ロジーナ、いきなり魔弾を放つ
<登場人物>
ロジーナ・・・12歳。初級魔術師。5歳のころから内弟子として修業している。
マリアンヌ・・・16歳。初級魔術師。名門貴族のご令嬢。
ブルーノ・・・15歳。初級魔術師。
ハンス・・・14歳。初級魔術師。
カルロス・・・22歳。上級魔術師。内弟子。
クレメンス・・・師範魔術師。師匠。
低級者用の修練場では各自それぞれ、自主訓練をしていた。
先ほどからずっとマリアンヌとその取り巻きたちが、おしゃべりに花を咲かせている。
マリアンヌは数年前に入門した名門貴族のご令嬢だ。
魔術師といえば、危険を伴う職業というイメージが強く、入門するのは圧倒的に男性が多かった。
だが近頃では、魔術師の活躍する場所も多様化したことと、初級魔術師程度ならば、さして危険を伴わないという認識が広がり、良家の娘たちも、習い事気分で入門するようになってきていた。
マリアンヌもそういったご令嬢の一人だった。
マリアンヌは、その血統の良さと美貌に、元来の勝ち気な性格も加わり、入門当初からめきめきと頭角を現し、今や女子の一大派閥のトップとなっていた。
今日もマリアンヌたちは、修練場のほぼ中央に陣取り、訓練そっちのけで、いつ果てるともないおしゃべりを続けていた。
娘達の甲高い声とけたたましい笑い声に、気の短いブルーノは我慢ができなくなった。
「あー、うっせー、うっせー。うるさくて訓練になんねー」
ブルーノはわざとらしい声でぼやく。
「はぁ? ブルーノ。なにか文句あるわけ?」
マリアンヌがブルーノをジロリと睨む。
他の娘達も口々に文句を言いはじめた。
「おい、マリアンヌ。訓練しないなら外に出たらどうだ」
反省する気配もない娘達の様子にハンスもイライラしながら言った。
ハンスはマリアンヌより、2歳ほど年下ではあったが、6歳のころから修行にはげんでいる。
この世界でははるかに先輩だ。
「なんですって。ハンス、あんた生意気よ」
マリアンヌが目を吊り上げ、甲高い声を出す。
「そうよ。マリアンヌ先輩に向かってなんてこと言うのよ」
娘達の文句はさらにヒートアップする。
「あー、うっせーうっせー。集中できねーよ」
とうとうブルーノが口をとがらせながら、娘達に向かって大声を出す。
「集中できないのは、あんたが未熟なせいでしょ?」
マリアンヌは片眉をあげて小馬鹿にする。
「うっせーよ。ブス」
「なんですって!!」
二人はにらみ合う。
娘達はマリアンヌに加勢し、口々に文句を言いだす。
修練場内は男子と女子に分かれての罵り合いになった。
突然、マリアンヌとブルーノに向かって何かが飛んできた。
一同、反射的に飛び退く。
それ――魔弾は床ににぶつかるとパンっと弾けた。
「あっぶねー」
ブルーノは魔弾の飛んできた方を睨んだ。
色白で小柄な黒髪の少女――ロジーナが澄ました顔をして立っていた。
「おい、あやまれよ」
ブルーノは低い声を出す。
「邪魔」
ロジーナは表情を変えず、少し大人びたツンとした声で言った。
「なんですって!! ロジーナ。あんた生意気よ」
四つも年下の痩せっぽちな子供の態度に、マリアンヌは目を吊り上げる。
が、ロジーナはどこ吹く風というように、再び自主訓練をはじめた。
「おい。無視すんじゃねーよ」
ブルーノが薄眼でジロリと睨みながらうなった。
「そうよ無視すんじゃないわよ」
マリアンヌも甲高い声で言った。
「雑魚」
ロジーナは自主訓練をしながらポツリと言った。
「はぁぁぁ?」
マリアンヌはものすごい形相でロジーナを睨む。
「おい。もう一度言ってみろよ」
ブルーノが一歩前に出る。
「雑魚がうるさい」
ロジーナは二人の方を見ようともせずに言った。
「このやろー、雑魚かどうか思い知らせてやる」
ブルーノが呪文を唱えはじめる。
「そうよブルーノ、やっちゃいなさい!!」
「おうよ」
ブルーノはロジーナに向かって魔弾を放った。
ロジーナは動かずじっとブルーノの魔弾を見ていた。
綺麗に切りそろえられた黒髪がなびく。
魔弾はロジーナの顔のすぐ横をすり抜けただけだった。
「くそっ」
ブルーノは地団駄を踏む。
「なにはずしてんのよ」
マリアンヌがキンキン声でブルーノに文句をつけた。
「うっせー手加減してやったんだ」
ブルーノはムッとしたように叫ぶと、ロジーナに向かって魔弾を放ったが、やはりかすりもしなかった。
「こうなったら私が」
今度はマリアンヌが魔弾を放つ。
ロジーナは瞬時に魔弾を練ると、マリアンヌの魔弾に向かって放つ。
ふたつの魔弾がぶつかり、パンとはじけた。
「なっ……」
ロジーナは目を丸くするマリアンヌを眺めながら小馬鹿にするように「クスクス」とわらった。
初級魔術師といえども、ロジーナは幼いころから内弟子として、日夜訓練に励んでいる。
年齢制限さえなければ、とっくの昔に中級魔術師になっているくらいの実力をもっていた。
「ムカツク」
マリアンヌはロジーナを憎々しげに睨みながら、かすれ声でつぶやいた。
「二人とも、もう終わりなの?」
ロジーナは絹糸のような黒髪を揺らしながら、わざとらしく小首をかしげてみせた。
「許さない」
「ぶっ殺す」
マリアンヌとブルーノは怒りで真っ赤になり、ロジーナに魔弾を次々と打ち込んだ。
最初のうちはブルーノとマリアンヌだけだったが、いつしか他の者たちも加勢しはじめた。
ブルーノやマリアンヌの仲良しだけでなく、どさくさに紛れて勢いで加勢する者もでてきた。
終いにはその場にいたほぼ全員がロジーナに向かって魔弾を撃ち込んでいた。
ロジーナは飛んでくる魔弾を、おかっぱ頭を揺らしながら鮮やかにかわし、魔弾を練る。
そして、身をひるがえしながら魔弾を撃ち、飛んできた魔弾に中てて相殺する。
返す手でシールドを練り、飛んでくる魔弾を受け止める。
「クスクス」笑いながら、いとも簡単にかわすロジーナに、マリアンヌやブルーノたちはイライラを募らせていった。
ふと、攻撃が止んだ。
不気味な静けさだった。
静寂の中にピーンと張りつめた緊張感がある。
この空白は、みんなの暗黙の了解なのだ。
各自、それぞれの目の前に複数の魔弾を作り出す。
そして、呼吸を合わせる。