ひっさつわざ
「胎道を通って来ただと……?」
「それしカ、手は無かっタ。アイツ等は納得して逝っタ」
「そんな……!」
「申し訳ありません。彼らからの申し出ですの……」
ネルたちは、胎道と呼ばれる別ルートを通ってこの場へ来たらしい。そこは、道の全てを腕罠で数百メートルに渡って覆われたルートで、赤子しか通ることの出来ない道だったそうだ。
抜け道の出口として存在しているのは周知されていたが、とてもじゃないけど通れるような道ではないと放置されていたのだ。
だが、ある情報をきっかけにルートとして検討されたそうだ。
そう、俺とキュリが駆け抜けたあの情報だ。
それを覚えていたネルたちは、急遽胎道のルートへと移動し、赤子を利用してそこを駆け抜けたという。
……多大な犠牲を払って。
そんな都合よく、落し児がその場所を通るわけはない。
あの赤子は人の死体を固めて出来た卵から孵化をする。
材料は死体。そこで、ネルたちは仲間を肉団子に変えた。
粘躰は彷獄獣のルールに適応されるため、死ねば粘筋に溶け肉団子にはされない。だが、教会に魂を戻される粘躰の術式を切れば、死体に魂は残り続け肉団子に利用される程度の時間放置しても死体は残るわけだ。
しかしそれはつまり、肉団子にされた人間の完全な死を意味していた。
「アナタ達が死んでたラどっちにしろ全てが終わりだっタ。こうやって合流できたのハ、彼らのお陰だヨ」
「……俺に、あんなミスを犯した俺にとやかく言う権利はないな。すまなかった」
ルルはショックから言葉も出ないらしい。
重苦しい空気が、彼らを包み込んでいた。
「おい」
「ん? えーっと、ヒューズ……だっけ?」
少し離れた場所で、とげぞうと二人で座り込んでいた俺に、男が話しかけて来た。なにやらニヤニヤとしていて嫌な感じがする。
「魔結晶の粉とはな。とんでもねぇもん持ってるなお前」
「ど、ども?」
「それ、まだ持ってるんだろ? 俺が貰ってやるよ」
「はい?」
ぶしつけに意味わからないこと言ってくるこのおかっぱボーイは、なんだろう。確か、先行組で彷獄獣を大量に引きつれてあの大トレイン引き起こした奴だよな?
「俺が役に立ててやるって言ってんだよ。お前が今生きてられるのは、誰のお陰かわかるか?」
「えーっと……」
少なくとも、死にかけたのはお前のせいだってのはわかるんだけどな。
俺の何とも言えない微妙な顔が癪に障ったんだろう。おかっぱは明らかに不快な顔で、舌打ちした。
あ、分かった。
誰のお陰ってそりゃああんた――
「とげぞうさん、ありがとなぁー。君のおかげで生きてられるわ」
「きゅー?」
「マズローさんだろうが!」
マズローさんだったかぁ。残念不正解。
「マズローさんがお前を見捨てずにここまで連れてきてくれたおかげで、お前は生きてられるんだ! わかったら足手まといらしく少しでも俺達の役に立て」
あー……これあれか。
腐れ坑道を突破したの、マズローのお陰って言いたいのかな? 確かに状況だけ見ればマズローが死にもの狂いで戦って、俺達を連れてきてくれたみたいな感じか。
まぁ、それは百歩譲って良しとしよう。泣きながら体育座りしてたことなんてばらす必要もあるめぇ。
んで、なんでおかっぱが威張り散らして俺の最後のライトパクろうとしてるん? これ作るのに俺がどれだけ苦労したか知ってるのか? もうこれ最後なんだぞ?
威力見てほしくなったか知らんけど、消えろボケ。
いや待てよ。そもそもおっさん、何とげぞうの手柄横取りしてんだ?
よくよく考えると、ライト狙われるよりすげぇ不快なんだけど。やっぱ号泣体育座りバラしていいかな?
俺がおっさんの社会的生命活動の息の根を止めに走ろうとしたところ、何かを感じ取ったんだろう。
おっさんたちがこっちにやって来た。
「おい、ヒューズ!」
「あ、マズローさん聞いてくださいよ」
何か不穏な空気を感じ取ったのか、間に入ろうとしたヒューズだったが、ネル、ルル、ラニャの三人が立ちふさがった。三人は小さく手で抑止すると、首をフルフルと横に振る。
いや、ココはゲンに任せましょうじゃねぇよ。
お前ら絶対おもしろがってるだろ。
そんな様子を見てだろうか。
「聞いてくださいよ! この恩知らず、マズローさんに助けてもらったくせに魔結晶の粉を隠し直そうとしてやがったんですよ! 自分の身を守るためにこんな使えるもん独り占めしやがって! この盗人野郎め!」
シルエット亀頭野郎は何か勘違いしたのか我が意を得たりとばかりに鼻息を荒くして捲し立てる。
うん? 別に隠し直そうともしてないし、何なら今持ち物整理で普通に鞄から出してたけど?
そもそも、俺の持ち物を俺がどうしようが勝手だと思うし、教会では持ち物は共有しなさいなんて教えでもあるんだろうか。にしても、俺は別に教会の人間になった覚えはない。
すでに王種の骨を勝手に食われてる時点で、盗人はお前の方だ。
「あー、あのだな、ヒューズ……」
さすがに見るに耐えたのか、マズローが亀頭に何か言おうとしたが、なんかもうめんどくさくなったしサクッと話を終わらせることにした。
「……ゲームしてあんたが勝てば、これはやるよ」
「は? なんで俺がそんなもんに付き合わなきゃなんねぇんだよ。獄夢を終わらせる瞬間に立ち会いたいがために無理やりついて来た寄生虫の癖しやがって」
「そもそも俺の物なんだしそれくらい良いだろ?」
あー、俺ってそういう認識だったのね。ルルたち、もうちょっと俺について説明してくれててもよかったんじゃねぇの? おかげでこんなめんどくせぇことになってるよ。
ゲームのルールを説明してやれば、憎たらしく笑いながら了承した。どうやら、単純なゲームなので完全に勝てると判断したらしい。
残念だったな、このゲーム受けた時点でお前の負けだよ。
「じゃあいくぞ、俺の差すほうを向いたら負け、釣られず向かなけりゃあんたの勝ちだ」
「っは。さっさとかかって来い」
くっくっく。馬鹿め。俺の指は今、謎の触手によって無限に存在する! 同時に全方向指せる俺に負けなんざ存在せんのだよ! 俺の完璧な策に溺れ死ぬがいい!
俺は、ゆっくり指を向けた。
「あっちむいて、……ほい!」
「ふしゅっ」
「ぎゃあああああああああ!!! 目がああアァァァァ」
掛け声と同時に、人差し指の第二関節から飛び出した白い触手が上下左右を差し……ん? 悲鳴?
顔を押さえのたうち回るヒューズを見て、俺は理解した。
あー。そういえば、俺達の必殺技って【あっちむいて、ほい】だったなと。
とげぞう、グッジョブだ。
「……あー、みんな聞け。地下で何があって、どうやって帰還したのかすべて説明しておく」
頭をポリポリと掻きながら、マズローが全員を集めた。
どうも、ごみむしです。
ちょっとラスボス(台風10号)が屈伸してるので、装備を整えるのに忙しいです。
また、事後処理もありますので数日更新がとまるやもしれません。
そのままちょっと更新のスピード落ちるかもしれません。
では、生きてまた会いましょう。