芯
「ボクにはわからないね、キミがどうしてそんなにも矛盾しているかが。」
僕の見知らぬ人が目の前に立って、そう淡々とつぶやいた。
僕は思った。まだ名前も個性も道すがらも知らないこんな子供に、なにも言われる筋合いなどない。
「君には、理解できないだろうね。それはそうさ、この僕でさえ理解できていないのだからね。」
目の前にいる子供に毒を吐き棄てるかのようにして、僕は小ばかにした。
「ハハハッ。やはりね、ボクが想ってたとおりだよ。」
「なにがおかしい!」
「キミは、ボクに出逢う前…思っていたでしょう。考えていたでしょう。価値・存在を。」
「君には、どうでも良いことじゃないか!いいから、ここから消えてくれよ。」
「消えない。」
「はあ?」
「ボクは、消えない。」
「もう一度、云ってみろ!」
「ボクは、消えない。」
「消えろ!」
「ボクは、消えない。キミが、キミ自身で気付くまでは…」
僕は目の前にあったパソコン、携帯、筆箱、ノート…身の回りにあったあらゆる全てを奴にぶつけた。だけど、奴は動じずに頬えみ返してきて喋りだした。
「いててっ。痛いじゃないか…、痛いのはぶつけられた身体じゃない。この当てられた気持ち、このボクの気持ちが痛いじゃないか。モノに八つ当たりするもんじゃない。それにキミは解っているはずだ。それで誰かを怪我させたくないことも、知っているはずだ。いいか。ボクは、いくら八つ当たりされても構わない。だけどね、それで変なところにモノが飛んでいっていることは…知ってるかい?キミは、何も自分のことを理解してないじゃないか。どうして理解欲しいと思うなら、正面からぶつからない?モノを投げてこない?それは、自分でも何で悩んでいるのかが判らないんだろう?判らなくてわからなくて、塞ぎこんでいるんだろう?キミは、ボクに逢うのが始めてだと思ったんだろ?」
目頭がなにか噴出したかのように、熱く痛かった。とにかく、ココから打破したい気持ちで一杯だ。
「キミの気持ちは、わからなくもない。ただ、キミは…キミ自身を殺しているよね。」
「そんなこと無いっ!!!」
僕は、散らかりきったモノの中からカッターを取り出した。
「ん…?…じゃあ、どうしたいんだい?」
奴は何かを待っていたかのように、この世のものとは思えないほど優しく微笑んでいた。
「…ぉ、お、お前を、殺す!そ、そして、とにかく落ち着かせるっ!」
「ぅん、そうか…。キミの言葉には、うんざりだよ。カッコ好さがないよ…」
「…ぅるせぇぇぇぇーーーーー!!!」
「なら、、一思いにヤればいい。それが、キミの抱えてた一つである…優柔不断にも繋がるんだ。」
「ぅるせぇ。うるせぇっ!!」
「結局は、キミが一番苦しんでいる。何が原因なのか。いや、原因がわからなくても…誰かの傍で落ち着いて眠れればそれ満足だというのにね。傷つけたくない、でも憎たらしい。でも、すごく寄り添いたい。それが、キミの…」
僕は一思いに、奴のもとへと走った。
「さぁ。」
奴は、僕を駆け込むようにして両手を広げてる。
「背負いなさい。一生、背負いなさい…」
≪ドサッッッッ!!≫
「ぼくがぼくであるために きみがきみであるために…」
「…………っ!!」
「やすみなさい ゆっくりと」
「……ぁっ!!」
「…だいじょうぶ これからはしずかなよるが」
「ぁぁあ!!」
「きみがのぞんだこと ぼくがのぞんだこと」
「っくしょーーー!!」
「いたい?」
「…解って欲しいだなんて、わがままだって知っているよ。だけどね、誰かと誰かの傍で眠れさえすれば、こんなことにはならなかったと思う。人を観て、人を感じて、一歩踏み入れる。また、踏み入れる。本当の自分がどれでさえ判らなくなった後、それはやってくる。」
「強さが欲しい。芯の強さが欲しい。」
「あげようか?」
「いらない。」
「包帯あげようか?」
「いや、あのさ、その前に…」
「あぁ、はいはい。」
「いていててっ…」
「深くやり過ぎなんだよ…」
「お互い様だよ」
「どう…答えは見つかった?」
「いいや。」
「どうしようか。」
「何が。」
「やっぱり、憂鬱感から抜け出せない」
「ボクも」
「僕も」
「解ってくれるかな」
「母親にも困らせてるんだ。兄弟にもだけど。無理だよ。」
「そうか…」
「君の身体は、あといくつ傷作れば強くなるんだい?」
「キミこそ、あと何度…人の心を痛めつけたら素直になれるんだい?」
「「わからないよ」」