だい2章プロローグ
お久しぶりです。
いつもの病気再発で、二章を書き直しました。
気付いたらオリンピックが開かれたり開かれなかったりしてた。
もう、皆さまを裏切りすぎたので期待してくださいとは言えないです。期待しないでください。
でも、執筆は唯一の趣味ですので続けてます。
続きは来年くらいかもしれません。明日かもしれません。わかりません。
ついでに、一章の序盤もかなり大幅にカットしたバージョンにすり替わってます。
物事の変化に気づくのは、いつの世も敏感な子どもたちだ。
それが良い物でも、悪い物でも。
マニビア王国、王都ドラングスタ。
近年、亜人の支配から独立したばかり若い国の首都である。
古き街をそのまま王都とした、石造りの美しい街並みが広がっている。
独立に浮かれ王妃の死に沈んだこの国に、一人の少年が居た。
名をダニエルと言うその少年は、年のころは10歳くらいだろうか。
両親譲りの青い髪と青い瞳をしており、笑うと欠けた歯がちらりと覗く愛嬌のある少年だ。
好奇心旺盛であり近所の同じくらいの歳の子どもと遊ぶよりも一人で自分の気になることをとことん追求する方が好きだった。
それでも協調性は見せる姿が好評であり、彼の周りにはいつも人が居た。
そんな少年が、今一番夢中になっていることは、今王都でまことしやかに囁かれている数々の噂の真相を確かめる事。
それは、ほんの些細なしょうもないことやら信憑性の薄いものがほとんどであり、少年は気が済むまでそれらの噂を確かめては満足して次の噂を調べに走った。
曰く、
黄色い屋根の家には夜、妖精が躍っている。
街の中には、秘密の地下道が張り巡らされている。
宿屋の主人のお尻には、尻尾が生えている。
探索者が集まって、何かすごいモンスターを討伐しようとしている。
死んだはずの王妃が、街中を彷徨っている。
ドラングスタの街に塀が無いのは、すごい秘密が隠されているから。
こんな、ゴシップにも満たないようなしょうもない噂は、独立と共に王妃の死をはじめとした様々な混乱が起こっている王都では事欠かなかった。
ダニエルにとってそれは、最高の暇つぶしであり最大の関心ごとが次から次に溢れてくるという事。
噂を聞けば、一晩中でも黄色い屋根を見つめ続けたし、宿屋の主人のズボンをどうやったら下げることが出来るか必死に考えた。
その真相を友人たちに話しては、次のネタを集めに行った。
中でも、この最近で一番熱を込めて調べている噂がある。
それは、最近になって増えてきた王都の怪異にまつわる噂だ。
子どもたちの間に、最近はやっている噂。
それは魑魅魍魎や化け物、お化けといった怪談に近い話だ。
「ねぇ、最近ずっと誰かの視線を感じない?」
「今、ドアが勝手に閉じなかった?」
そんな、子どもが感じる日常の奇妙な現象は日に日にエスカレートしていった。
ある少年は、夜目が覚めると机が躍っていたという。
またある少年は、夕暮れ時に路地に入ると壁いっぱいの目が見つめてきたという。
王城へと続く階段が一つ増えた噂など、どこの世界にもあるような荒唐無稽な恐い噂。
そんな噂を、ダニエル少年は何かに憑りつかれたように追い続けていた。
その日、ダニエルが調べていた噂はこれまでに聞いていた噂と大差のない物だった。
「聞いてよダニエル! 俺、うちの前にある花壇に穴を掘ってたんだ! そしたら、奥の方に紫色のスライムみたいな気持ち悪い奴が逃げて行ったんだ!」
街中に、モンスターのようなものが現れるという噂はダニエルもさんざん聞いて来た。
今日聞いた噂を確かめるために、ダニエルは言われた花壇からその近くにある花壇を片っ端から掘り起こしていく。
もちろん、ただの悪戯と思われないために掘った穴には新しい花の苗を植えるのを忘れない。
結果を言えば、そこには何もいなかった。
掘り起こした花壇には、スライムどころか虫一匹居ない。
気落ちするダニエルだったが、噂の出所は明らかに街の中心から王都全体へと広がっていた。
噂の種類が増えていくとともに、王都の雰囲気は徐々に変わりつつあった。
明るい昼間だというのに、街を歩いているとなぜかいつも夕暮れ時の森の中を歩いているかのようにどこか心が落ち着かない。
まっすぐの路地だというのに、なぜか曲がっているように感じる。
大人たちは気にしていないようだが、街の中に奇妙な人が出歩くようにもなった。
顔中を包帯でぐるぐる巻きにした、異様な雰囲気の大人が住人に混ざっている。
何故大人は、この気味の悪い感じに気づかないんだろうか。
まるで怖い童話の中にでも入り込んだかのような不安が、常に付きまとっていた。
いや、もしかしたら気づいていても子どもに気づかないふりをしているだけなのかもしれない。
「なんだよダニエル。もう最近は変な噂集めるのやめたの?」
「うーん、なんだか噂が多すぎて……それになんか、最近街が変じゃない?」
「変って?」
「何だかうまく言えないんだけど……気味が悪くない?」
王都からは、いつの間にか明らかにわかるほど人が減った。
それは、王国から近いうちに王都を遷都するという突然の発表が行われたのも関係しているのだろう。
ドラングスタから西へ向かった先にある、キネルバへと国王が住居を移すのだそうだ。
その際、王都住民にも出来る限りそちらへ着いてくるように、転居の費用は王国が持つとまで言われていた。
だからこそ住民は見る見るうちに流出していき、ダニエルの家族や今話している親友のラドクリフとその家族など、最近ではこのドラングスタに残ると決めた人々しか居なくなってしまった。
「確かになんか気持ち悪いけど……んま、それでもうちはこの街に残るって決めたしな。人が減ればやっぱり違和感はあるもんだろ」
「そうなのかな……」
「なんだよ、あんなに怖い噂集めて回ってたくせに人が居なくなった途端に怖気づいたのか?」
「そんなんじゃないよ!」
「あはは! じゃあもう噂はいいんだろ? 今日は残ってる奴らで二番街まで探検しに行こうぜ!」
親友のいつもと変わらない笑顔に少し安堵したダニエルは、先に石畳の道を走っていく少年に負けじと走り出した。
ふと空を見上げれば、どこか不安を感じるほどの真っ青な空が広がっていた。
二番街は、王城に比較的近いどちらかと言えば身分の高い者や金持ちの住む地域だ。
貴族の住む一番街よりは格は落ちるが、それでも一般市民が立ち入るのはどこかためらわれる場所なため子どもたちは特別な場所だと感じよく探検と称して紛れ込んでいた。
夏の汗ばむ陽気の中、街に残った数少ない友人たちと街の中を駆け回る。
熱せられた石畳は陽炎で揺れ、容赦なく照らしてくる太陽は、石畳の上に濃い影を落とす。
頭が焼けるようで、日陰を探すようにして休憩しては近くの水場でのどを潤した。
人の少なくなった街中は格好の遊び場となり、普段は怒られる一番街に近い場所で追いかけっこをしても誰も咎めるような人は居なかった。
「さいっこうだな! 人が居ないってめちゃくちゃおもしろい!」
「うん! 最近不気味だなーって思ってたけど、これなら人が居なくても全然いいよね!」
昼食を食べるために一度みんな家に帰ることになり、またあとで集まろうと約束をした。
帰り道、人のいない事で思いっきり遊べて満足した子どもたちは口々にそういいながら汗まみれの額を拭っている。
そんな中、ダニエルだけは顔色がさえなかった。
その視線の先には、時々見かけるあの包帯まみれの異様な大人が立っていた。
何をするわけでもなく、ただじっと壁を向いて立っている。
その包帯まみれの後頭部から、一瞬なにか口のような異様なものが覗いたような気がした。
「ね……ねぇ、ラドクリフ。あの人今……」
「うん? あぁマリーさんか?」
「マリーさん……あの人が?」
「あぁ、なんか顔に大きな怪我をしたらしいぞ。痛そうだよなー」
「そ…そうなんだ」
あの包帯の正体が、近所の住民であるマリーと言う主婦であるとわかったことで、ダニエルはホッとした。
きっと、さっきの赤い切れ目は気のせいだろうと。
そういえば最近噂にばかり気を取られていて、それ以外の情報にほとんど気を止めていなかった。
ダニエルは自分の関心ごと以外の情報の疎さに反省しながら、先を行く友人たちを追いかけて行った。
二番街から三番街へと入る道の近くで、四人は角を曲がった。
この先が近道で、大通りを通るとぐるりと三番街の中央にある教会を迂回しなければならないからだ。
その細道に入った瞬間だった。
ダニエルは、とうとう出会ってしまう。
自分が追い求め、真相を追求しようとしたものの正体と。
――カラーン……カラーン……カラーン……
突然の、鐘の音だった。
教会の鐘が鳴り響いたと思えば、突如として何か地鳴りのような重低音が周囲に鳴りだした。
「な、なに?」
「教会の鐘?? でも、さっき正午の鐘は鳴ってたよね?」
一緒に居た子どもたちもこの低い音に不安になり、立ち止まってお互いの顔を見合わせた。
ラドクリフの顔だけが、見当違いの方を見ている。
驚愕の表情で顔を向けるラドクリフの方を、全員が見た。
「なに……あれ……?」
石造りの路地が続く先、建物が立ち並ぶその道の先に真っ黒な壁が出来ていた。
それは、あり得るはずのない光景。
このドラングスタの街には、壁はない。
それこそがこの街のシンボルであり、自由であるという象徴。
そのはずの街を黒い壁が覆い、それは今もなおグングンと背を伸ばしていく。
やがて黒い壁が、ドーム状に空を浸食していく。
明らかに、何かが起こっていた。
「う、うわああああ!!」
「ママァァァ」
その異様な光景に子どもたちはパニックになり、慌てて走り出した。
ダニエルもすぐに家に帰るために走りだそうとするが、親友であるラドクリフが固まってしまい置いていくわけには行かなかった。
「何してるの!? 早くいくよ!!」
「あ……あぁ……」
ようやくダニエルの声に反応したラドクリフの手を引っ張り、二人は自分の家がある方へと走っていく。
その間も、塀の高さは高くなり空の半分を覆うまでになってしまった。
教会の鐘は鳴り響き続け、大通りの方からはパニックになった大人たちの悲鳴や怒号が聞こえる。
必死に走り続けていたダニエル達だったが、その足がある場所で突然止まった。
「何してるんだ! ダニエル行くぞ!」
走っているうちに正気に戻ったラドクリフが焦って振り返るが、今度はダニエルがある一点を見つめたまま動けなくなってしまっている。
その視線の先、自分たちが向かう進行方向に一人の大人が立っていたからだ。
このパニックの状態で、なにをするでもなく壁をじっと見つめている。
包帯でぐるぐる巻きにされた顔。
「……マリー……さん……?」
そんな馬鹿な。
ダニエルは自らの目を疑った。
マリーはさっき、二番街に立っていたではないか。
あの後すぐこっちへ帰って来た自分たちを追い抜けるものなのだろうか。
だが、現にこうして目の前に立っている姿を見ると大人の足の速さということで納得するしかない。
それにしても、どうしてこの状況でこんなにゆっくりとしていられるのだろうか。
その余裕が不気味に感じ、ダニエルの足は先に進みたがらなかった。
ラドクリフはそんな事どうでもいいとばかりに、マリーに気を取られるダニエルの手を引きその脇を通り抜けた。
マリーを見続けるダニエルがようやく目を離せたのは、突然何かの液体が前方から飛んできたから。
「うっ!? なに?」
かなりの量の液体が、突然体を濡らす。
水でも掛けられたのかと思ったダニエルが、ようやく前を向いたときそこには真っ赤な何かが噴き出していた。
びちゃびちゃと顔を赤い液体が濡らし、目を細めて何事かと考える。
目の前を、自分の手を引いた友人が走っていたはずだ。
そうだ、目の前には自分の友人の背中がある。
だが、背中から上にあるこの真っ赤な水は――
「う……うわああああああああ!!!」
それは、首をなくした友人の背中。
頭の代わりに、血の噴水が吹きあがっていた。
悲鳴を上げるダニエルが手を離すと、友人の体はそのまま前のめりに倒れ込んだ。
噴水を吹き上げていた体は、倒れてもなお足をバタバタと動かしすぐにその動きを止めた。
パニックになったダニエルは尻もちをつきなんとかその場から逃げ出そうとするが足が空回りしてじたばたするだけで、ほとんどその場から動けない。
こつんと手に当たり転がったものを見れば、それは親友の頭だった。
ゴロリと転がった親友の瞳は、もはや何も映さない。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
悲鳴を上げている自分の声が、自分の物だともわからない程の大音量で叫んでいた。
叫び声を上げながらも、ダニエルの目は親友の死体の先にある物を見続けている。
視線の先、壁にあるのは巨大な人の貌だった。
紫色の肉が壁に貼りつき、貌を形作っていた。
苦悶を浮かべる人の貌が、だんだんと迫り出してくる。やがて肩、腕と続く。壁から死肉で形作られた人が這い出ようとして――崩れ落ちた。
「え……えぇ!? うわあああ!」
悪夢は、さらに混沌を極めていった。
貌が崩れ落ちると同時に、周囲の家の壁が突然せりあがっていく。
地鳴りはひどくなり、周囲にあるすべての家がまるで木が伸びるように土台から遥か上空へと競りあがっていった。
あっという間に、ダニエルの周りに迷宮のような壁が出来上がったではないか。
訳が分からない。
ダニエルの頭は混乱を極め、全ては夢の出来事じゃないかと考えた股間は、勝手に放尿を試していた。
ズボンの違和感や絶望感と引き換えに、今すぐベッドで目を覚ましてほしいという願いはついに叶わなかったが、その温かさがダニエルの思考を現実へと引き戻した。
崩れた肉が、ラドクリフの死体を巻き込みながら地面にウジュウジュと広がっていく。
ダニエルは、直感的に今の化け物は環境が整っていなかったから出現できなかったんだと理解した。おそらく、この死肉がもっと広がれば、あの化物が這い出てくる――
その事実に考えが至った瞬間、ダニエルは今すぐに逃げ無ければと立ち上がり走り出そうとした。
だが、それは叶わない。
「ク……クハァァァァ」
目の前に居るのは、首が明らかにおかしな方向に曲がった女性の姿をした何かだった。
身にまとっているのは、マリーの洋服だった。
彼女の体が、大きく膨れ上がっていく。同時にあらぬ方向を向いていた首が、ぐるりとさらに大きく縦に回った。
後頭部にある巨大な口を広げて、マリーが近づいてくる。
全てがゆっくりに感じ、視界の隅々にまで意識が通った気がした。
「あ……」
マリーの背後、薄暗い死肉の迷宮の空には、城の方角から無数の青白く光る腕が噴き出し蠢いているのが見えた。
――ズゥゥゥゥン……
上を見上げれば、競りあがった家が小さく見えるほど巨大な足が、隕石のように降ってきて街を踏み抜いた。
破壊音と、悲鳴と、謎の重低音、そして鐘の音が鳴り響く。
ダニエルは理解し、絶望した。
この世に、地獄が溢れかえったのだと。
「あ……あハははハハハハハハハ」
気が付けば涙で歪む視界一杯に、中に小さな人の上半身がびっしりと生えた口が迫っていた。
それが、ダニエルが見た最後の光景だった。
仕事中、寝起きなど、思いついたことをメモするようにしています。
これを執筆するにあたっての、ネタを思いついたときのメモ書き。
ダニエル、ラドクリフ親友。
地獄っぽい雰囲気に飲み込まれる。
絶望が大事。
うん、見返してもよくわからん。
そもそも、ダニエルラドクリフってハリーポッターじゃねぇか!