いらっしゃい
入学式を終えた一年生達は指定された教室にそれぞれ移動し担任教諭を待つ。
席の指定はされていなかったので空いた席を見つけて座る。周りを見渡してみたが、知った顔はいなかったので机に突っ伏して先生が来るまで過ごすことにした。
出身中学が同じ者同士だろうか、それとも部活動で縁でもあったのか、何人かは楽しそうに会話をしている。
周りが楽しそうにくっちゃべってる中一人寝たふりをするのは結構応えるなあ…。
言いようのない孤独感に苛まれ、この先の高校生活を不安に思ったが、まあなるようになるさと開き直り寝ることにした。昨日は緊張で目を閉じても眠りにつけず、かなり寝不足だ。腕を枕に机の木の匂いを感じながら何も考えないでいるとあっという間に眠りに・・・
「 _藤 _っい 佐藤!」
肩を叩かれ飛び起きた。何事かと周りを見渡すと椅子に座った同級生が皆俺に注目していた。前には中年のおじさんがたっていた。
「お前なあ、入学式早々寝ることはないだろう」
苦笑いをしながら中年のおじさんはそう言うと
「自己紹介次君の番だから頼むよ。ああそうそう、このクラスの担任は俺だからよろしくな」
いきなりしくじった…。周りではクスクスと笑いがこぼれてる。
間抜けな奴だと思われてるんだろうなあ…。別に格好良く見せようなんか思っちゃいなかったけど、初っ端にこんな恥晒すとは、とほほ…。
とりあえず簡単に自己紹介をすませ席に座り直す。にやにやとした視線を感じるが切り替えよう。
その後もそつなく自己紹介は進んでいく。全員終えると何枚かプリントが配られ、授業やこの鯖目高校の校風やらの説明がされ今日は解散となった。
その足のままグラウンドに向かう。先生から配られたプリントの中に部活動が紹介されてあるものがあり、野球部は今日から見学募集しているみたいなので見てみることにした。別に熱意があるわけじゃないけど、他にやりたいこともないし、放課後の息抜き程度に高校ではやろうと思ってる。
来てみたもののグラウンドには誰もいなかったので、とりあえず部室の方を見てみることにする。
早すぎたかなと思いながらグラウンドに建てられたバックネット裏のプレハブ小屋のドアをノック。
ドタドタドタッ!
中から慌ただしい足音が聞こえてくる、勢い良くドアがぶち開けられた。
「っい、い、いらっしゃいませええ!!!」
丸坊主に眼鏡をかけた男の人がドアから飛び出して絶叫。
なにもの!?
「違うでしょキャプテン!こんにちはとかようこそでしょ」
「ぷぷぷ」
ドアから飛び出してきた眼鏡の人はどうやらキャプテンらしい。後ろにはスポーツ刈りの小さい人と身長がでかくそれでいてガリガリのもやしみたいな人がたっていた。小さい方がキャプテンに注意しているその横でもやしさんは笑いをこらえている。
「ごっごめんごめん、こんにちは野球部の主将やっている内藤です。ここは野球部部室だけどもしかして入部希望者かな?」
気をとりなおしてといった感じで内藤さんは声をかける。
「あ、はい。部活動紹介には今日も練習するって書いてあったので、け…」
「「「いやったぁー!!!」」」
野球部3人は話し途中で飛び跳ねて喜ぶ。今日は見学程度と思っていたけどこう喜ばれるとこっちも嬉しくなる。
「あの~…」
後ろから声かけられ振り向くと、綺麗な髪質の可愛い顔した男子生徒がたっていた。制服が男用というだけで顔だけ見ると性別は分からないぐらいのものだ。
整った可愛らしい顔に少し見惚れていると彼は少し困惑したような顔をする。
やべっ表情に出てたかとあたふた顔をそらし体を後ろに向けると、3人の先輩方も見惚れていた。とろーんとした顔だ。
「…」
困惑を通りこし嫌悪感をにじませ始めたのを察知し、さすがにやばいと思ったのか内藤が反応する。
「っあ、うんっ、い、いらっしゃい!ど、どうかしましたか?」
あんな美形を目の前にテンパるのも無理ないと思うが、これだと逆効果じゃねえか…。
それでも美形くんは気にもせずに話を続ける。
「ここ野球部の部室であってますよね?見学にきたんですが」
「「「…!」」」
「「「やったぁあああ!!!」」」
先輩方は信じられ無いものを見たといった顔で静止したあと絶叫した。