表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原初の地  作者: 竜胆
1章
6/144

たべものをもとめて

大改稿中


 ……遭難5日目。



 一夜明けて。


 心配していた足の石化は、杖にしていた枝で小突けばうまく剥がすことが出来た。発見が早かったおかげだろうが、靴だけは完全に石化してしまっており、俺のジョーダンはグレーカスタムに変化してしまった。

 

「ちょっと重いけど、めっちゃかっけぇからいいか」


 蹴りの威力も上がるかもしれないし。

 これは、防具なのに攻撃力が上がる謎装備の謎が一つ解けた気がする!


 お気に入りである。

 待っている人がいる、そう思うだけですべてがポジティブに考えられた。



 森を歩くこと1時間程。


 ぎゅるるるる……


「はぅ! また来やがった!!」


 誰がって、農民だよ。

 俺は本日何度目かの肛門一揆に遭っていた。食糧事情を改善しろと、お腹の畑を耕す百姓さんたちが怒っているらしい。毎日のようにお腹がすけば米やから揚げ、カレーライスを食べていたところから、突然入ってくるものが虫だけになれば怒るのも当然だろう。

 えぇい、貴様ら平民など虫でも食っておけば生きていけるだろうに!


 俺は近くの茂みに潜り込むと、パンツを下ろして固く閉ざされた門を農民たちのために解放してやる。


 この私の藩が嫌ならどこへでも行くがいい! 


 すると農民たちは、なけなしの食糧(虫)まで抱えて俺の腹から脱糞、いや、脱藩してしまった。


「こうして俺のお腹は再び空っぽになるのでした……」


 とりあえず腹痛が収まった俺は、ズボンを上げながら茂みから出ると先を急いだ。


 今日は、最初に俺が意識を取り戻した大木だらけの森、通称【古代の森】を探索に向かうのだ。


 というのも、あの石像が指差していた方角がまっすぐこっちだったからだ。当然それまでの道も探索したが何もなく、結論としてこの先に何かがあるということになった。

 

 自らが石像になりながらも、命を懸けて俺に行くべき道を示してくれたジョージ(仮名)に報いるためにも、なんとかこの状況を打破したい。

 この先に、きっと彼らの集落って奴があるはずだ。


 石板を書いたであろう劉依然さんも、きっとこの先に居る。いつまででも待っていると書いてあったし、何としてでも会いに行かなければ。


 とにかく、人に会いたいんだ俺は。

 そこに、きっと全ての答えがある。ここはどこなのか、どうやってここに連れてこられたのか。帰り道は……存在するのか。


「あれ?」


 広葉樹の森を抜けて崖に来た。2日振りの崖は相変わらず絶景なんだが、なんだか違和感がある。


 まず違和感というか変わったところとして、初日に見かけた太古の森を歩き回る数百メートル級の巨人が居ない。あの日だけ偶然うろついていたのだろうか? あの巨体の影も形も見当たらない。しかし、あの巨体がどこに消えるってんだ?


 ただ、巨人に群がっていた羽虫改め、プテラノドンのような謎の怪鳥たちがやたらと空を飛び交っている。襲ってくる気配はなさそうだが、崖沿いの獲物を探しているかのような飛び方だ。


 そしてもう一つ、なんだかもやっとする違和感。


「森の形って……こんなんだっけ?」


 眼下に広がるのは、太古の森。真下から伸びてる川は、大きく森の中を蛇行している。さらに所々に見覚えのない丘のようなもの、森の中に広場のようなものも見える。


 確か、川は足元からまっすぐ伸びていたはずだし、あんな広場もなかったような気がするんだが前回ココに来た時はパニックに近かったため記憶があやふやだ。


「うーん、こんな形だったかなぁ……」


 崖下まで降りてみればはっきりするだろう。多少嫌な予感はするが、いくらファンタジーな森とはいっても森の構造が変わるなんて不思議なことはそうそう起こるはずがない。


 そう、起こるはずがないのだ。


「俺の知ってる太古の森はどこへ行った?」


 崖沿いの道を進み続け、崖に沿って滝へ向かうこと1時間ほど。途中で太古の森に少しだけ足を踏み入れた俺は唖然としていた。


 超巨大な木々は相変わらず生い茂っているのだが、森の中の雰囲気が確実に変わっている。


 俺は、この期に及んでいまだにこの森のことを舐めていたようだ。


……ブブブブブブ

……クキャークキャー

……グチャ……グチャ……


 森の縁、大木で出来た檻の中は、まるで腐海の森。得体のしれない巨大な昆虫が飛び交い、それを貪る爬虫類のような生き物。


 そしてその奥から一瞬だけ見えた巨大な目。初日に彷徨った太古の森は、まったく別の森へと姿を変えていた。


「な……なんなんだ!? まさかと思ってたけどここまで雰囲気が変わるなんて異常すぎるだろ」


 人の、立ち入れる場所じゃない。

 そう直感できるほど、化物たちの密度が濃い。

 目の前で繰り広げられる弱肉強食の風景も、その予感に拍車をかけていた。


「この先に……集落……?」

 

 あまりの衝撃に立ちくらみのような眩暈を覚えた俺は、大木の檻から森の外へ出ると深呼吸をした。


 ぎゅるるるる……


「あ……また……」


 緊張からだろうか。再び俺の腹の中で暴動が起こっている。


 もはや俺の腹の中には何もないはずなので、残党たちは門を打ち壊そうとはせずにお腹の中で暴れ狂っているようだ。


「ちょっと今日は帰ろう。太古の森の雰囲気もわかったし、これ以上無理をする必要はないだろ……」


 劉さんがこの先で待ってるかもしれないが、今更一日も二日も一緒だろう。体調は大事だ。

 なにより、これは明らかに準備が足りない。 


 俺は腹痛に耐えかねて、来た道を引き返すことにしたのだった。





 拠点へ戻り数時間もすると腹痛も収まり、今度は最高に腹が減ってきた。


 腹の中が空っぽなのだから当然だろう。早いこと何かを口に入れろと、農民たちが今度は怒号を上げながら直談判している。


 それに、栄養失調のせいだろうか。最近筋肉が痙攣することが増えてきた。

 これ以上の飢餓はまずい。人に会う前に飢え死にしてしまう。正直、思考力もかなり低下している気がする。

 昨日、捕まえた虫を食ったがそれだけで足りるわけがなかった。


「さすがに火を起こせないのに虫を主食は無理がありすぎた……やっぱりまずは、しっかり食べれる物を探そう」


 太古の森のどれだけ先に集落があるのかもわからないのに、こんな体調であの森へ侵入するのは無謀すぎる。


「くそっ、人が直ぐそこにいるかもしれないってのに。南の森……しかないよなぁ……」


 まともな食べ物の気配がありそうだったのは、密林だけだった。やはりあそこで食べ物を探すしかないだろう。先日彷徨ったことである程度事前情報もあるため、慎重に行動すればこの間のように死にかけることにはならない……はずだ。


「とにかく飯! もう何でもいい、土食って腹満たしてる場合じゃない!」


 何を隠そう、俺はとうとうあまりの空腹に地面の土を無理くり飲み込む程に飢えていた。


 ……ウンコのほとんどが砂の塊だったのは内緒だ。


 




 いくら焦っても無駄だ。

 今は集落を探すよりも先に食事を探すべきだろうと、とにかく自分に言い聞かせた。

 何よりも、死んでしまっては意味がない。

 生きて探索するためには、生活の基盤が必要だ。


 そんなわけで、やってきましたジャングル。


 密林の中は相変わらずトロピカルな植物が生い茂っており、音を立てまいと慎重に進む俺の行く手を遮ってくる。


 前回の探索で学んだことは、とにかく音に敏感になること。前回は無我夢中で森をかき分けていたため、茂みの先に居る生き物と鉢合わせしてしまったのだ。自分の音を最小限に、さらに周囲の音を聞き分ければかなりの確率で鉢合わせするという事態を避けれるはずだ。


 実際今日は、何度もこの作戦でピンチを救われていた。密林に入ってすぐ、あの頭のでかいおっさんとの鉢合わせを回避してやり過ごしたし、たった今も、茂みの向こう側を巨大なアリらしきものが触覚をピコピコと動かしながらどこかへ向かっている。


「あぶなかった……この森じゃアリまででけぇのかよ。立ったら俺の身長くらいあるんじゃねぇの? 何食ったらあんなにでかくなるんだよ」


 自分でも聞こえないほどの小声でそんなことを呟く。小声でも軽口を叩いていないと、緊張感に押しつぶされそうだった。


 ただ――


 ん……?

 なんだこの匂いは!? 食べ物の匂い?


 アリが通り過ぎるのをドキドキしながら待っていると、不意にどこからか甘い匂いが俺の鼻に漂ってきたではないか。


 おいおい、こいつが咥えてるのって木の実じゃないか!? しかも、メロンに似たごつごつとした皮を纏ったかなり大きな実だ。


「あっちから来たのか……?」


 アリが通ってきた獣道は、森の奥へと続いていた。


 残念ながら、あのアリから木の実を奪うなんてことは、流石に出来なかった。

 ただ、木の実ならあいつが来た方向に実っているはずだ。


 これは期待できそうだ。だが、ここで舞い上がって周囲の警戒を怠っては先日の二の舞になってしまう。


 俺は同じ失敗を繰り返さない男だ。もうすでに数回繰り返した気もするけどきっと気のせいだ。


 とにかく周囲を警戒しながらゆっくりとアリの来た道を進んでいったのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ