未定
タイトルは後日変更します。
「っが! っぐ!!」
物凄い力で引っ張られ空を飛んだ体はすんなりと結界を抜け、そのまま激しい勢いで地面に叩きつけられ転がった。
手からは鎖が抜け、視界が回り何もわからない。
「う……ぐ……」
地面を5回ほどバウンドしたころようやく動きが止まったものの、三半規管がシェイクされ朦朧としていた。
ただ周囲から、がやがやと大勢の叫ぶ声のようなものだけが聞こえている。
は……入った……?
「気を付……!! 劣種……ガタが……!!」
「くそっ!! だから巻き取り式……なんか……だ!! …………こいつ!?」
「だからっ…………見殺しに出来るか! ……もう限…………だ!!」
「いいから早く運べ!」
グワングワンと響く頭に、微かながらも意味のある言葉が流れてくる。
ひ、人の声だ!!
本当に、人の声がする!!
ここは中か!!
それを聞いた俺の心が、歓喜に沸いた。
だが、それも一瞬の事。
「があああああああ!!!」
脳に火花が走り、焼き付いたかと思うほどの衝撃。
慌てて起き上がろうとする俺の体に、そんな余裕など微塵もなかった。
俺は腕を押さえ付け、激しく地面を転がる。
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
叩きつけられ、強打したのは黒化した俺の腕だ。
「ひぃぃぃ!! がああああうあああああああああ!!」
……こ、呼吸が出来ないっ!!
ぬああああああいってぇぇぇぇぇ!!!
人! 人が居るのに!!
ぐううううううおおあいあああがああ!!
人が居ることはわかっている。
自分がやり遂げたという事も。
そうだ、ココは教会の中だ!
だが、その喜びを激痛が掻き消していった。
「……ふっ……はっ……はぁっ」
永遠に続くと思われたそんな痛みでも、人はしばらくすると慣れてくる物らしい。
少しずつ、少しずつ痛みがましになってきた。
その間に、少しずつがやがやとした周囲の声も収まってきていた。
ようやく、俺の頭に思考が戻ってきた。
と同時に押し寄せてくる、歓喜。
ひ……人だ。
俺はやったぞ! 生きて教会まで来た!!
あの鎖は、俺を助けてくれたのか!?
こ、声を掛けないと!!
あぁ、涙が出そうだ。
俺はやり遂げた!!
俺は、痛む腕を押さえながらもなんとか顔を上げた。
助けてくれ! 目が覚めたら一人きりで、何が何だかわからないんだ!
外の化け物はなんなんだ!? 何度も死にかけたし沢山の人が死んだぞ!!
何が起こってるのか教えてくれ!
そう、叫ぼうとした。
「おい、さっさと殺せ!」
……え?
だが聞こえてきたのは、死地を抜けて来た俺を気遣う気なんて微塵もない慈悲の無い言葉。
そこには、警戒と恐れの顔が並んでいた。
「しかしなんだこいつ、さっき粘筋から飛び出てきた奴だよな? あんな動きする奴初めて見たぞ。新種か?」
「おい気を付けろよ。片腕だけ黒いのは何か危険かもしれないからな」
ヒソヒソとお互いに探るように声をかけ、武器を構えているものまで居る。
人垣の真ん中には、俺しかいなかった。
状況についていけず、一瞬呆けてしまう。
色とりどりの髪をした、白人に似た男達。
間違いなく、俺の知っているこの世界の人間たちだ。
ま……まて、こいつら俺のことを話しているのか?
しかもそうこうしているうちに、剣を持った男が俺の方へと歩いてくるではないか。
お、おい嘘だろ?
まさか俺の事、化け物と勘違いしてる? なんで!?
「ぐ……ぐぅぅ!! 待っ……がああああああ!」
なんとか近づいてくるのを阻止しようと声を出そうとするが、声にならない。
体のどこかを使おうとすれば、痛みに全てを持っていかれてしまう。
い、嫌だ。
やっとたどり着いたっていうのに!!
人の手で死ぬなんて嫌だ!!!
声っ!! 声が!!
そんな俺の心に反して、腕は脈を打つように痛み苦痛にもだえる事しかできない。
やがて男が俺のすぐそばに立ち、剣を振りあげる。
「死ね! 彷獄獣め!」
あああああ糞がああああ!! 動きやがれえええ!!!
大きく息を吸い込み、なんとか、なんとか声を振り絞ろうとした。
「まっ――」
――――ゅぅぅ……!
――え?
その時だった。
俺の耳に、何かが聞こえた事で世界が止まる。
そんなことが起こるわけないのはわかってる。
それでも俺は、その瞬間本当に時が止まったように感じた。
ただ、トクントクンと脈打つ心臓だけが止まり切れず心地よいサウンドを響かせる。
う……嘘だろ?
そんな馬鹿な、なんでこんなところで?
死ぬ間際の、幻聴?
遠くから、微かに聞こえた音に俺の心の全てを持っていかれたような感覚。
目の前に近づいている男も、腕の痛みも、教会の風景も何もかもが薄れる。
いや、幻聴なんかじゃない。
俺の耳が、この音を聞き間違えるわけがない。
何が何だかわからないけど、間違いない。
そうか、こんなところに居たのか。
それは、小さな鳴き声だった。
その音は、一瞬で大きくなり、振り向いた俺の目の前に現れる。
「っきゅぅぅーーーーーー!!!」
棘団子が、目の前を跳んでいた。
「あ……あ”ぁ”……!」
目から、一瞬にして洪水のように涙があふれ出てずっと見ていたいはずのその姿が歪む。
とげぞう!!!!!
会いたくて、会いたくて仕方なくて頼りたくて話したくて抱きたくて。
もう二度と会えないのかもしれないと思う事が怖くて出来るだけ考えなかった。
あぁ、やっぱりお前は元気だったんだな。
そうだよな、お前は俺のパートナーなんだ。
俺が死ぬ前にお前が死ぬなんて絶対ありえないよな。
不安に思ってた俺が馬鹿だった。
ありがとう、生きていてくれて。
大好きだ馬鹿野郎!
俺は、痛みなんてわすれて両腕を差し出した。
その愛しい姿を抱きしめるために。
涙で前が見えなくても分かる。
とげぞう! とげぞうとげぞうとげぞうとげぞうとげぞう!!
さぁ、来い!
そして――叫ぶ。
震える声で、その愛すべき名を。
「どげぞう”ぅ”ぅ”――」
「きゅううぅぅぅぅーー!!!」
あ。
「う”んぎゃああああああああああああ!!!」
棘ミサイルは、見事に俺の黒腕へと着弾した。
「っきゅ?」
ガギィィィイイン!!!
俺の悲鳴と共に鳴り響いたのは、固い物を叩いた音。
痛みに仰け反り、とげぞうと共に転がった俺の脇を通った剣が石の床を叩いた音だった。
んっぐぉぉぉぉ!!
心で悲鳴を上げつつ腕を押さえ、尚且つとげぞうも抱えながら俺は必死に転がり次の一撃に備えようとする。
だが、続く攻撃はなく発せられたのは驚愕の声だった。
「聖獣様!?」
そう叫んだ男の手が止まった。
聖獣様?
意味も分からず、俺は男から距離を取る。
腕は痛む。痛むがもはや動けないというほどでもない。
右腕の中では、俺の腕から逃れようともがいているとげぞうの感触が伝わってくる。
あぁ、とげぞうだとげぞうだとげぞうだとげぞうだ。
なんでお前そんな元気そうなんだよ!? あはははは! 何だよお前、草原で倒れたのは治ったのか!?
俺の心は、とげぞうでいっぱいだった。
針のことなんて忘れ、思い切りとげぞうの背中に顔を近づけ頬ずりする。
あぁ、鼻腔いっぱいにとげぞうの匂いが広がる。
愛おしすぎて、涙が止まらない。
そんな俺ととげぞうの感動の再会を、周りが邪魔をする。
「見ろ! 聖獣様が止めを刺そうとしているぞ!」
「いや、捕まったんじゃないのか!? 噛みつこうとしてるぞ! まずい! 助けて差し上げろ!!」
周りの男たちがさらに騒ぎ出し、一気に人が殺気立って押し寄せてきた。
っく。
意味が分からないが、とにかくとげぞうだけは守らなければ!!
再会の挨拶もまだだけど、覚えてるか!?
「なんだてめぇらはぁぁぁ!! とげぞう!! 打ち上げ――」
とげぞうとの範囲攻撃の必殺技、打ち上げ花火を身構える。
威力は声の張りで抑えてあることは伝わっているはずだ。
とにかく、今はここを鎮圧する!
会いたかったはずの人間は、俺の中ですでに敵として認識されつつあった。
腕を緩め、とげぞうを自由にした。
とげぞうが俺の腕から一気に頭へと昇る。
――花火!!
そう叫ぼうとした。
「きゅーっ!」
「っ!?」
頭上へと登ろうとしたとげぞうが、俺の頭を飛び越えそのまま背中の方へと転がっていく。
着地に失敗した!?――ちがう、フードが脱げた?
どうやら死肉を潜っているうちにいつの間にか被ってしまっていたフードをとげぞうが脱がしたらしい。
「剥けた!? ひ……人?」
同時に目の前に居る男からも、困惑の声が漏れる。
それでも、目の前のおかっぱの男は止まらなかった。
「っく! 騙されるか!! 死ね!!」
「おい、まてっ。ティーバ!」
死ぬかぁぁボケェェェ!!
俺は体をひねり攻撃に備え、何とかその場を切り抜けようとしていた。
後悔するなよ! とげぞうと一緒の俺は無敵だ!!
人なんか知るか! 邪魔する奴はぶっ殺す!!
場は混迷を極め、俺は男に向かってなんとか反撃をしようと試みる。
だが、その混乱は思わぬ形で終息することとなった。
「ティーバ! 下がりなさい!!」
「っ!?」
そんな緊迫した場に突如響いたのは、女性の声。
男がその声に驚き止まった。
「聖女様!?」
今度は何だ!?
あぁもう、色々ありすぎてお腹いっぱいなんだよ!
なんだかわからんが、とげぞうとの再会を邪魔するな!!
イライラが頂点に達した俺は、女性の声のした方向を睨みつける。
この…………おん……な……。
一瞬、俺は呆然としてしまった。
そこに居たのは、真っ白な長い髪を二つに束ねた、16歳くらいの少女の姿。
その姿に、意識を持っていかれてしまった。
従者らしき女性を引きつれ駆け寄った少女が、男たちを手で制している。
さらに少女は声を荒げた。
「彼に手を出すのを禁じます!」
「しかしっ――」
「彼は人間です!! 剣を捨て下がりなさい!!」
「っ!?」
ティーバと呼ばれた男も、その言葉に驚き剣をその場に置くとじりじりと下がっていく。
「に……人間?」
「まさか!? 生きたままたどり着いたってのか!?」
少女の言葉に、周囲に動揺が広がっていく。
そして、近くに駆け寄ってきた少女が俺の前へとやってきた。
目の前に立ち止まった少女は、まるでこの薄暗い教会の中でも後光が射しているようだった。
敵意を持っていたはずの俺も、いつの間にか見惚れてしまったほどの美しさだ。
少女がその場で膝を折り、手を差し伸べる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……ずっと、ずっとお待ちしておりました。レイヴァオール教会へようこそ、ゲン」
それは、とても優しく旧来の知己に会った時のような穏やかな声だった。
またせたな!




