Entry number 1 《土蔵地獄》
男がとある家に向かっている。
その家の近くの倉から何かが見ている。
二人は変わった人生を見始めた。
ブロォォォォ、車が田辺りの道を走っている。
車に乗っているのは若い男で、仕立てが良さそうなスーツを着て、黒の帽子を被っている。そして、何処と無く微笑をしているように見える。男はふと道を見ながら思った。
(・・・随分田舎だ。コンビニあるかな。)
私は生憎こう言う所には余り来た事がない。精々、学生時代に行きたくもないのに行かされたキャンプ程ぐらいしか体験はないだろう。
しかしまぁ、田舎とは、道はガタガタだし、無駄に長い。
用がなければまず来ることはないだろう、こんな飛びっきりの用事が無ければね・・・。さぁ、急ごう、彼が待っている。―――
暗い倉の中で僕は嫌々目覚めた、地べたに寝ているせいか、いつも起きると体が痛い。
立ちあがり、薄く窓を開けた。・・・皆は起きているのか、家の中に忙しそうな御主人様とその他の人々が見える。
(良いなぁ、)僕は少しそう思った。でも、直ぐ考えるのは止めた。・・・此処からは死んでも出れないのだから。
ジャジャシャ・・・・ガタン。
砂利を踏む音が倉の外からし、その次に音がした――
私は車から降り、胸ポケットに入れてある手帳を確認した。
うむ、ここで住所はあっているな・・。問題は事が上手く行くかだ・・・。
私が家の前に立っていると、一人の女が玄関から出てきた。
「御待ちしておりました。・・・旦那様がお待ちです。」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。私―」
「そう言うのは宜しいので。・・・御早めに中へ。」
名乗ろうとすると、恐らく、家政婦に止められた。無礼な人だ。
私は車の鍵を閉め、玄関へ歩き出した。
(・・・?)何か視線を感じ、振り向く。・・・しかし誰も居ない。
妙だな・・、まぁ良い。私は帽子を外して家に入った。
「旦那様と奥様は奥の部屋でお待ちです・・・」
丁寧にどうも、と言いたいが、押さえ。沈黙を保ち廊下を歩く。
ミシリ ミシリ ミシリ・・・。ミシッ・・。
此処かな、奥の部屋には二つの影が硝子戸に写っている。
私は軽くノックをし、返答を待った。
「どうぞ。」部屋から低い声がする。私は硝子戸を明け、部屋に入った。「失礼致します。」
部屋には大きな木の机に、老人が二人居た。恐らく夫婦だろう。
「・・・座ってください」夫が話す。
「失礼致します。」私は座布団に座った。
「御遠路はるばる、このような地にに来ていただいて・・誠に感謝感激でございます・・・」
「いえ、当然ですよ。・・・それで、未だ返答を伺っておりませんでしたが・・・ここで答えていただいて・・宜しいですか?」
私は老夫婦に話した、ここまでがっつくのも珍しいだろう、それは事の重要性が余りにも高い為の焦りの現れなのかもしれない。私がこんな田舎にわざわざ来たのは、この老夫婦と行う一種の取引を行う為なのだ。それは、この老人にはどうか知れんが私にとっては生涯に関わる事で、私は酷くその先に有るものを酷く求めていた。
「はい、私共、返答はもう既に決めております故」
「つまり・・・。それは、OKと取って宜しいでしょうか。」
「・・・はい。貴方がそれで宜しければ」
私はその返答を聞いた瞬間、歓びに包まれるような感覚に襲われた。身体中に迸る感覚が走り、脳髄はそれに満たされた。
「はい・・・。有り難う御座います・・!」
「ですが、あのような物を本当に引き取って宜しいでしょうか?あんな“化け物”を」
その瞬間、私の体から歓びが失せ、虚無と怒りに満たされた。
(・・・あのような・・・「モノ」?・・「化け物」・・?)
私は、その残忍な感情を顔に出して、老夫婦に成るべく丁寧に答えた。瞳孔が広がり、目は開かれ、歯を食い縛り・・・。
「・・・はい。貴殿方の仰るような化物が・・私の様な物には。お似合いですのでね・・・。」
目の前の老夫婦の顔は徐々に恐怖の色に染まってきていた。
私は追撃ついでに、この薄汚い人間と共に居たくないので、話と取引を終わらせることにした。
「・・では、彼は。何処に居るのです?見てみたいので。」
「は、はい。奴は。外の土蔵に居ります・・。」
「では、案内していただけませんか?早く逢ってみたいので、ね
。」
「はい・・では、参りましょう。」
老夫婦は立ちあがり、次いで私も立ち上がった。
彼らはそそくさと退出し、私もその後を付いていった。
その光景はさながら殺人鬼に追い詰められる老夫婦の様だ。
玄関に降り、靴を履いて帽子を被り、夫婦を追う。
彼等は家の敷地から出て、近くの倉に向かっているようだ。―――
床に座っていると、遠くから足音が聞こえてきた。
足音が多いと言う事は御主人様と奥様かな。
・・・いや違う。もう一つ。聞きなれないのが、一つ。
誰だろう?家政婦さん?違う、こんなに足音は大きくないはずだ。誰なんだろう。ひょっとして、前からご主人様が仰られていたサッショブンって奴かな。・・・そうに違いない。
そうか、僕、死ぬのか。やっと死ねるのか・・・。
僕は立ち、身形を整えた。とは言っても、シャツをスボンにいれるだけだけど。
よし、これで準備ができた。後は。
待つだけだ―――――。
土蔵に着くと、掛けられている錠を外し。扉を開けた。
「中へ、宜しいでしょうか?」
込み上げる殺意を隠しながら中に入ると、そこには、私の求める者が居た。―――。
「御早う御座います。御主人様。」
僕はいつもの様に這いつくばって頭を下げた。
「頭を上げろ、紹介する人が要る。」
僕は頭を上げた。そこには、身長の高い男の人が立っていた。――
体には黒々と毛が生え、頭には火とには無い角が二本。だが、その手は五本に別れ、蹄ではない。簡単に言うならば、そう、牛人間、と言った所・・・。非常に私の思ったものを大きく遥かに越えている。・・・まず、まずは。名乗ろう・・・?
「初めまして。萩谷 紳介と言います。」―――。
「初めまして、ハギヤ シンスケと言います。」
男の人は僕に話しかけた。この人が僕を殺してくださるのだろうか。だったら、この人は僕の味方なのだろう。ま、僕を殺すんだけど。
「お前には今日から此処を離れ、こちらの萩谷様と過ごしていただく。」ご主人様がそう恭しく言った。
過ごす?僕の聞き間違いだろうか。でも、この人。僕の前にいて僕を見ているハギヤって人は違う気がする。・・・何だろう?――
私を見つめている・・。あぁ、なんて、なんて・・・・。
・・・可愛らしいのだ。
早くこの子と共に居たい。早くしてくれ。早く早く。
私は牛の子が汚らわしい男から何か話をされている時に、軽い興奮を覚えながら静かに立っていた。あぁ早くしてくれ―――――。
「解ったか?・・大変お待たせいたしました。」
御主人様がなにかハギヤ様に話している。
御主人様は、ここに帰るなとか恨まないでくれとか仰っていたけど。何だろう。変だな、死んだものは動かないのに。
「解りました・・・では。私はこれで、行こう。」
ハギヤ様が御主人様との話を終えて、僕に手を掌を広げて出した。何をするんだろう?
「どうしたんだい?・・・あぁ、そう言うことか。」
ハギヤ様は顔を動かした。怒っている顔でもなく、普通の顔でもない。一体どうしたのだろう?―――。
「解りました・・・では、私はこれで、行こう」
私は酷く醜い人間にこの子についての話を終え、彼に手を差し出した。手を繋ぎたかったからだ。
彼は、きょとんとしていた。差し出した手を見ても、どうすれば良いか解らないようであった。
「どうしたんだい?」
私は彼に尋ねた、だか、その質問を彼が返す前に私は自分で答えを出してしまった。
「・・・あぁ、そう言うことか」
彼は、随分悲しい事に・・。握手を知らないのだ。と。―――。
「申し訳ありません。何か不愉快な事を致してしまったでしょうか?」
僕は地に頭を着けてハギヤ様に謝った。すると、ハギヤ様は座り込んで言った。―――。
「すまない・・。もう少し早く君を知っていたら・・・。」
私は少年に謝った、何か哀しさが込み上げてきたからである。
彼は何が起こったか理解できないような顔をして居た。
あぁ、謝られたこともないのだろう。なんて、なんて劣悪な環境なんだ。とっととこんな所は出よう。
私は少年に言った。
「君の手を私の手に載せてくれないかい?ここを出よう?」
彼は、戸惑いながらも私の言う通りにしてくれた。
毛皮の触感と体温が伝わる。
さぁ、立つよ。立てるかい?そう言うと彼は、はい、承りましたと言い、ゆっくりと立ち上がった。
側に来ると、酷い匂いだ、おそらく、ここ数日は体を洗ってないのだろうと言う邪悪な考えを抑え、土蔵から出た。彼は、土蔵から出ようとすると、少し留まろうとしたが、彼にもうその必要は無いよと言うと、若干顰め面で出てくれた。さあ、早いとこ車に行こう・・・。―――。
「???」僕の頭はそれで埋め尽くされていた。ここを出る?僕は・・・ここで死ぬんじゃないのか?
でも、ハギヤ様はなぜか僕にゆっくりと話してくださった。
それに僕はどうしてか今までに感じたことの無いものを感じた。
此処からは出られない。お前は此処で生きる
そんな御主人様の言葉が無いことのように思ってしまう。
僕がいたところからハギヤ様は僕を出そうとした。
それは御主人様の御言いつけを破る事になってしまう。
でも、ハギヤ様は言った。「必要は無いよ」と。
僕は、今御主人様とハギヤ様の意見が違うのを感じて、分からなくなった。分からなくなったけど、ハギヤ様から命令されたことなので、僕は従った。
どうしようもなく分からなくなった―――。
相変わらず、彼は顰め面だ。・・・やはり嫌なのだろうか?
だが、それはこの子を放置するような、化物と呼ぶようなクズ共に彼を縛り付けることだ。それだけは、いけない。
私は勇気を出して、彼に最後の確認をした。
「此処から離れたくないかい?」
その質問をすると、彼は、硬い顰め面をさらに固くしてしまった。相当芽は深いらしいな。
そうこうしていると車にたどり着いた。
ドアーを開けて、車内に入ると、彼はドアーの前に立ち尽くしていた。あ、そうか。
私は、ドアーを開けて、彼に「入りたまえ、話をしよう」と言った。
彼は、車内に入ってくれた。ドアーは私がもう一回外に出て閉めた。
バタン、私はドアーを閉めて、席についた。
「・・・ねぇ、君。名前は、何て言うんだ?」
私が彼に問うと、彼は一言、有りません、と言った。
私は驚愕した。(名前さえないのか?まるで奴隷じゃないか)
「うむ解った。・・・では、君に聞こう。・・・君は、ここにいたいかい?」
私の質問に対して、彼は迷っている様子だった。
それもそうだろう・・・彼は恐らく、生まれてからずっとあの土蔵地獄に居たのだから。帰るところが、彼処しかないのだから。
「私はね、君の新しい家族になりたいと思っているのだよ・・・。駄目かな?」
私は捨て身の問答をした。
すると彼は、私には、解りません。と言った。
・・可哀想に・・・・・。この子は自分の考える力すら失ってしまったのだ。だったら、簡単に言ってみよう。
「君の、親に成っていいかい?」―――――。
「君の親に成っていいかい?」
・・え?僕の、オヤ・・、オヤって。何?
「申し訳ありません、ハギヤ様。オヤとは、何でありましょうか。」
そう言うとハギヤ様は目をつぶり、ため息をして言った。
「オヤとは、ね。君を育てて、一緒に生活する人だよ・・・。君の事を愛し、慈しむ人だよ・・」
オヤ・・。じゃあ僕のオヤは?どこにいるの?
御主人様はいつか仰っていた。「俺はお前のオヤじゃない。」とじゃあ、違うのだろう。何が、何なのだろう。
僕の頭はまた絡まり出した。何かが頭の中で渦巻いているようで、訳がわからなくなって。目から何かが出始めた。
「申し訳ありません、私には・・・」
そう答えると、ハギヤ様は顔を僕の方へ向け、仰った。
「君を大切にしたいんだ、君と過ごしたいんだ。君と私の家にいたいし、同じ部屋にいたい。君が欲しいんだ・・!」
目をつぶっているけど、ハギヤ様の目からは何かが垂れ始めていた。僕の顔からも同じものが出ていた。
「私は、君の言葉が聞きたいな、そんな言葉は今はやめてごらん?君の心に写る言葉を話してくれないかい?」
「言葉・・・。一体何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「・・・簡単さ、君の思うがままに話すが良い。そうすれば自ずとこうなる。」
「こ、こうかい?ハギヤ様?」
「ちがう、私の真似じゃないぞ?」
「じゃ、あ、こ、こうかな?」
「そう、それだ。一番可愛い。」ハギヤ様は、口を曲げていった
「・・・じゃあ、ファイナルアンサーだ。私は、君と一緒に、
過ごしていいかい?これまでの事を全て忘れて、ね。」
ハギヤ様は、仰った。そして、僕はすぐにその答えは浮かんだ。
今までの事を忘れるのは、簡単だ。と。
ハギヤ様はなにか僕にとって、良いと思ったからだ。
御主人様は多分僕を捨てたのだろう。だっていつも御主人様は仰っていたから。
(お前なんて生まれてこなければ良かった・・・。どこかに捨ててやりたい)あれは、良くないと思っていたのだろう。
だったら、僕はあそこに入れない。もう、捨てられてしまったのだから、だったら、ハギヤ様といたい。
「はい。わかった、僕はあなた様と居たい」
ハギヤ様が仰れた様に言ったからちょっと変になってしまったけど、僕の言葉はハギヤ様に解っていただけたようだ。
「有難う。私の“息子”よ。」――――。
私は車のエンジンを掛けた。そして、魔の巣窟から逃れるべく車を走らせた。
ブロォォォォォ・・・・。
あのクズ共が此方を見ていたが、知るか。無視してやった。
彼も、奴等を見ていなかった。やっと気付いたのだね・・・。
「ねぇ、私の息子?」そう彼に問うと。彼は疑うことなく此方を振り向いてくれた。
「なんで御座いますか?」何か彼本来の言葉と敬語が混ざっているが、別に気にしない。
「いや、何処か依りたい所はあるかい?」
無論私は彼がなんと言おうと問答無用で銭湯の類いに必ず連れていくつもりだ・・・。
ログで御座います。ご機嫌麗しゅう。
今回から初のケモノ系となる『牛の角に血は付くか』略して牛付くを執筆して行きます。
物凄くずれるスピードで書くため。
良くわからないことになるかもしれません。
何はともあれ、読んでいただいてありがとうございました。