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原初の地  作者: 竜胆
2章:手血肉燐の都
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主の間


「グルルルルル……」


 現れたのは、肩と頭が合体してしまったのかと思うほどに首が太く両足には巨大な鉄球が繋がれているかのような彷獄獣。

 ……繋がれているのは鉄球ではなく人の顔だった。片手は斧のように変形しており全員が似たような恰好になっている。

 何故か三匹とも、上の頭から管のようなものが自分の牢屋の奥へとつながっている。

 牢屋という特異な場所による特定変化をした彷獄獣なんだろうか。

 

 気だるそうに現れた彷獄獣は、ゆっくりとこちらへと詰めてくる。一気に襲ってこない辺り、逆に不気味だった。


「多分……この先が、眠れる主の居場所だと思う」


 ルルの声に、ヒューズたちの雰囲気が変わる。

 戦うのかとナイフを抜いていた俺の手を制した後、ケルト達を呼んだ。


「出番だ。頼めるか?」

「任せてください。此処まで来て苦痛に負けるなんてことはないですよ。ベネチカが瓶、左からケンドール、マーサだ」


 そう言って、4人は前に出た。

 そして――


「ゴギャ? ガアアアアア!!」


 3匹の彷獄獣に一気に詰め寄ると、振りかぶる斧の攻撃を避けて大木のように太い体へと体当たりをかました。

 しかし、彷獄獣は一切びくともすることなく空振りした斧を再び真上から振り下ろす。


「ぐあああああ!!」


 ズシャッという鈍い音が悲鳴と共に鳴り響く。

 背中から腹部まで貫通し、臓物が地面にボタボタと零れ落ちた。

 他の二人も、同じように腕を落とされたり腹を切り裂かれたりと致命傷に近い傷を負っている。

 それでも、しがみ付いた腕を放さない。

 

「行くぞ!」

「え? え?」

「彼らハ、時間稼ギ」


 残った一人が、力尽きようとするケルトの前で瓶を割った。すると足元に魔法陣が展開され、力尽きようとするケルトの傷がみるみる回復していく。


「もうずいぶん昔に使うのを辞めた、彷獄獣の封印術ですの。粘筋を浄化し彼らのマナを混ぜ合わせることで体組成物質を作り出す術ですので、あの場に居る限り彷獄獣のように粘筋から力を得られて、あの場に彷獄獣を縛ることができますの」


 無限に復活する彷獄獣を、どうにか止めるために編み出した戦い方だった。

 3人は悲鳴を上げながら、俺達に先に進めと訴える。


「動けないなら殺したほうが!」

「下手に手を出したラ、拘束が外れかねなイ」

「俺達は、ココで耐え続けます!! 早く先に!! 」

「もたもたするな! あいつらの苦痛は俺達が居る限り続く!」


 走り出す全員の後を、俺は追いかけた。

 チラリと走りながら後ろを振り向けば、がむしゃらに切りつけてくる彷獄獣を押さえ、それでも耐える3人の悲鳴が響き続けて――突如、3人は弾け飛んだ。


 ……え?


――ぞわっ


 唐突に、鳥肌が立った。

 3匹の彷獄獣の頭部から生えていた管だけが空中を彷徨うと、補助に残った一人の頭部へ突き刺さったのだ。

 ビクンと体が震え、脱力したように見えた。

 残りの二本が、うねうねと動いたあと此方へとすごい速さで伸びてくる。


「走れぇぇぇぇ!!! 来るぞ!!!」

「っ!?」


 あの未知の何かに追いつかれると、ヤバい気がした。

 管の憑りついたベネチカという女は、正気を失った幽鬼のようにこちらへ不気味な動きで走って来ていた。





「なんだ!?」

「道がっ!!」


 死ぬ気で駆け抜けた牢屋の先は、突如として道が崩れるように途絶えた。

 そこには、粘筋で出来た大穴が存在した。

 先が見えずかなり深いようだが、スロープのようになっており斜面はなだらかだ。


「なんでこんな穴が!? 牢屋だよなここ!?」

「わからん! わからんが、降りるぞ!!」

「私が先に行きます! タイマルネとグリッチが殿を!」


 キプロスが、飛び込みながら叫んだ。


 すぐ背後に迫って来た管は、ネルの矢と相性が悪いらしく、すり抜けるように迫っていた。

 さらに、正気を失ったベネチカの姿がおかしい。走ってくる間にまるで土左衛門のようにぶくぶくに膨れ上がっている。


「飛び込め!! 爆発するぞ!!」


 俺達の近くにやって来た彼女の姿は、もはや原型を残さない程膨れ上がっていた。


 全員で、滑るように粘筋のすり鉢に飛び込むと同時に、後方で爆発音が鳴り響いた。




「うおおおおおーー!!」

 

 途中から粘筋のスロープは角度を急な物に変え、スピードが上がっていった。

 粘液により、なすすべもなく滑り台を滑り落ちようやく終点にとまった。


「ぶっ」

「きゃぁっ! どこ触ってんのよ!」

「ぶへっ」


 先を滑っていた俺の顔に、ルルの尻が滑り込んできた。

 なんで俺が殴られなきゃならんのだ。揉むぞコラ。


「管は!」

「途中で止まっタ。全員生きてル?」

「聖女さま! 無事ですの!?」


 全員が息を荒くして、状況の確認をする。

 8人全員が、無事にたどり着いている。

 俺もとげぞうの無事を確認すると、周囲を見渡した。

 

 なんだこの空間は? 


 そこは体育館よりも広大な空間に、巨大で真っ赤な六角柱のルビーのような物が、空中に浮いている場所だった。


 城の地下にこんな広大な空間があったのかと、一瞬呆気に取られてしまった。


 異質な空間だ。天井に生えるウデワナの群れからは何やら白い靄のような物が流れ、宝石の柱へと吸い込まれていく。

 更に下を向く先端から、キラキラとした何かが流れ出て粘筋に吸い込まれていた。


 確実に、ココには何かがある。今までとは違った何か得体のしれない雰囲気が漂っている。


 皆が、同じことを考えて居たんだろう。赤い宝石に視線が向かっている。


「ここは……なに?」

「あれは……」


 ルルの呟きに、マズローが指をさして見せた。

 その方向を見れば、俺達が滑って来たのとは別の、上の方に開いている大きめの穴から何かが這い出てくる。


 それは、先ほど乳の間で見た落し児だった。落下するように部屋へと侵入すると、何事もなかったかのようにペタペタと部屋を歩いていく。


「アー! ダー!」


 狂った顔をしたまま喜々として歩いていく赤子。

 その先に、俺達は視線が固まる。


「あ……あれが……?」

「多分間違いないだろうネ。見なヨ……手が震えてル。私の中の彷獄獣があれに反応してんだネ」

 

 見れば、マズローも、一緒に来たキプロス達4人もブルブルと震えている。

 巨大な赤いクリスタルに気を取られて、気づかなかった。


 俺達の丁度向かいにある、紫色の壁。

 そこに埋まるようにして眠っている巨大な顔があった。

 寝ているかのように安らかな表情の、埋まった顔だ。

 額には第三の目があり、うっすらと半目になっており白目の無い紫色の宝石のような瞳が見えている。

 そこに、赤い柱からの光が流れ込んでいた。

 

「アー! アッアッアッ!」


 巨大な赤子が、壁に向かって母親に抱き着くような動きで近寄った時だった。

 周囲の粘筋がドクンと脈を打った。 

 ズルズルと言う気持ちの悪い音が、空間内に響く。

 見ると、顔のあった場所から下の粘筋が盛り上がっていく。

 

――ゴゴゴゴゴゴ……


 低い地鳴りのような音が木霊する。

 盛り上がった粘筋は胸部を、腕を、足を……。

 肉体を作り出していく。


 やがて現れたのは、巨大なヒトガタだった。


管が本体。※スガではない

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