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原初の地  作者: 竜胆
1章
8/144

たからのやま

大改稿中


 思わずアリ達の恐ろしい一面を垣間見てしまったが、ここまで来て今更引き返すわけにはいかない。そのままアリ達の列へと戻り、先へと進み続けた。


 さらに数分も歩き続けただろうか。洞窟の中の空気が変わったように感じる。途中でいくつかの脇道から別の行列も合流して、さらにアリの列は長くなったようだ。おそらく入り口がいくつかに分かれているんだろう。


 この辺りはいろいろな匂いを混ぜ合わせたような匂いが漂い、さらに空気の流れが止まってどんよりとしている。


 全ての入り口がこの辺りに集結して、あとは奥まっていくばかりなのだろう。外に出るためには最低でも今いる辺りまで戻ってこないといけないようだ。


 さらに、アリ達の動きにも変化が現れた。今まで一糸乱れぬ行進を続けていたアリ達が、各々違う道に進みだしたのだ。俺はどいつに着いていくか迷いながらも、最初に枝分かれした場所に入っていくアリについていった。


「ここは……」


 右曲りの通路を抜けると、中は小部屋になっていた。日本での俺の部屋よりちょっと広いくらいの大きさだろうか。たたみ10畳といったところだ。部屋の中には甘酸っぱい妙な匂いが充満している。


 その中に、数匹のアリがたむろしている。今入っていったアリはそのたむろしているアリに、咥えていた肉のようなものを渡すと、外へ出て行ってしまった。


「ここが食糧貯蔵庫……ではなさそうか?」


 中で待機していたアリが手渡された食糧をグチャグチャと噛み潰している。食べているというわけではないらしく、そのまま部屋の中央にある高さ2メートルほどの柱? のような物に吐き出してくっつけ出した。


 何だろうこれは? アリ塚みたいだけど、アリはここにでかい奴がいるしな。何を作ってるんだ?


 恐る恐るその謎の柱へと近づいてみると、腐った肉らしきものが何か白っぽい結晶のようなもので固められているように見える。


 どうやらここは食肉加工場のようだ。おそらくだが、こうして防腐処理を行っているのだろう。


「さすがにこれは……怖くて食えないな。先にほかの場所を調べてみよう」


 いくら腹ペコでも、紫色の肉片に白い粉が噴いた謎の物質を食う勇気はない。


 ここで分かったのは、食材によってアリ達の入る部屋が決まっているのだろうということ。腐りやすいものなどはこうやって一度加工しているのだろう。


 なんにせよ、この部屋はハズレのようだ。だが、ほかの部屋にはもしかしたら無加工で保存されている食糧もあるかもしれない。


 俺は来た道を戻り、今度は木の実を咥えているアリについていった。


 この周辺の道はいくつも道が分かれており、どうやらアパートやマンションのような作りになっているらしい。本道があり、脇道に入るとすぐに部屋があるといった感じだ。いくつかの部屋をスルーしたあと、木の実を咥えたアリが部屋へと入っていく。


 俺の胸は期待で高鳴っていた。


 甘いにおいがどんどん強くなり、口の中によだれが溢れてくる。


 ドキドキと激しく鼓動を刻む心臓を押さえながら、早足で短い通路を抜けると――


 そこはパラダイスだった。


 かすかな指輪の光に照らされたのは、木の実、木の実、木の実、果実、果実、果実。


 まるで昔話で見た海賊の宝物のように無造作に部屋に詰まれた色とりどりの果物たち。


 俺はその果物の山を見た瞬間――跳んでいた。


 まるで水泳の飛び込みのように頭から果物の山へと突っ込んでいく。


 ――ゴッ


「ってぇ!」


 いくらテンション上がったからと言って、ルパンダイブをするには果物のベッドは硬すぎた。


 頭を打ち悶絶する音に反応して一瞬アリが周囲をうろつくが、すぐに部屋から出て行ってしまった。


 この部屋には常駐しているアリはいないようだ。


「よっしゃーーー! 食い物だーーーー!!」


 アリが居ないことを確認した俺は、心の底から歓喜の声を上げた。


 そしてそのまま果物の斜面に背中を預け無造作に果実を選ぶと、指輪の光で軽く確認してから一口齧った。


「うんまぁっ!」


 手に取った果実はウリに似た形をしており、厚めの皮ごと齧ると甘い果汁があふれ出てきた。


 そのまま皮の部分を吐き出し、中の果肉を貪る。


 溢れ出す果汁で顔中がベトベトになっているが、そんなことはまったく気にならなかった。


 呼吸を忘れて溺れる寸前になって、ようやく息を吸う。


うますぎてうますぎて何も考えられないほど夢中で食べた。


 1個目をあっという間に食べつくすと、次の果物だ。毒があるかもしれないなんて考えは、部屋の中に入った時点で銀河の彼方へ飛んで行ってしまっていた。とにかく一口食べてみて美味しかったら食べつくす。見たことのない歪な形の果物や、先ほど食べ損ねた岩のような皮のメロン、超巨大なベリー系の物など、満腹になるまでひたすら口に運んだ。


「ぺっ、これはあんまり美味しくないな」


 お腹が膨れてくると、人間味にうるさくなるらしい。美味しい果物を山の中から選り分けていく。もちろんお持ち帰りするためだ。


 俺の中でストライクだったのは岩皮のメロン(ロックメロン)。見た目通り硬い皮の中身は真っ黄色で、一口食べると電気のようなピリピリとした感覚が口の中に広がるが、それが心地いい。


 そしてもう一つは最初に食べたウリのようなやつ(炭酸ウリ)。炭酸のようなシュワシュワとした果汁が、喉越しさわやかでたまらなかったのだが、どちらもいまいち栄養がなさそうなので別のものを持ち帰ることにした。


 とりあえず持っていくものとして、各種食べてみて美味しかった奴の種は全部持っていく。


 何に役立つかわからないし、新種だったりしたら大変だからな。種くらいなら持っていても邪魔にならない。  


 次に、どんぐりや栗のような木の実関係。これらは栄養がありそうだし、小粒なため持ち運びが楽だ。日本では見たことのない種類だが、生で一個齧ってみると、少し渋みがある程度で食べれないことはなさそうだ。火を通せばかなり美味しくなる可能性もある。


「さて、あとは……と」


 数種類の握り拳大の果物たちを集めていく。リンゴやオレンジのような奴だ。だが、俺が知っている物とは特徴が違っている。


 光源が弱すぎるため、選別がいまいち捗らない。とにかく持てるだけ持って帰らないと再びここまで戻ってくるのは大変だ。


 数十分かけて集めた果物や木の実たちは、着ていた上着を風呂敷のようにして持ち運びやすくまとめた。久しぶりに胸の傷を見た気がする。


「よっこら……せっと!」


 集めた果物は結構な量になったせいで、かなり重い。


 欲張りすぎだろうか? 上半身につけていたダンゴムシの殻プロテクターはボディバッグのなかに仕舞っておいた。


 上半身裸に風呂敷を背負った謎の格好になってしまったが、洞窟の中は体を引っ掻くようなものも無いので怪我をすることは無いだろう。ジャングルの中では草で肌が切れるため、そういうわけにはいかないが……。







「……あれ? こっちじゃなかったっけか?」


 食糧貯蔵庫を出てみると、アリの行列もひと段落していたようで行列が途切れていた。


 アリ達が居ないというわけでは無いのだが、うろうろと辺りをうろついてはよくわからない動きをしている。見回りでもしているのだろうか。


 あれだけいたアリ達は、食糧を置いた後洞窟の奥へと進んでいったようだ。


「奥には俺は用事がないからなぁ……アリの行列をたどっていけば外に出れるとおもってたんだけどな」


 とりあえずそこまで分かれ道は多くなかったので自力で戻ろうと思っていた矢先だ。


 見知らぬ分かれ道が俺の前に現れていた。


「こんな分かれ道なかったよな……?」


 どうやら俺は大量の脇道を見落としていたようだ。


 このアリの巣は、入り口から入ってくるときは分かれ道がみえづらいようで、単調な巣穴に見える。しかし、中から外へ向かうときは外に向かって枝分かれした道が増えるため、入るときに気付かなかった分かれ道が見えてしまうのだ。そうなると頭の中で描いていた洞窟の構造が一変してしまう。


 だが、それでも俺はまだ楽観視をしていた。アリに襲われる心配がないのだからそのうち外にたどり着くだろうと。


「どこだよここ?」


 しばらく迷った末にたどり着いたのは、奇妙な部屋。


 かなり広いようで奥が見えないその部屋には無数の白い卵型の物が、一定間隔で規則正しく並んでいる。


 中にはいくつか萎んでしまっているのも見えるが、何かが入っていたのだろうか?


「なんだこれ……? でかいな」


 その白い物は俺の身長より少し小さいくらいだ。底の部分は粘着性の液体のようなもので地面とくっついている。


 俺はその白い繭のようなものを杖でつついてみた。


 ブヨブヨとしており結構やわらかいそれは、俺が数回つつくと中で何かが大きく跳ねるように動いた。


「うおっ」


 ――ブシュ


 驚いた俺は思わず杖を持つ腕に力が入り、杖の先端がその白い繭に突き刺さってしまった。


 慌てて引き抜いた杖の先端を見てみると、なんだかねばねばとした液体が付着している。


 俺が開けてしまった穴からは液体が流れ出ており、ゴポンという音が鳴ったかと思うと、その穴から何か尖ったものが見えた。


 細長いかぎづめのような尖ったものが数回見えたと思うと、それが穴にひっかかり一気に繭を引き裂く。


 ドロドロとした液体と一緒に、何か大きなものが中から流れ出てきた。


 中から出てきたそれは、真っ白な羽化したばかりのアリだった。


「ここは……アリの羽化場か」


 中から出てきた白いアリは、まるで生まれたての小鹿のように足をプルプルとさせながら立ち上がろうとするが、すぐに転んでしまう。


 こういうのを見るとついつい応援してしまうんだよな。シマウマの出産とか、ドキュメンタリー番組でひたすら応援しているときにハイエナに食われちゃったときはマジでハイエナに殺意がわいたからな。がんばれアリ。ここにはハイエナはいないから時間をかけてゆっくりでも立ち上がるんだ。


 何度かよろめきながらも見事に立ち上がったそのアリは、漸く外の環境に慣れてきたのだろうか。ずいぶん安定して歩き出したかと思うと、俺の方へそのまま歩いてきた。


 お? なんだ? 応援してくれた俺にお礼でもいいに来たのか?


 なんてな、どうせこいつにも俺のことなんて見えてないんだろう。


 よたよたと、余裕をぶっこいて見ていた俺のすぐそばまで白いアリがやってきた。そして、白い顎を大きく開いたと思うと――俺の太ももに噛みついた。


「ぎゃあ!!」


 完全に油断していた俺は、無様な悲鳴を上げながら持っていた杖で思い切り白いアリを殴りつける。


 ベコンという鈍いような、何か柔らかいものを叩いたような音が周囲に鳴り響き、太ももを挟む力が弱まった。


 俺は慌てて後ろに転がると、振り向きざまにもう一発杖を振り下ろす。


 振り下ろした杖はアリの頭に直撃すると、頭の甲殻を突き破った。


「ギュチーー!」


 グシュっという音がなり、アリの頭から銀色っぽい煙が立ち昇る。


 その煙は周囲に飛散すると、俺の胸の辺りにもまとわりついた後消えていった。


 白いアリは死んだようでピクリとも動かない。


「ちくしょう……太ももは……無事みたいだな。羽化したばっかりで甲殻も顎も柔らかかったみたいだ。まじあせった」


 挟まれた太ももは、顎の尖った部分が少しだけ刺さっただけで済んだのでほとんど血も出ていない。明るいところでみないとはっきりわからないが、多分大丈夫だろう。


 ……やってしまった。この巣穴にはハイエナはいなかったけどもっと危険な人間が居ました。


 いやまて、俺は悪くないよな? こいつが俺のこと襲ってきたから、正当防衛なはずだ。きっと成り立つはず。あ、でも背中に傷を負わせてたんじゃ正当防衛成り立たないんだっけか? 最初に背中殴っちまったよ。まぁいいか、こんな森の中じゃ誰も俺を罪に問えないしな。


 それにしても何だったのだろうか? 今まで俺のことなんて全く相手にしなかったアリが、いきなり俺を襲ってきた。もしかして今まで俺を襲わなかったのは偶然? それとも、羽化したてで物珍しくてじゃれついてきた? そうだったら悪いことしちゃったな。


 アリの骸を見つめながら思考を巡らせていると、後ろで気配がした。

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