入門
ロジーナがクレメンスの元に内弟子として引き取られてきたのは、カルロスが中級魔術師になってすぐのことだった。
カルロスは、事前に強大な魔力を持った女の子が入門する話をきかされてはいたが、ロジーナを見たときには驚きを隠せなかった。
ロジーナはカルロスの知っている、他の幼い子供たちの様子とはかけ離れていた。
年齢のわりに身体が小さいというのは、孤児ということもあるのでさほど驚かなかったが、子供らしからぬ無表情に、何ともいえない気分になった。
ニコリともしないどころか、ピクリとも動かないのだ。
黒々としたつぶらな瞳は何も見えていないのではないかと疑ってしまいそうになるほど、光を宿していない。
大人びた顔の造作も加わってか、まるで冷たい陶器の人形のようだった。
本当に血が通っている、生きた人間なのだろうか。
あの瞳には何が映っているのだろうか。
見れば見るほど、疑問がわいてくる。
一体、何があったのだろうか。
何がこの子の表情を奪ってしまったのだろうか。
不気味で空恐ろしくあり、また同時に哀しさも感じずにはいられなかった。
「カルロス。ロジーナだ。今日から内弟子としてここで暮らす。見ての通りまだ幼い。くれぐれも頼んだぞ」
クレメンスにそう言われ、カルロスは大きく頷いた。
「俺はカルロスだ。よろしくな」
そう言って、ニコッと微笑みながら、握手をしようと手を出した。
ロジーナは無表情のまま、ビクッと後退した。
そして、カルロスを瞬きもせずに見つめながら、警戒するようにクレメンスの陰にスッと隠れた。
「おっ」
カルロスは目を丸くした。
ロジーナはクレメンスの陰から、無表情な顔をのぞかせている。
その子供らしい仕草に、カルロスは安堵の笑みを浮かべた。
「ロジーナ。案ずる事は無い。カルロスは私の弟子、私たちの仲間だ」
ロジーナはしばらくじっとカルロスを見つめていたが、恐る恐るそばに寄ってきた。
カルロスは動かず、ニコニコしながらじっと待つ。
ロジーナは、慎重にカルロスの差し出された手を観察した後、おずおず右手を伸ばした。
「よろしくな」
カルロスはロジーナの手を力いっぱいぎゅっと握る。
ロジーナの眉間にしわが寄った。
カルロスのバカ力は、幼いロジーナには脅威のようだ。
「イタイ」
たまらず抑揚のない声でロジーナが抗議する。
「おっと、わりぃー」
カルロスは慌てて手を離した。
ロジーナは左手で右手を抑え、カルロスを上目使いに睨んだ。
「ごめんごめん」
カルロスは頭をポリポリ掻きながら詫びた。
そんな二人を穏やかに眺めていたクレメンスは「フフフフ」と笑いながら去って行った。