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原初の地  作者: 竜胆
2章:手血肉燐の都
92/144

無双1

中途半端だったので分けます。

今日更新できたらします。



 耳を真っ赤にしたマズローが再起動したのは、それからしばらくして。


 朝ごはんは何が好きかと言う話から、次第に話がヒートアップしていった時のことだった。


 ゲンはご飯と味噌汁だと言い張り、パン派のルルと罵り合いになっていた。

 マズローをリングに残したまま、すでに場外乱闘へと発展している。


「味噌汁はな、なんていうか……こう、救われなきゃいけないんだよ」

「あやふやすぎる謎のセリフでグルメ語るの辞めてくれない? その言い方だと味噌汁救われてないみたいだし」

「お? 言うじゃねぇの。貴様もしや隠れ味噌汁派だな?」


 二人に和解の兆しが見えるも、それが叶うことは無い。そもそもルルは、晶の知識でしかご飯と味噌汁を知らないのだ。

 調子に乗ってルルの好物(ポタージュ)を貶めるゲンに、ルルのアイアンクローが炸裂した。


 ちなみにとげぞうは、二人の罵り合いが遊んでると思ったのだろう。何だかわからないけど楽しそうとばかりに、キュッキュと興奮して足元で飛び跳ねている。


「お前ら……ほんと、俺が居なかったらここから生きて出られないの理解してるのか?」

「あががが……。お、おっさん復活か。出陣できる?」

「……すまんかったからもう勘弁してくれ」


 吹っ切れたような顔をしたマズローがようやく立ち上がり、一行はようやくこれからのことを考え出すことになったのだった。




 いくら身動きが取れずに仕方なくふざけていたと言っても、この場所がいつまでも安全なわけではない。


「で、ゲンには何か策があるの?」

「んー、一つある」


 ルルが問えば、ゲンは神妙な顔で返事をするではないか。

 二人は、ごくりと息をのんだ。


「俺に魔法を教えてもらって、その魔法でどうにかするってのは?」

「却下。ゲンのMPは良くて3程度よ」

「回復魔法一発分!」 


 ゲンが大げさにガーンと頭を抱えた。


 もちろん、この世界での話ではなく前世でプレイした国民的ゲームの話だ。

 回復魔法なんて使えるのか? と話についていけないマズローは完全に置いていかれている。


 この世界の人間は、魂口と呼ばれるアウラを吸い込む器官の形状で後衛型、前衛型の成長が決まる。

 ゲンも、自分が超前衛型の魂口であることは理解していたためそれ以上は粘らなかった。


「んー、まぁ大人数だったら無理だったけど3人なら時間かければ何とか……」

「あのなぁ……。ここは獄夢(ヘルムメア)の最深部だぞ? お前が何を出来るっていうんだ」


 ゲンのひょうひょうとした態度に、マズローが呆れて反論した。そして事の重大さを理解しろとばかりに重々しく続ける。


「過去に一度、此処に似た場所に来たことがある。ココはな、有事の際に王族が避難するための通路の一つだ。枝分かれしているが逆走すれば確かに最終的に王城にたどり着くだろう」

「よくもまぁ都合よく逃げ込めたなと思ったら、この道の事知ってたんだな」

「あぁ……存在はラニャに聞いてた。ただし、数々の罠を潜り抜けようやく抜けた先は、立ちはだかった王種によって完全に塞がれていて、早々に破棄された古いルートだ」

「王種と戦えるんだから、今なら問題ないんじゃ?」

「問題は王種だけじゃない! 数多の罠と、道中の彷獄獣、当時ですら何回も全滅してようやく確立したルートだ。此処は全くルートが出来上がってないんだぞ!」


 地上の化物だらけの道を知ってなお、この隠し通路を選ぼうとしないだけの理由はその時の攻略のあまりの悲惨さにもあったんだろう。


 荒げた声は響き渡り、奥からかすかに反応した彷獄獣の声が響いた。もう、それほど時間は無い。


「……俺は、ずっとそう(・・)だったよ。仕方ない、助け呼んでくるから頑張って隠れててくれ」 


 ゲンはそういうと、一人歩き出した。


 一歩踏み出すと、通路を埋め尽くす屑種と呼ばれる指の虫が、波が引くようにザザっと道を開けた。

 まるで、ゴキブリが覆い尽くす下水道のようだとゲンは顔を顰めたが、とげぞうがおもちゃを見つけたように追いかけまわしている。


 ゲンの言葉にカチンときたマズローは顔を顰めながらも「どうするんだ?」と、ルルを見た。


「私は……ゲンを信じるわ」


 そういうと、ルルはゲンの後を追って歩き出す。

 マズローは、頭をかきむしると悪態を吐きながら追いかけるしかなかった。




 


「な……なんだ? 何が起きている?」 


 ゲンに着いていってしばらく。

 ルルとマズローは驚愕と呆れから開いた口が塞がらないで居た。


 もう、何時間歩き続けただろうか。5時間、10時間……いや、もしかしたら1時間程度しか歩いていないのかもしれない。ただ、疲労感はそれだけ強かった。


 それでも、3人は無事に通路を進んでいる。

 どうせすぐに引き返すしかなくなるだろう、そう思って黙ってついてきていたマズローは困惑していた。

 

 通路は、流石は濃い霧の溜まる最下層だと思えるほど奇妙な場所だった。曲がりくねり紫色の肉で覆われた通路は所々小さな穴が開き、膿のような汁がドロドロとしたたり落ちている。まるで菌糸類のような腫瘍で天井は膨れ上がり、至る所に腕罠や、胃液の噴水、蠢く髪の毛玉が存在した。


 腐れ坑道。

 そんな名前がぴったりだと思った。


 マズローが過去に進んだ道とそう変わらない。

 定期的に彷獄獣が徘徊し、奴らは飢えているのか共食いまでしている。


 そんな中を、ゲンは普通に歩いていた。

 いや、普通と言うと語弊があるだろう。確かにゆっくりとした歩調で、周囲に気を使っているのはわかる。

 しかし――


「んー……、そこ、怪しいからちょっと待ってて」


 聖獣と呼ばれるハリネズミが威嚇音を上げると、ゲンが立ち止まり周囲を見渡す。そしてしばらく壁や地面に物を投げたり罠を作動させたかと思えば、何かをゴソゴソしたあと普通に歩き出すのだ。


 明らかに罠の解除を行っている。

 だが、それが何の罠で何故それに対応できるのかルルもマズローも理解できなかった。


 最初は、大丈夫だと言われても信じられず何度も自分でも確認して進んだが、同じことが何度もあればもはや疑いようがない。


 そもそも、ゲンの恰好からしておかしい。


 何故、粘筋を背負っている? 目の穴をあけ頭からすっぽりと被った姿は、最初新しい彷獄獣かと思って焦ったほどに異質な見た目だ。何がどうなっている。粘筋は見た目より柔軟で固く、簡単に傷を付けれるようなものではないはずなのに。

 こんな利用法、見たことも聞いたことも無い。


 この格好を見てルルは何も言わないので、よくわかっていないのは自分だけなのだろうか。

 

 いい加減、意味が分からなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とげぞうが今日も可愛い。 [気になる点] とげぞうの戦闘能力はどれくらいなのか?相性によっては兵種くらいとは渡り合えるのだろうか。 [一言] やっぱゲンが活躍するのはサバイバル環境。
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