プレイボール
地面をならす。土が盛り上がり小さな小さな山ができている。頂上には細長く白いプレートが埋め込まれている。プレートから歩幅を確認しながら6歩進み、土を足で削る。そうやって投球前には足場を固め、自分好みに山の形を変えていく。
投手をしていて最高に気分が良い瞬間だ。
俺は今グランドで一番高い場所に立っている。試合が始まる前、この時間がたまらなく好きだ。
真っ白で手触りの良い軟式球を利き手の右手に握る。
振りかぶって投げ込む。気持ちの良い直球が音を立てて捕手のミットに収まる。
いける、今日は調子が良い。状態が良い日はボールが勢いそのまま唸るようにミットに入っていく。逆に調子の悪い日はミット手前失速するかのように鈍としたボールが音もなく収まる。
投球練習を六球済ませると、向かいに座っている捕手が声を上げる。
「ボールバックー!!」
掛け声を元に、練習中だった後ろの野手達がベンチにボールを投げ返す。セットポジションから投じた球を捕手が受けると、軽やかな動作でセカンドベースへと送球する。背番号6をつけたショートが受け取り俺のもとにボールを返す。
さあ、試合開始だ。県大会初戦。中学3年の俺には最後の大会、勝って一つでも上にいきたい。出来るなら県大会を勝ち抜きブロック大会へと進みたい。そうすれば去年の先輩たちに並べるのだ。
捕手が一歩前に進み息を吸う。
「一回!声だして締まっていくぞっ!!」
「「「オー!!」」」