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思い出

 「皆さんご入学おめでとうございます!」


  校長先生の挨拶、来賓の紹介、市長や議員さん方から送られた小言葉の代読。俺は今年から入学することになる鯖目高校で入学式を迎えている。

 

 新しい季節、春一番、入学式を迎え新生活に期待に膨らませていた。受験から解放されたのもあり、今までの人生で一番晴れやかな気分かもしれない。

 

 「皆さんは本日よりこの鯖目高校の~」

 

 長ったらしい入学式のせいで若干気が削がれていたが、その程度では新入生のワクワクは消せない。

 

 「~、では悔いのない充実した3年間を送られることを願い私の挨拶とさせていただきます」

 

 「では一同ご起立お願いします」

 頭をハゲ散らかし、若干猫背の男がマイクを通し新入生に呼びかける。

 「校歌斉唱」

 1年生は歌詞を知らないので、後ろに控えている在校生や先生方が歌う。お披露目みたいなものだろう。

 心地良い歌声を耳に、ジュンこの高校に入学できたことを本当に嬉しく思った。別に校歌に感動したわけじゃない。どうしてもこの高校に入りたい理由があった。今日に至るまでの約半年を思い起こし目を閉じる。





 

 



 

 

 

 

 「落ち着けって、何泣きそうになってんだよ」

 

 捕手にそう声をかけられ、ハッとした。夢でも見ているのかと思うぐらい頭がぼんやりしている。苦笑いすら出来ない、意識がはっきりしてくると目頭が熱くなる。

 

 「緊張しすぎだろ、いつも通りいこうぜ」

 

 そういって一塁手に励まされる。

 情けない…。スコアボードには4が刻まれていた。まだ初回、いきなりの大量失点。

 決して調子は悪くなかったはず、試合前の投球練習はもちろん、アップの段階から驚くほど体が軽かったのを覚えている。だというのに思いもよらない展開になってしまった。

 

 仮に調子が悪かったとしてもこんなことは起きるはずはなかった。対戦校は聞いたことないような学校。俺たちは昨秋の新人戦でも県大会に出場したが今日の相手はそこにはいなかった。

 

 自分は良い投手ではない。分かってる。球が飛び抜けて速い訳でもないし、凄い変化球を持っているわけでもない。コントロールも、内外と高低ぐらいしかわけちゃいない。だけど良い投手ではないが、まったくのポンコツってわけでもないはずだ。

 頭の整理が追いつかず動揺が収まらない。それでも今すべきは自分の値踏みをつけることじゃない。これ以上失点しないことだ。

 

 「行けるよなジュン」

 

 そろそろ審判がプレーを再開させるはずだ。最後に確認といった感じで捕手は俺に声をかける。

 

 いけるさ。

 

 声には出さなかったが、小さく頷く。それを合図にマウンドに集まっていた六人は散らばる。

 ベンチ腰掛けている監督を見る。動く様子はない、続投だ。

 皆俺を信頼してくれている。状況は苦しいけどここで投げやりにはなれない。まずはこの回だ…。

 

 大きく息を吸って、静かに息を吐き出す。マウンドをならし正面を見据える。相手打順は下位打線に入る。がっしりとした、というには肉が付きすぎている男が右バッターボックスに入る。

 

 こいつなら大丈夫。

 

 素振りを見ても腰が入っていない、手だけのスイング。丁寧にいこう、外角をしっかりつけばフェアゾーンには打ち返せない。


 左足をゆっくりとあげる、同時に腰を回転する、ためにためて、勢いよくお尻から体を前方に投げ出す、地面に左足が食い込み遅れてついてきた腕が風を切る。指先から放たれたボールはキャッチャーミット目掛けて綺麗に走る。


 どうだ!!


 


 

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