ありのす
大改稿中
「あそこが巣穴なのか? なんか思ってたのと違うな……」
アリ達は、密林の中に突如として現れた谷への入り口のような場所に吸い込まれるように入っていった。
実はあの後、木の実のなっている場所を見つけたのだが大量のアリや巨大な緑の熊が群がり木の実を奪い去っていってしまったのだ。どうやらあいつらが大量に食べ物を奪っているせいでこの森の食べ物が消えているらしい。
こうなると、他の食べ物を探すのも困難になって来た。
そこで、アリの巣なら食べ物をため込んでいるのではと閃いた天才ゲンキ君は、アリの後を追って巣穴へとやってきたわけだ。
「ここに……入るのか?」
もっとアリの巣っぽい穴の中だと思っていたのだが、どうやらジャングルを割るようにしてできた亀裂の一番端から地下へと下っているようだ。
谷底を吹く風の音がまるで化け物の鳴き声のように轟き、なんだか嫌な感じがする。
巨大な亀裂は密林の奥深くへと伸びているようで先は見えない。
「むぅ……ここが巣じゃないのか? もっとひっきりなしに出入りしているものだとおもったんだけどな」
先ほどのアリの一行が谷へと入ってから、ほかにアリは見当たらない。
もしかしたらこの奥に巣穴があって、ここはいくつかある入り口の一つに過ぎないのだろうか?
どうしようか迷いながら、俺が谷の入り口を恐る恐る覗き込もうとした時だ。
――ガサッ
俺の背後から、何かが草をかき分ける音がした。
「やべっ!!」
別動隊のアリが帰ってきやがった!
どっか! 隠れる場所は……ない!?
急いで隠れようとするが、谷の周囲は少しだけ拓けていてすぐに隠れられる場所がない。
パニくった俺は、何を考えたのか谷の中へと足を踏み入れてしまったのだった。
◇
「どういうことだ? こいつら、目が悪いのか?」
焦って谷へと足を踏み入れてしまった俺だったが、今は首をかしげて棒立ちしていた。
俺の隣を、アリの行列が何事もなかったかのように通り過ぎていく。
背後から迫って来たアリに追われていると思って逃げていた俺は、とうとうアリに追いつかれた。しかし、アリたちは俺のことを襲うわけでもなくそのまま先へと進んでいく。
俺の声には反応して辺りを見渡すような動きをするが、どうにも俺のことは見えていないような素振りだ。
どういうことだ? こいつらは完全に俺のことを無視しているわけではなさそうだ。音に反応するよう特化したアリ? 目が悪く、耳が良いアリなのか?
「なんなんだお前らは……? その目は飾りか?」
よくわからない生態を持っているアリ達をなんとなく見ていた俺は、素晴らしいことに気付いてしまった。
「あれ? これ余裕で貯蔵庫までたどり着けるんじゃね?」
目が見えないなんて、好都合じゃないか。
これだけ大量の餌を運んでいるんだ。片っ端から食べているというわけではないだろう。ということは、女王アリに貢ぐなりするまえに一度、貯蔵庫にため込んでいる可能性が高い。そこに乗り込んでしまえば、この腹ペコ状況から一気に逆転ホームランになれるんじゃないのか?
俺の脳裏に、先ほど目の前でお預けを食らった木の実の甘い香りが蘇る。
「じゅる……やべ、よだれが出てきた。行ってみるか」
俺は口元から滴るよだれをふき取りながら、アリの行列が向かう谷底の奥へと進んだのだった。
◇
谷底はやたら暗く、あまりにも暗く歩きにくいと思ったら谷底の石まで真っ黒だった。触ってみると煤のようなものがつき、コレが余計に暗さを演出していたらしい。
石がゴロゴロしてる上に黒いせいで歩きにくいな。
指輪の光があってよかったよ。グロー塗料ぐらいの微かな光だけど、有るのと無いのとで全然違う。
隠れてるときは握りしめてしまえば隠せるしな。
しばらくアリの行列に並行して進んでいると、突如現れた横穴の中にアリ達がどんどん吸い込まれていく。
「ココの中に入るのか……」
どうやらあそこがアリの巣の入り口らしい。
やっぱりアリの巣はアリの巣か。ファンタジーっぽく、谷の中に巨大な街とか築いてたらどうしようとか思ったけど、ちょっと安心した。
中は真っ暗だが、薄暗い谷底を歩き続けていたため暗闇に目が慣れてしまい、指輪が放つかすかな光でもなんとか先に進むことができた。
巣穴の中は思っていたほどは入り組んでいない。丁寧に掘られたらしく、きれいな筒状の洞窟がずっとつづいていた。大人二人が十分並んで歩けるくらいの広さだ。おそらく何カ所か外に通じる道があるのだろう。空気の流れがあるように感じる。
アリ達についていくこと十数分。分かれ道は数回しかなかった。今のところ左左右左と進んでいる。
「思ったより入り組んでないし、危険な感じも無いな」
この調子なら迷子になることなく簡単に外に出ることができそうだ。目印をつけるまでもないだろう。
途中で進行方向と違う右の道を覗いてみると、かなり広大な空間にダム型のため池のようなものが作られた部屋があり、アリの生活水準の高さが伺えた。
少なくとも俺よりはよっぽどいい暮らしをしているらしい。だが、きちんとした設計で作られていないためか部屋の中央から競り上がった堰は、所々から水が漏れているのが見える。
ああやって漏れ出る水を水道のように使っているのだろうが、ちょっとした衝撃で壊れてしまいそうで怖い。さすがに人間様のようにうまくは作れないといったところだろうか。
また分かれ道に差し掛かる。
アリ達は右にすすんでいるが、妙な音が聞こえる左の道が気になった俺は、すこしだけ左側の通路をのぞき込んでみた。
左の通路はすぐに小部屋になっている。奥の方がよく見えないため目を凝らすと、奥ではアリ達が何かの小動物を引っ張り合っていた。脇にはいろいろな種類の小動物らしき生き物が、木の根で作られた柵のようなものに囲われている。
アリ達は喧嘩をしているのだろうか、口に咥えた小動物は生きているらしくピーピーと鳴きながらもがいていた。
――ブチッ
「ピギーーーー!」
アリ達はそのままお互い譲らずに、小動物は四肢がちぎれてしまった。洞窟の中に悲痛な声が響く。
「うっ……!」
思わず声が漏れ、アリが俺の方を向いた。暗くて色はよくわからないが、おそらく小動物の血で濡れたであろうその顔はテラテラとしているようにみえ、表情を感じさせないその顔が一層不気味に見えた。
まるで遊びのつもりで殺してやがる。俺はもしかしてとんでもないところに乗り込んでしまったのだろうか?
急に怖気づいた俺は、慌ててその場を後にして先を急いだ。
蟻の大きさは、およそ1,3メートルくらい。
兵隊アリと、働きアリが居ます。