっと見つめる。

 「何事ですか。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなのです」

 「いえ、慶事というのは突然訪れるモノですな。私は決して認めませんが」

 「——————————」

 オイオイオイオイッ、まさか、泊めた泊めてもらったのその後の親しみまで干渉してくるつもりじゃないよな?そんなことされたら、住むところも暮らす当てもなくなるぞ!アイルの顔から感情が消え失せているし!険悪ムード一色だよっ。

 「安易にご友人など作られては、わたくしどもとしても非常に困るのです。そんなことをすれば、そこの怪しい男まで神聖視しなくてはならなくなる。まさか……、そのような事を貴女様がお救いになられた信徒達が認めると、お考えでいらっしゃると。そういうわけなので————————」

 「身の程を知りなさいッ!!私は、私の生きたいように生きる。あなたたちはそれを見習う。それが英雄教の分派である、『真風教』の教義ッ!忘れたとは言わせませんよ、この背信者!」

 アイルが激しく雷を落とした。ジェクーが皿を割ってしまったかのように、ぎゅっと目を瞑って強く肩をすくめる。

 「あ、アイル様。これ、これは、その」

 「あなたの云う用事がすんだら、追って通告します。処分を楽しみにする事ですね」

 これ以上ないくらいへそを曲げたアイルに厳しく告げられと、ハリラとジェクーはその場に両膝を落とした。


 歩いて2日になるだろうか。交通機関を利用する機会はいくつもあったが、彼らはそういったものを使おうとはしなかった。

 「今日はこのコーヒーハウスに宿泊します。明日のコハブ市通過以降、急激に治安が悪くなりますのでご注意くださいませ」

 ペンキで塗ったのか色合いがかなりハデだった。でかでかと看板で何か書いてあって、横にはコーヒー豆のイラストがついてあった。外からでも、店内の賑わいが見て取れる。

「ハリラさん、ここはホテル併設なんですか?」

「はい。アイル・イン様は私と。あなたはジェクーと同室で予約を取りました。おそらく今安全に泊まれる保証があるのは、付近ではここだけだと思いますので」

 ……は?今この人は、何と言ったんだ?何の意図があってわざわざそんな真似をする?

「え、でもアイルと初対面のハリラさんより、気心の知れた僕とのほうが安心すると思うけどなあ」

「何を根拠にしているんですか。定石で一番安全な方法です。私は一応武芸の心得はありますが、ジェクーは少し勉強ができるだけ。だから彼を守って」

「だったらなおさらですよ、僕はアイルを守ると誓ったんだ!」

「あなた、本気で言っているんですか? アイル・イン様の正体をご存じないくせに。それに、ご本人たっての希望です。何でも、あなたのことを見極めたいとのことでした」

 ここまで徹底されてはぐうの音も出ない。ウェルカムドリンクを選びにカウンターへ離れていった。はちみつ入りの林檎ジュースでも飲んでなきゃやっていられない。

「……あのー、二人とも、今日は店主さんが歓迎の音楽を奏でてくれる日らしいですよ。皆さんできいて、仲良くしましょう!」

 見かねたジェクーが僕らを踊りに誘うが、険悪な雰囲気は変わらない。かえって彼が気の毒に思えてきた。

 「あ、あはははははー」

 「白々しい。無理に笑うな」

 「……泣いていいですか?」

 「泣きたきゃ好きなだけ泣け。ただし一人でな」

 あーあー、ハリラのおっさんったら酷い事を言いやがらぁ。僕も含めてどんな神経しているんだよ。ケッ。


                      《2》


 その晩は、どうにもアイルの事が気になって寝付けなかった。彼女は今どんなことを考えて寝ているのだろう。気になって、寝室からそっと抜け出した。

 散々探し回って、ようやくテラス席でアイルの姿を見つけた。彼女はテーブルと椅子をずらして一人っきりで観月している。

 「よぉ、どうした?そんな寒いところでしょぼくれて」

 「いいでしょ、何だって」

 「風邪を引くぞ」

 言って聞かせてもこちらを見向きもせず、じっと月を見上げるばかり。野原の囁きが聞こえた。風の唄に交じって、強情っ張りとアイルが囁く。

 彼女が振り返って僕を見る。眦からこぼれる大粒の涙は月輪の輝きをまとい、複雑に感情を秘めた無表情を、このどうしようもない僕に向ける。

 「————————酷い人。人の決意も我慢も全部台無しにして。『今以上の幸福』を願ってしまうじゃない」

 「それでいいさ。責任はとるよ」

 「保証は?あなた、何を根拠にそんな自信を持っているのよ。どうしても信じられないわ」

 段々と、アイルの呼吸が薄くなる。ひゅっひゅっ、とひきつけでも起こしたのかと思われそうなせわしない呼吸を繰り返す。それに対して僕は――――――。

 「実の妹に、愛を告白されてね」

 アイルの喉が、ヒュッ、と鋭く鳴いた。僕が、この上なく酷薄な笑みを浮かべたからだ。自分でも自覚している。笑顔という言葉の定義をことごとく蹂躙しかねない、『笑っていない笑顔』の極致。

 自嘲からくる笑みの中では最悪の嗤い方だ。

 「『二人きりになったら我慢できる自信がない。だから信仰に背いてしまう』ということで、泣く泣く別れたのさ。無論、この国から遠く離れた故郷での話だ。あいつは、本気で兄である僕を愛していた」

 「そのあとは」

 「淫行は信仰上、制限があったからね。その場だけ、恋人になってあげた。出来る範囲のことはしてあげたし、責任も取ったよ」

 アイルは、僕の偽らざる実話を聴いて愕然としている。

 「どうだい?まだ、実績としては足りないかな。あいにく、交際経験は少ないんだけど」

 「いいえ。もう十分。あなたの人柄は十分わかった」

 アイルは、立ち上がって僕のもとへ滑るように近寄る。そして、そっと僕の手を取った。

 「……硬くて頑丈そうな掌。あなたを見ているとね。何だか私を見ているみたいな気持ちになるの」

 「何故」

 「相当我慢して生きてきたでしょう」

 「うん、辛かった。心だけが苦しかった」

 「何もかも、握りつぶして殴り飛ばしてきたでしょう」

 「……うん。言葉に出せないくらい、何度だってそうしてきたさ」

 それから、まるで先に僕だけを泣かせない、とでも言いたげに、するりと僕の手を放して距離を置いた。

 「本当に私そっくり。もがき苦しんでいるくせに、全部我慢して生きているんだもん。抵抗にすらなっていないわ」

 彼女はくるりと僕に背中を向けた。いつだって他人に心を許すことのなかった彼女が、ようやく隙を見せてくれた。その事に感極まって、じっと立ち尽くす。

 「この通り、心はこれから許していくつもり。でも、今日はそんな気分じゃないんだ」

 「疲れが先に来ているんだろう?」

 「うん。とくに精神的な疲れがひどい。トラウマで心もボロボロ」

 それっきり、彼女は押し黙ってしまった。————————忖度しろ、ということだろうか。なら、迷うことはない。僕は、ゆっくりと彼女の背後へ近づき、後ろからやさしく包み込んだ。

 「ぁぅっ……。————————っ……」

 アイルが声にならない声を上げて、呆然と月を見上げる。月明かりに狂わされてしまったかのように恍惚とした顔を見せる。

 「誰にも優しくされちゃいけない、って信じ込んでいたでしょう?」

 耳元でひそりと声を吹き込む。しばらく、彼女は僕が発した言葉の意味を無意識のうちに深く考え込んだ。

 「ひゃんッ!」

 それから遅れてアイルの体が大きくのけぞる。月天から目を離せなくなり、肩が小刻みに震えている。足首を見ると、透明で粘性のある体液が床に垂れている。

 でも、僕は彼女に手は出さない。親愛の表現として触れていい場所だけを触れる。

 「どうして僕が君に言い寄るかわかるよね」

 「や、ぁあっ、いじ、わる」

 「君みたいな弱い子を守ると、精神的に癒してくれる公算が高いんだ。だからそういう子が心の底から好きだ。対等でいられるしね」

 「私、じゃなくても」

 「いいや、君より美しい女の子を僕はいまだかつて知らない。だから君が欲しい」

 「……それ、ほとんど、告白、だよ?わかっていて、言っている、の?」

 「分かっているよ。君のことが好きだ。愛している」

 アイルはあまりにも唐突に降って湧いた幸せに、腰砕けになって崩れ落ちた。まだ経験したことのない快感と幸福を前にして、怖い、怖いと蹲って泣きじゃくる。

 「大丈夫。僕がずっとそばに居る限り、君は幸せなままでいられる。だから、何も怖がることなんてないさ。さあ、落ち着いて。一緒に寝よう。意味は好きなように受け取るといい。どちらの意味にするかは君次第だ」

 アイルをひたすら宥めすかして、ようやく落ち着いたころに立ち上がらせた。肩を抱いて連れ立って客室へ導いた。僕は寝台であおむけになった。左腕を横たえ、寝台を叩いて見せる。

 彼女は頷いて、僕の腕に枕して寝転がった。見たところ、アイルは若干緊張しているようだ。

 「寒いね」

 「うん」

 「告白の返事は?」

 寝返りを打って僕に背を向けた。しばらくの間、むずがるように身じろぎする。

 「また、今度ね」

 そう言って、彼女は寝入ってしまった。

 全く、素直じゃない。だけどガードの堅い女はいいな、と僕はにやついた。その後の事はよく寝ていたから覚えていない。ただ、アイルのいい匂いがしたのを覚えている。

                      《3》

僕は、アイリと森の小道をひたすら歩いていた。どうして二人っきりで歩いているかというと、朝っぱらから早々にしてアイルがハリルたちに処分を下したからだ。曰く、白の大陸の端にある教会まで左遷されるらしい。飛脚をすっ飛ばして新風今日の総本山に連絡を入れたところ、了解の返事とともに使者がやて来て、彼らをさっさと連れ去ってしまった。ふと立ち止まって、この浮遊大陸の果てに思いを馳せる。

 それしても随分と長い坂道を歩いてきたものだ。

「……キツイな」

心地いいはずの風が汗だくの僕らの体を寒からしめる。

「……教会の用事とはいえどうして私がこんな目に……。うぅっ、散っ々心配したのに全部あのクズ兄が破壊神なんかになったせいだ……」

純白の少女、アイルが僕の横でこの大陸のどこかで災いを振り撒こうとしている破壊神となってしまった(らしい)兄、ケイにぶつぶつ恨み言を言っている。

彼がこの大陸のどこかで災いを振り撒こうとしている、という話には最初こそ驚かされたが、昨晩のアイルの独白が僕にはどうしても嘘には見えなかった。

アイルは我が身を抱いて、眉を顰めながら涼風に震えた。

「まあまあ、仕方ないじゃないか。

起きてしまったことはどうしようもないんだし、これからどうするかを考えよう」

はぁ、と一つ溜め息をつくアイル。

「まぁ、そうだね……。レイヤくんの発作を治める方法が見つかるかもしれないしね。もう、昨日は本当にうるさかったよ……。これが仕方なくないことだったら許してないんだからね?」

「確かに。よくあんな奇声を我慢してくれたと思うよ。本当にありがとう」

済まなそうにお礼を告げるとアイルは拗ねてしまった。

「全く、勘弁してよね」

ぷんぷんという擬音が似合いそうな様子で少し不満が籠った視線を向けるアイルと、恐々として縮こまり苦笑いを浮かべる僕。 

「あ、そろそろ教会へ着くんじゃないか?ほら、あそこ」

 僕は持っていた地図から顔を上げ、坂の上を指差した。

経年劣化のせいだろうか。

元々は純白だったことが伺える、古びた教会がそこに建っていた。

宗教的な装飾や彫刻がなされており、とても怪しげだ。

こんなところに入って大丈夫なのか、という思いが頭をよぎったが、疲れすぎて今はそんな事などどうでもいい。

僕らは棒になった足で坂をやっと登りきったが荷物を投げ出し、へたり込んでしまった。


「「 つっかれたぁーーーーーーっ……」」


背後に着いた手がジャリジャリした砂の感触を伝えた。

長い間、馬車馬のごとく歩いたおかげで体が悲鳴どころか、疲れを嘆く歌を絶唱している。

玉のような汗をかいたアイリは、同じく隣に積んだ汗まみれの荷物に枕してうなだれていた。

「なあ、アイル……。僕、もう疲れたから魔法で風を起こして立たせてくれない?もう体力が限界だからさぁ…」

僕が気力を振り絞って言うと、アイルはやれやれといったふうにかぶりを振った。

「レイヤ君ってば、何を言ってるの?私、クタクタなのにレイヤ君みたいに重い人は起こせないよ」

「え、そうなの?」

すっとぼけた返事にアイルはなぜか呆れ果てている

「私が疲れてるの見ればわかるでしょう?それに、雷魔法と磁力魔法が使えるようになったからってはしゃぎすぎ!」

「あれ?僕ってそんなにはしゃいでいたっけ」

どうもその辺の記憶がない。というか、旅の間ってアイルと色々話したり、同じ寝袋で寝た事くらいしか覚えが無いぞ。

「はしゃいでましたっ!だいたい魔子操作の限界を無視しすぎ!崖から崖へ曲芸師みたいに飛び移ったり、大岩を浮かべ上げて空中で振り回したり……、さすがに呆れちゃったよ。

さぁ、わかったら自業自得なんだから自力で立ちなさい!」

僕はすげなくアイリに断られてしまい、すっかりたじたじだ。なんだろう、もともと気が強いのか、それともこれも彼女の一面に過ぎないのか。それはともかくとしても、ここで押し切られるほど僕は柔じゃない。

「でも、君と同じ事を僕が言ったら、ちゃんと立つの?」

「あら、か弱い女の子に荷物を全部持たせておいて、何を言ってるのかしら?こんな荷物さえなければ、とっくに立ってますよーだ」

アイリは目尻を横に引っ張ってあっかんべーした。熊を数発で殴り倒すような体力を持ってるくせに、何を言ってるのだろうか。

 とはいえど、可愛い女の子に勝てないのが男のつらいところだ。

「分かった、分かった、自分でやるよ……。

【石は賢い。しかも寝坊助ぐーたらプータローなのだ。起きろ馬鹿ども、仕事しろ】」

 僕は疲れた体に鞭打ち、気怠けに立ち上がりながら、オウムが歌うように呪文を唱える。

 すると足元に転がっていた拳大の石ころが浮揚した。

それにしても道中で、散々自分に合った属性を調べては練習したが、何故こんな物理法則を無視しているようにも見える現象が引き起こせるのか、謎だ、謎である。

「あのさ、魔法ってどういう原理で発動しているの?」

「そんな事も知らないの?……全く、仕方ないわね」

 彼女の説明は少し専門的で難解だったが、何とか理解することができた。その説明は以下の様なものだった。

まず、意味魔術自体、森羅万象に込められた意味の力を引き出して合成し、操作する技術である。原始的なものでも洗練されると発動したかどうかの判別が非常につきにくく、またおまじないじみた仕草程度のものもざらにあるため、発動が非常に速い。

対して、元素魔術は全くと言っていいほど科学的だ。この世界には魔子と言われる元素群がいくつか存在し、通常の元素に干渉して、人為的に超常現象を引き起こすことができる。それらが、分子や物質と化して、生態系に様々な影響を与えているそうだ。

「へー、そうなんだ。不思議なこともあるもんだねえ」

「うん、たまに意味魔術と元素魔術を組み合わせて使える天才がいるらしいんだけれども、滅多に見かけることは無いと思った方が良いよ」

アイルは感心する僕を見て、こんなこと当たり前なのに変な人、と妙な顔をして呟いた。話が済んだので早速追加の詠唱をする。

「【頭ってのはぶつけて使うんだよ】」

 鉄扉を三度程叩いた。

ゴウン、ゴウン、ゴウンと、重厚な金属音が轟く。余りの轟音に思わず二人して固く耳を塞いだ。

 すると中から何者かの扉へ駆け寄る足音が聞こえるではないか。

「合言葉は?」

「白き風の行くままに」

「お入りください」

中の人にアイルから聞いた合言葉を即答すると、内側からかけられた鍵が耳障りな金属音を立てて開いた。

僕は渋るアイルを立たせて、重い扉を押し開いた。


そこに立っていた者は中肉中背の三十路後半くらいの男だった。

青く縁取られた白い牧師が着そうな服を着ており、種族は見たところ黒エルフだった。

鋭い切れ長の目だが、閉じているか開いているかもあやふやな薄い瞼の奥には、優しく穏やかな光が灯っている。

この人が手紙の主、レノ司祭なのだろう。

「お待ちしておりました。我らが真なる鑑アイル・イン様」

その司祭は風を表すように宙を掻き、拳を胸に当てて頭を垂れた。

それにしても妙な宗教だ。

先祖崇拝なら聞いたことあるけど生きてる人間を崇めるなんてほとんど聞いたことない。

それにそもそも彼女とって、そんな呼ばれ方でいいのだろうか?

 

少し戸惑いを隠せない僕の様子に、彼女はその困惑を感じ取ったのか、気遣わしげな視線を僕に送る。

お互い気まずさを誤魔化すように苦笑いした。

司祭は初めて僕の存在に気がついたのか、手を後ろに組み、僕を値踏みするような眼で眺める。

「アイル様。何故このような怪しげな小童を連れてこられたのかこの無知なる私にご教示いただけませんか?」

僕を不審者だと勘違いしたらしく、司祭は僕をジロリと睨みつけた。

「あら、レノったら私の一番の友達が発作で苦しんでいて困ってるから、 薬草を分けてもらいに来ようとしたのに随分なご挨拶ね?このお礼は後できっちり返してあげるわ」

「な、なんですとっ!?申し訳ありません、アイル様!そ、それだけはご勘弁を」

「そうねえ、レイヤ君にきちんと謝ってくれれば考えてあげてもいいわ」

「承知致しました。小童などと宣ってしまい大変失礼いたしました、レイヤ殿。さあ、こちらへお上がりください。会議室までご案内します」

その司祭の言葉に従って、ゆっくりと教会内を歩いて行った。

二人とも歩みが少し遅い。怪訝に思って尋ねようとする。

「そういえばレイヤ君って、歩くの速いね。そんなにせかせかしていて疲れないの?」

一本取られた。どうやらこの地域ではこれが普通らしい。世界や国が違えば生活のテンポも違うという事か。

「う、うん。僕の故郷ではこれが普通なんだよ」

「へえ、そうなんだ」

「わたくしも、レイヤ殿のような姿の方は初めてお会いしました」

「え、そうなんですか?」

「ええ、風人の草原辺りには白エルフのムラしかありませんからねえ。居てもせいぜい少数の原住民程度でしょう。たしか彼らの大体は黒エルフでしたね。旅商人の末裔らしいです。アイル様も、彼らと物々交換をなさっていたのでしょう?」

「うん、そうだよ。ドレアとサリーも、旅商人さんたちの仲間だって言っていた」

「へえ、珍しいこともあるんだね」

「……うん。でも、この大陸の隣に浮かんでいるもう一つの大陸に四つの国があってね」

「ふむふむ」

「私たちは昔から、その国々の人たちから差別されているの。だから、私たちを監視するために密偵が潜り込んでいる事があるんだ」

「アレか。前に言っていた、青の国とそれ以外の国の間でのごたごたのことか」

 「そうなのですよ。青の国は、他国からの外交的な圧力で、白エルフの方々の弾圧を押し付けられているのです。人種差別撤廃を唱えた学者や国王は……、皆ことごとく歴史の闇に葬られています。っと。着きましたね」

高さ5メートル、横幅1メートルほどもあるかと思われる細長い鉄門扉が目の前にそびえ立っていた。

「こちらが、小聖堂兼会議室です。この部屋に入る前に一つお尋ね申し上げます」

司祭は鉛の入ったソフトボールをぽいっと投げるように、それとなく重々しく尋ねた。 

「ここは、この世総ての白エルフ族の未来と幸福と、人権を守るために設立された組織です。無論わたくし達は、アイル・イン様を始めとした方々の本来のあり方を追求し、彼ら自身の真の姿を取り戻した先に、その生き方自体に真理があると信じております」

その切れ長の目がぬらりと開かれた。三白眼が僕の瞳孔を射抜く。……コイツ、マジだ。

「つまり、何が言いたい?僕にできることなど限られているが、要は僕の力を貸してほしいと?」

「差別主義組織の撲滅のため、レジスタンスに加入して下さいませ。何卒、お願い申し上げます」

そういったと思えば、レノ司祭はやおら頭を下げ、最敬礼のまま固まってしまった。

「判断材料は?」

「あなた様のその身のこなし、相当な武人の代物とお見受けしました」

「あんた、何の手札を切るつもりだよ?」

「ここで断わられた場合、何が起きてもわたくしは関知しません」

「この子がいてそれを言うか」

「このお方にも立場がありますゆえ」

僕は盛大に舌打ちをした。この化け狐が。僕はどうやらまんまと嵌められたらしい。そこら中におかしな気配がする。

「ふうん。【天怒轟雷束となれ】」

詠唱を始めた途端、壁や天井から仮面の女たちが隠れ布をかなぐり捨てて飛び出してきた。

「【邪竜殺しの聖槍(アスカロン)】」

腕をアーチ状に振り開き、その半円の軌跡から透徹した雷の槍が投射された。感電した曲者共は曲げてはいけない方向に身体をねじり、ひたすら痙攣したまま動かなくなった。

レノ司祭は塩の柱に変えられたかのようにピクリとも動かない。

「【オイ、稲妻の虜。こっち来いや】」

すると彼は僕の電気ショックによって感電した。特定の筋繊維に刺激を与えることによって否が応でも体が動く。

「な、き、筋肉が勝手に……?!」

 混乱する司祭の胸倉をガツッとつかんだ。

「喧嘩売る相手は考えようぜ?」

何を言いだそうとしても喉に声が引っかかってどうにもならないらしい。レノ司祭は押し黙ったままコクコクと激しくうなずく。

「ま、面白そうだから入ってやるよ。アイルを貧糞野郎共から守る大義名分もできるしな」

流石に凄みっぱなしも可愛そうなので解放してやることにした。いい返事が聞けてホッとしたらしく彼は目を白黒させていた。足下が相当おぼつかず、まるで雀の踊り足だ。

「ふう。行くぞ、アイル……、って」

突然の目まぐるしい暗殺活劇を目の当たりにした所為だろうか。眼にはみるみる涙が溜まり行き、肩がわなわなと震え出した。

「……アイル様?」

「レノのバカッ!!いい?今度無茶したら、謹慎処分だよ!覚悟しなさいっ」

「肝に銘じますっ、さあこちらへどうぞ!会議はもう始まっております」

そして僕らは小聖堂内へと導かれ、第三教会緊急会議が始まった。

                     《4》

小聖堂内には『衛士』と呼ばれる聖騎士たちが、円卓を囲んでずらりと座っていた。今回のイン家長男失踪事件には、どうもおかしなことがいくつもあった。

議長である衛士団長が2番目の序列を示す大きな席に着いていた。

「――――――問題は、アイル・イン様のご長兄がどこにいるかという事だが……。そうだ。レイヤ殿には、今回においての数々の事件については十分な説明をしてこなかったな」

彼は両肘をつき、口元の前で掌を重ねて僕を見遣る。神妙な顔つきではあるが、その面影からは相当な焦燥が窺える。

「ええ、僕もあまり事態がよく分かっていなくて」

あまり自己主張が強いと刺激してしまうかもしれないので、あくまで発言を控えた。

「サラ、説明してやれ」

先ほど『邪竜殺しの聖槍』に貫かれた女が、陰からぬるりと進み出て黒いフードを脱いだ。

その隠密着は見れば見るほど不思議な色をしており、衣が作り出す影だけの部分が周りの景色に合わせて目まぐるしく色を変えるので、見ていると吐き気がする。

おそらく、認識してきた敵に対して不快感を感じさせるように設計されているのだろう。

その気になればカメレオンじみた擬態も可能らしい。

「まず、アイル様の故郷であるオオムラが、例の白エルフ差別主義組織の幹部たちに焼き払われたことは皆さん知っての通りと存じます。その武装組織こそ、我らの宿敵。『六族連合』」

その団体名が出た瞬間、議場が音無き銀世界と化した。皆一様に口を固く閉ざし、顔からも感情を消していた。

「そうだな、そしてアイル様は奴らの指導者に叩きのめされ、赤の国のスラム街に売られた。……忌々しいことだ。想像するだけで虫唾が走る」

団長が辛そうに吐き捨てると、弾かれたように若いレプラコーンの衛士が立ち上がった。

「団長、今そのことをやり玉に挙げる必要はございません。問題はその焼き討ちの際に、ご長兄である『ケイ』なる方が奴らの手によって、破壊神に仕立て上げられた。突き詰めれば、その一点に尽きます」

「ケルヒ准士、出過ぎた真似は慎みなさいっ」

サラの一喝に対して、ケルヒ准士はわずかに怯んだ。

「ですがっ、私情を挟んで脱線することは会議の公正を欠きかねません」

「私的な感情を挟んでいるのはあなたの方なのです」

尚も食い下がるケルヒ准士を、サラは何でもない風にあしらった。

ぐうの音も出ない彼の言い分を正当だと囁く者、またこれかとぼやく者。皆いろいろ思う所はあるようだが明確には発言したがらない。どうやら階級序列の別が相当厳しいらしい。

 

「説明を続けます。皆さん、手元の資料を参照してください」

話を見失いたくないのでそばにいた小間使いの女性に「同じ資料を渡してくれ」と頼むと、改めて客用の末席にも調査資料が配られた。

「ケイ殿が失踪して以来、各地で不審な事件が相次いでいます。『緑の国』のはずれにある、農村の住民が忽然と消えた『サルマ村集団失踪事件』。白エルフを人類と認めない学者たちが学会で突如として発狂した『黄の国小聖山大学・連続発狂事件』。そのいずれもが、原因不明なのです。さらに次の事件が極め付きなのですが……。皆さん、巻末の参考資料をご覧ください」


その勧めに従い調査資料の巻末を見ると、透明な紫色の殻を纏った白エルフの男性の絵が、はっきりとした筆致で描かれていた。説明文によると「白エルフは生命の危機に係わる重傷を負った場合、防衛本能が暴走し、『魔人状態』と呼ばれる身体強化状態へ移行する」と書かれていた。

「ご存知の通り、我らが信奉する白エルフの方々は魔人状態へ移行すると、身体強化の代償として、特に『マギ系栄養素』が著しく欠乏します。これらは魔子と呼ばれる元素群に由来し、白エルフの生命維持に必要不可欠です。

極めつけの事件と先ほど申し上げました。赤の王都にて、白エルフの六十代男性が盗賊団に襲われ、重傷を負い、魔人化して盗賊団を壊滅させた【らしい】という事件が起きました。調査資料の4ページをご覧ください」

その言い方には何やら不穏当なニュアンスが含まれていた。まるでその事件は確かに起きたのに、同時に定かではないかの様な……。

「な、これはっ」

ガタッと椅子を蹴り、副団長が立ち上がった。議場が騒然とした空気に包まれる。

何事かと資料を査読すると。

「オイ、嘘だろっ。【憲兵隊が到着した途端に死体が目の前でひとりでに消えて、加害者のアリバイが成立した】だと?!」

僕は余りの荒唐無稽さに絶叫した。資料によれば、証拠不十分でその男は釈放されたのだという。

もし、この事件が何者かの魔法的手段によって操作されたものであるならば、これらの事件には関連性があると見れる。

「その通り。何の脈絡もなく、白エルフにたてつく人々が消え、殺され、あるいは発狂する。

――――――しかもこの一連の事件は、全てアイル様がご長兄であるケイ殿が失踪した、と証言してから数か月後に起こっています。偶然にしては、……いくら何でも出来過ぎていますよね」

サラは、この事件の直後に、と息を継ぐ。

「謎の白い生物が確認された、との報告が上がっております」

 議員の間に戦慄が走った。空気が一瞬にしてひび割れる。

「クソッ!ここに及んで、何で破壊神の眷属が出てくるんだよっ」

「団長、気をお鎮め下さい。あの災厄そのものと言える【(ウロ)】が出てしまった以上、我らが冷静に対処する必要があります」

サラは円卓へ歩み寄り、背筋を伸ばして一同を見渡した。

「私から、今回の一連の騒動の収集に関して提案します。その一、ケイ殿の足取りと生存を確認すること。その二、アイル様の警護を徹底し、また兄上殿の捜索を支援すること。その三、一連の事件に六族連合の関与があるかを捜査し、徹底的に奴らからの脅威を排除すること。皆さん、異存はありませんね?」

ケルヒ准士や副団長を始めとする面々が重々しくうなずく。

「団長、決議を」

 「本案を団長権限により、作戦要綱として裁決する。各自、隊ごとに作戦を実行せよ。以上、解散!」 

                     《5》

「だぁーっ!づがれだぁ」

千鳥足で客間の長椅子に突っ伏す僕を、やれやれと言った様子でアイルが見つめて居た。

「ハイハイ。お疲れ様。解っている思うけど、これで終わりじゃないんだからね?」

その言い分こそもっともなのだが、今は少し一息入れたいところだ。

「もー、しょうがないなぁ。少しお茶にしましょうか」

彼女は客室の窓を大きく開け放ち、年季の入った呼びベルをお茶会用のテーブルから取った。

取っ手を拍子よく降ると、ロンロンッと円かな音が鳴った。実に小気味がいい。窓からあふれ出る草原の風もあって、僕は爽快な気分を覚えた。僕はグイッと背伸びをする。

客室のドアに取り付けられたノッカーが鳴った。

「お呼びでしょうか、アイル様」

ハンドベルのような愉快な声を上げながら、女給さんがやってきた。シンプルな純白のエプロンドレスが陽光によく生えている。妖艶な顔立ちだが、いやらしさはまったく無い。

「お茶を用意してほしいの、あと家から持ってきたお菓子も食べたいな」

「ということはキャロムですね?ミツカズラ味がよろしいでしょうか?」

アイルは少し考え込むと、首をぶんぶんと振った。

「ううん、あれは初めての人には少しクセが強いし、においも独特だから止めておくよ」

「では、雨季柑とハチミツ味はいかがでしょうか」

「いいね!それにしようかしら。雨季柑って甘酸っぱいから、多分すかっとするかも」

思案気なメイドの提案に、アイルは手を合わせて瞳を輝かせた。表情が正午の太陽のように明るい。

話についていけていなかったが、少し興味が出てきた。雨季柑とはどのような柑橘類なのだろう。ちょうどキレのあるみかんのような味わいなのだろうか。

「ええ、でしたらミント水もかけてみてはいかがでしょう」

「じゃあ、霧吹きに詰めておいて。お願いするね」

「承知しました、お客様のお飲み物は何に致しますか?」

え、僕?この世界の飲み物はよく知らないのだが。ええい、ままよ!

「シュワッとしたミルクとかあったらいいな、なんて。……はははっ、まさかありませんよね」

「そういう羊のミルクならありますよ」

「えっ、あるの?!」

「ええ、今お持ちしますね」

給仕さんはにこりと素敵に微笑み、軽やかな足取りで台所へ去って行った。

春風のような彼女のふるまいをぼーっと見送っていたが、いい加減目を覚まして隣を見やる。

かく言うアイルの様子はというと、アイルが目配せを送ってきたが、あいにく僕ほどそういう曖昧なコミュニケーション手段が苦手な奴は、早々いないだろう。

僕がいつまでもどう返事を返していいかわからずにまごまごしてるので、二人とも焦れた様子だ。

頭の中に疑問符がいくつも湧き上がった。

「ねえ、言わなくても分かるでしょう?私たちはこれから何をするんだっけ?」

「え、えーと、あたまがよくまわらないんだけれど……、お腹減ったしそろそろ帰る、でいいのかな?」

「あーもうっ、何でレイヤ君まで私の言うことをわかってくれないのかな……。もういいよっ」

長い旅路による疲れと、僕が空気を読まなかったせいで相当機嫌が悪いのか、アイルは『僕にとって』凄まじい大声で怒鳴り散らした。

僕の頭の内側を耳鳴りが反響する。めまいが視界を揺らす。

「……ぁ」

彼女が気づいたときには後の祭り。

過剰な情報が洪水のように脳になだれ込み、耳鳴りとともに僕の脳細胞を燎原の火のごとく焼き付くさんとニューロンを蹂躙する。

ダメだ。僕は大きい音がとても苦手なのだ。このままではっ。

「んっ、キョッ、キョッ、キョゥッ、キュアァッ、キュアァッーーーーーーーー‼」

ついにやってしまった。

アイルは、悔然としてため息を吐いた。

それは当然だ。

なぜならば、感情的になり、配慮に欠けた怒声を放った者は他でもないアイリなのだから。

「……やっちゃった。このまま放っておいたら。どうしようっ」

アイルの末語は強く、鋭く、僕の鼓膜に突き刺さった。その慌てる様は益々ニューロンに刺激を与えた。

「っぶはァッッ‼はァはァはァはァはァはァはァ、助けギュェェーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」

体内の魔子がビリビリと震えるのを感じる。体が分子レベルで疼き出す感覚に、耐え切れなくなってしまいそうだ。

「あっ、そ、そうだ。えっと、あれ、あの吹き矢は、あった‼」

アイルは持ってきたカバンの中から必死になって探り当てた吹き矢を僕に狙いを定め針を放った。「アギャァッ!?」

頸動脈を伝って 痺れが徐々に 神経を侵していく。

不随意運動を起こしていた体も動かなくなり、 ゆっくりと無意識の海に溺れていく。

「レイヤ君、レイヤ君―――――!!」

彼らの声が聞こえた気がしたが、 感じるもの全てが闇に溶けて消えていった。

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