男の旅立ち
※この話はフィクションです
実際の名前、事件は架空の出来事となっております
俺が生まれて恐らく今日で、36年目・・・いや、もう少し経っているかも知れない
あまり差し込まない薄暗い部屋でふと思う
「今まで何をしてきたのだろう」
目の前の電子箱を眺めながら、錆び付いた頭を回転させた。
小学生時代 運動は苦手で、クラスメイトと休みの日に遊ぶことはあまりなかったが
テストでは高得点を取り、それなりの待遇をクラスから受けていた、
親や先生から「学者になれるぞ!」と期待される
中学生時代 相変わらず運動音痴で、自分からクラスメイトに話しかけることはなかった。
テストでは高得点を取っていたが、運動抜群で、テストの点数も自分より高い
「中村」に注目の的が集まっていたため、小学生時代よりも影が薄く感じた。
高校生時代 進学校に進んだ。 そこで初めていじめの現場を見た。
いじめの対象者の名前は確か・・・「佐藤」だったような気がする。
毎日毎日、上履きを隠され、弁当を捨てられ、消しゴムのカスや
泥団子を食わされていたような気がする。
俺はただ、その様子を傍観していた。
そのうち「佐藤」は転校し、新たないじめの犠牲者探しが始まった。
「俺になるんじゃないか」とびくびくしていたが、他の人が犠牲になった。
当時は対象にならず安心していた
そして大学に進んだ。 なんとなく、「彼女や友達が自然に出来ていくんだろうな」と考えていた。
しかし、新入生歓迎サークルのビラ攻撃や一人でいるときに寄ってくる宗教の勧誘に2ヶ月間耐えた。
半ば強制的に履修させられたゼミのメンバーを見ると
周りは自分以外の誰かと世間話や好きな異性の相談をし、
お互い手をつなぎ、笑っている異性同士や同姓同士がいた。俺を除いて
このときはまだ、余裕があった。
そんなものどうでも良い。 俺は俺で生きていくとね。
3年の夏休み、汗をかきながら企業説明会に参加した
特に希望はなく、適当に説明を聞き流していた。 質問タイム時に隣の男が大声で話していて
耳障りだった。
どこかの企業の面接のとき
俺は出来るだけ笑顔でテンプレと化した志望動機と自己アピールを読み上げた
「はい! この企業では・・・」 「私のアピールポイントは・・・」
(金をくれ) (ない)
何社受けたか覚えていないが結果は、全滅
まだ、親たちは慰めてくれた気がする
受からずイライラしていたこともありモヤモヤした頭のまま、大学には通った
4年目だった気がする
ゼミの周りでは「どの企業が・・・」 「俺なんて・・・」
と無意味な話をしている
その中で、馬鹿そうな男が「俺、○○会社受かったわーwww」と自慢していた
「マジかよ、吉岡すげーじゃん!」なんて声が聞こえてくる
(「は? それは俺が志望した中でマシだった企業じゃねーか」)
(「なんで無遅刻、無欠席で毎回講義に出ている俺よりも遅刻と欠席常習犯で
不真面目なやつが採用されているんだよ・・・」)
(「俺とやつとどんな差が・・・」)
考えた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
気がついたらトイレで胃液を吐いていた。 頭が熱くなり、目の下に水滴が垂れた。
「ふーっ! ふー・・・」出るのは息だけで、もう出ない。
「ふー・・・うぅぅ・・・」泣きながら体が崩れ、便器に前髪少しがかかったが気にせずに
冷たい便器に身を預け泣き続けた。
俺は誰からも必要とされていない
それが最後の記憶だった。 あとは何も覚えていない。
ぶよぶよの太った体に、伸ばしっぱなしの髪
俺はある決断をした。
復讐だ やつらは俺を馬鹿にしていたに違いない 今も、こんな醜い生活を送っていることを
知ったらあざ笑うだろう これは復讐だ
決断すると、立ち上がり 寝巻きのまま、机の上にあった小銭を持つと部屋を出た
玄関に向かう途中、母親の姿を見た
頬はやつれ、眼には涙を浮かべて何か言っている
俺はただポツリとつぶやいた「行ってくる」
全てが懐かしく、すごく暑い
少し歩いたところで吐き気が襲い掛かってきたが、これは復讐のためだと言い聞かせ
重い足を気合で持ち上げた
すごく暑い
町は変わっていた 八百屋はつぶれ、名前の分からないスーパーになっていた
暑い 重い
歩く人の目が気になる 見られているんじゃないかと
あの暗い空間に戻りたい
午前6時・・・俺は寝ている準備をしている時か そう思うと、おかしな気分だ
復讐だ
俺は駅にいた
幸い、切符の買い方は忘れていなかった 誰とも話をしたくないからだ
○番ホームに電車が通過いたします
あぁ、懐かしい 最後に聞いたのはいつだろう
この第一歩で、生まれ変わってやる そして、復讐してやる
俺は第一歩を踏み出した