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原初の地  作者: 竜胆
1章
62/144

さいしょのおわり

  


 気が付くと、再び真っ白な空間にいた。

 目の前には、いつものごとく晶が立っている。


「元希、久しぶり? 」

「なんで疑問形なんだよ……」


「いや、だって僕はずっと君をみてたから……」

「あぁ……そうだったな」


 この会話の後、しばらく俺たちは言葉を交わさずに向かい合っていた。

 お前、まだこの世界にいたのか……。とっくの昔に脱出できている物だと思っていたから、正直何から話したらいいのかわからない。

 あっちの世界での出来事も気になるし、突然ここに来ても戸惑うだけだ。


 結局あの少女はとげぞうを助けてくれたんだろうか……?

 バッグを手渡した時点で意識が飛んで、気づいたらここに居たからあの後どうなったのかがわからない。


「ねぇ元希、今日はお別れを言いに来たんだ」

「は? 」

 

 沈黙を破って突然発した晶の言葉に、思わず間抜けな返事が漏れた。


「元希がさ、見事に森を脱出して人のいる場所に行ったからもう安心かなって。ほんとはさ、最後まで見守るつもりだったんだけどそういうわけにも行かなくなっちゃったから……最後のお別れを言いに来たんだ」


「全然意味がわかんねぇよ。お前いい加減その自分だけわかった話しをするのやめてくれないかな? 」

「……だって、言ったら元希怒るもん」

 

 怒るもんって……自分だけ満足されても困るんだがな。

 多分あれだろ、俺が森を脱出したら地球に戻れることになったとかで自分だけ戻るのを怒られると思ってるんだな?

 馬鹿だなこいつは、俺がそんなことで怒るわけないじゃないか。むしろ俺の方が晶を巻き込んだ可能性だってあるんだからな。

 一人だけでも地球に帰れるなら万々歳じゃないか。

 

「わかった、何言われても怒らないから説明してくれ。俺は一人でも大丈夫だからさ、今までもそうだったし一人で図太く生き残ってやるよ。何とかして地球に戻れる方法を探しながらな。まぁこっちが居心地よかったらもしかしたらこのままこの世界に居着いちゃうかもしれないけどな」


 カッカッカと笑いながら伝えると、晶が安心したように口を開き出した。


「そう……それなら僕も安心……かな? 絶対だよ? 約束してね? 」

「おう! 絶対怒らないから安心しろ! 」


 そうしてゆっくりと口を開いた晶が話し出したのは、衝撃の事実だった。


「僕は……死んだんだ。いや、死んでた……が正解かな。僕は元希に、嘘をついていたんだ……。僕はこの白い空間が何なのか知っている」

「な……」


 なんだ!?


 口が、体が動かない。

 辛うじて出せたうめき声のような言葉を最後に、俺の体が固まってしまった。 


「僕の話を最後まで聞いてもらえるように、申し訳ないけど元希を動けなくさせてもらったよ。話が終わったらすぐ動けるようになるから安心して聞いてね」


 は? 今なんて言ったこいつ? このかなしばりを……晶がやったってのか?

 意味が全然わからない、なんなんだ一体! 


「この空間はね……この世とあの世の境って言うのかな……? 正確には、元希の中に作られた世界。ここは、元希の意識の中にできた魂と魂が触れ合える場所。その中に、僕が居座らせてもらってるんだ。だから、この世界に居る限り僕は元希の体に少しだけ干渉することが出来る。本来はこの空間は、死者と生者が最後のお別れをするための場所で、長居できない場所なんだけどね。ある人との契約で、僕はこの世界に居座ることが出来ているんだ」


 晶の口から紡がれる言葉の意味が全然理解できない。

 ここは俺の……中? 晶が……死人? 

 何の冗談だ。こんな世界の事、聞いたことないし見たこともない。

 ある人の契約ってなんだよ……お前は何を契約したんだよ。


「多分この世界特有の空間なんだろうね。あの人に説明してもらうまでは僕も何が何なのかわからなかったもの。あ、あの人ってのは……いや、やめておくね。元希がこの世界を知る楽しみを奪うのはネタバレと同じだもんね。とまぁ、こんな風に元希の思考を読むことも朝飯前。ついでに元希の記憶をいじることも晩飯前なの」


 まじかよ。完全に俺の思考を読んだ答えしてきやがった……全然答えになってねぇけども。

 ってか記憶をいじるって……うそだろ?


「元希は、記憶がところどころ無いよね? アレは、僕が記憶をいじらせてもらったからなんだ……。さすがに違う記憶を差し替えるようなことはできなかったけど、一部分を空白にすることはできたからね。ただ、元希が銀の煙を吸うたびに少しずつその制御が乱れて行って、完全に覚醒しそうになった時は焦ったよ。あの時はまだ記憶を取り戻すには早すぎたから、緊急措置でこの空間に呼び出して記憶の封印を再度行ったんだ」


 ま……マジかよ。んじゃ日本で突然俺のエロ画像フォルダの中身が全部ボディービルダーの筋肉隆々画像に変わってたのも、俺が自分でやったことだってのか!?


「あ、それは僕が勝手に代えさせてもらったよ。っていうかアレは地球での出来事だし、記憶が無くなってるわけではないでしょ」

 

 あぁ、そりゃそうだってアレやっぱり貴様の仕業かぁぁぁ!! 中学の頃から海外サイトめぐって必死に集めた俺のお宝が!! 親に国際通話の請求書渡されて必死に適当な説明までして守ったお宝ががががが!


「……元希って女の子嫌いなのに、スケベだよね。ってそうじゃないんだって。なんでそんな話になるのさ」


 俺が苦手なのは女性の性格であって見た目は大好きだからなって……意味が分からな過ぎて俺も思考が暴走していたようだ。

 晶があきれ顔で見ている。


「話は戻るけど、結果的に僕のしたことは成功したわけで、元希は希望を失わずに自力で森を脱出することができたわけだ。いろいろな苦労があったけど、ほんとに元希はよく頑張ったと思うよ。だから、僕の役目はこれでおしまい。あとはエレナっていうおばぁさんに詳しい話を聞いてね」


 お、おい、何勝手に話を切り上げてんだよ。誰だよエレナって!

 

「最後に……元希に記憶を戻すけど気に病まないでね。これは全部僕が勝手にしたことで、僕が死んだのも……自分の責任だからさ」


 そう呟いた晶が、指をパチンと鳴らした。

 直後、世界が逆行する。

 いや、まるで逆行しているかのように鮮明な記憶が頭の中を駆け巡っていく。

 

「ああああアああああァァァァ」


 俺が死体を抱え、絶叫している映像が流れていった。


「おわああああーーーーー!! 」

 

 空中をスカイダイビングしている俺の映像が流れていく。


「hahahaha! それが黒太子の指輪さ! 」


 髭面のデニーが俺に笑いながら話しかける。


「ふぅ、やっと着いたぜ晶! 」

 

 マイアミの空港……。


「僕も行く!! 絶対行く!! 」


 俺の家の前……。


 テレビ画面のようなものに映し出された断片的な映像が、凄い速さで俺の体を突き抜けていく。

 あぁ……全部、全部思い出した……。


 俺の目から、大粒の涙が溢れだしていた。 



 そうか……そういう……ことだったのか。

 俺は、全ての記憶を思い出した。




 留学を決めた数日後、偶然俺んちの前で晶にあったんだ。

 そこで俺は、晶に留学することを告げた。

 そしたらあいつ、自分も行くって言いだして……揉めに揉めた末、両親を説得して付いてきやがったんだった……。


 その後もゴタゴタするも、結局一緒にフロリダ州でホームステイすることになったんだが、格安の斡旋会社だったためか、空港には迎えが居ない。困った俺たちは住所を頼りに二人でマイアミの街を彷徨ってて……デニーに会ったんだ。


 遊覧飛行会社のパイロットをしてたデニス松村っていう胡散臭い日系3世に無理やりに近い形でセスナに乗せられた俺たちは、意気投合していろんな話をする。その中に黒太子の指輪の話もあった……。

 なんでもパイロットの師匠の娘との約束でどうしても手に入れなきゃならなかったとかなんとか……。


 結局そのセスナが、マイアミに戻ることは無かった。

 謎の白い霧に包まれたと思ったら、突然空中に投げ出されたんだ。

 あの日記と一緒だな……。


 落下で死ななかったのは、何故か落下途中からゼリーみたいなものに包まれて落下速度が落ちたから。地面の10メートル手前くらいで完全に一度止まった後、スルンと抜けるようにしてあの赤い結晶の部屋に落とされたんだ。


 スルスルと、記憶が蘇ってくる。

 まるでついさっき経験したことのように鮮明な記憶だ。


 起き上がった俺の胸には、巨大な赤い傷。

 結晶が珍しい物かもしれないと思って、邪魔にならない程度の小さな結晶と、その脇に落ちてた光る緑のビー玉を拾ったんだ。

 そして空から射しこむ光を頼りに周囲を探索して見つけたのは、デニーの死体。

 恐怖で震える俺は、さらにその近くで結晶に腹を貫かれた瀕死の晶を発見してしまう。


 俺の心は……壊れた。


 わけもわからず喚きまわり、大きく開いた腹の穴に、こぼれた内臓を必死に詰め込んだ。

 冷たくなっていく晶の横で、俺は正気を失った。


「そう、そして初めての白い空間で、僕とデニーが合流したんだ。デニーは元希に指輪を託した後、すぐに逝ってしまったけどね」

 

 そうだ……。目が覚めると白い空間に居て、デニーが指輪を渡してきたんだ。

 自分にはもう必要ないからって……そっから白い空間の奥の方へ歩いて行って……消えていった。


 次に現れたのは晶だった。

 悲しそうな顔をして……僕が元希を守るから、絶対に生き延びろって……。


 無理やり白い空間から追い出された俺は、何故か頭がスッキリしていた。何故か晶の死体に目もくれず……いや、視界に入らなかったのか? その後フラフラと彷徨って、古い死体の山を見つけびっくりした拍子に地下水脈の流れる割れ目に落ちてしまったんだ……。


 記憶を失った俺は、そのあと水辺で目を覚まして……。


「そこから先は、元希が一番詳しいはずだよ。ごめんね元希、勝手に記憶をいじって……でも、あの時こうしないと君の心は完全に壊れてしまってた……。仕方がなかったんだ。だから、元希がすべてを受け入れられる強さを手に入れて、安全な場所に行けるまで記憶を封印させてもらった。さて、無事に全部思い出せたみたいだから、僕は逝くよ。このままだと元希の命が危ないみたいだからね。それじゃ……元希、さようなら。君は僕のヒーローだ。大好きだよ……」


 最後は堪え切れない涙を流し、声を震わせながら笑って見せた。

 そんな……それじゃ……おまえは……!


「あきら……あきらああああああ!!! 俺は!! 俺はお前になんてことを……! ごめん! ごめんあきら! 俺はお前をずっと疑って……お前が、お前が俺のことをずっと助けてくれていたってのに……命を懸けて、俺を守ってくれていたっていうのに俺は自分の事ばっかりで……!! 」


 体の呪縛が解かれ、俺の声が真っ白な空間に響き渡った。


「気にしないで元希、僕のことを気に掛けないようにしてたのも僕だから……」


 晶はニコっと笑うと、踵を返して白い空間の奥へと歩き出す。


「待て! 待ってくれ!! 行くな晶! ずっとここに居てくれ! 」

「ごめん、それはできないんだ。元希の行く末を見守りたかったんだけどね……元希、もし僕のお願いを聞いてもらえるなら、この世界を僕の代わりに冒険して。僕の事なんて忘れて、思い切り楽しんで。それが僕からの最後のお願い……」


「あきらあああああああ!!!! 」


 追いかける俺の前に、見えない壁が立ちはだかり進めない。

 くそっ! 邪魔だどけ!! まて! 晶いくな!!


「あきらああああ! あきらああああ!! うああああああああーーーーーー! 」


 晶は白い空間へと、消えていった。

 やがて真っ白な空間は、まるで夜の帳が降りてくるかのごとく上から順に黒く染まっていった。


 俺は真っ黒になっていく空間の中でひたすら泣きつづける。

 小さな子どものようにその場にしゃがみこみ、ただ聞こえるのは自分の嗚咽の音だけだった。


 




「祝福の仮解除完了。

 体内包括アウラ総量、基準クリアですおばぁさま」


「魂の分離完了じゃ。 

 肉体の再構成を開始するぞえ。

 よろしいかの? 」


 Y/N


 どこからともなく聞こえてきたしわ枯れた声に、俺は無意識に返事をしていた。

 そして、何も聞こえなくなり、見えなくなり、やがて、世界は無になる。


 俺は眠り続ける。

 出番が来るその日まで……。

 



 これは俺が異世界に転移し、生きたまま転生を行うまでの約3週間の物語。

 詳細は決して誰にも話すことのない、俺の始まりの地。


 原初の地での出来事だ。



この作品は、プロトタイプとして作られたエピソード0です。

打ち切りしているわけではなく、プロットとしてここまでの流れを作っていました。(多少の変更はしましたが……)


最初は本編もそのまま続けるつもりだったのですが、どうにも本編の方はファンタジーメインであり、別の作品に近い形式になりそうなので一度完結させて別のシリーズとして始めるという形にさせていただきます。


少しの間書き溜めのために時間が空きますが、これを読んでない人でも楽しめるようにできたら、読んだ人にはさらに楽しめるようにできたらという意識を持って次の作品に打ち込むつもりです。


お気に入りに入れてくださった皆様、評価を下さった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。こんな拙い作品ですが、まだまだプロローグに過ぎません。ファンタジーメインの本編の方もよろしくおねがいします。


活動報告のほうにも、書ききれなかったことを書いておこうと思いますので、よかったらちょこちょこ覗いてみてください。

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[一言] すげー本格ファンタジー ここまでの流れで震えた これからも楽しみにさせていただきます
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