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原初の地  作者: 竜胆
1章
39/144

だいじなかぎ



 ……遅せぇよ……。


 なんだよそれ。またか? またなのか?

 希望が見つかったと思ったら、また落とされるのか?


 経験値じゃなくて呪いって……そんなもん誰でも騙されるだろ。

 なんでもっと早くこの本を発見できなかったんだ。


 ヤバいぞ、すでに3匹分の煙を吸っている。

 ダンゴムシ、アリはまだ良しとしよう。問題は熊だ。

 あれだけ巨大な獣を倒してしまったということは、相当な量の煙を吸ってしまったことになる。


 多分……初期頃のマックスたちに近いくらいの量を吸ってるんじゃないだろうか。

 今の俺の段階は、症状を照らし合わせる限り……第一段階か。


 ……いつだ? 

 いつ怪鳥に狙われるようになる?


 本には、怪鳥に見つかる第二段階になるとゲームオーバーだと書いてある。

 つまり、俺は今王手をかけられた状態だと思っていいだろう。


 これはまずいぞ。今までみたいな行き当たりばったりの行動じゃまず生き残れない……。

 というか、ほぼ詰んでないか?


 現状、アクティブなやつが増えている。俺はそいつらと戦えない。

 もし俺が第二段階突入目前で、これ以上煙を吸うことが出来ない体だとしたら……そう考えると、俺はもう戦えない……。

 つまり、見つかった時点で逃げるしか選択肢がない。


 くそ……どうすりゃいいってんだ。


 俺は、先を読み進めることなく何度もこのページを読み返した。


 気が付くと、全身から汗が吹き出しページにシミを作っている。知らず知らずのうちに焦りが募っていたようだ。

 いかん、落ち着こう。焦りすぎても何も見つからない。行動を起こさない限り現状維持はできるんだ、焦る必要はない。


「すぅー……はぁ……。すぅー……はぁ……」


 俺は、ゆっくりと深呼吸をして再び日記に目をやる。

 今の深呼吸で結構気持ちが落ち着いたらしい。まだ何かあるかもしれない。そう思って何度も見返していると、ある一文が気になった。


「第二段階に突入でゲームオーバー……」


 そういえば、これは何を基準に定めたものなんだ?


 いや、確かに森の生き物全てに襲われたら、詰んでしまうのはわかる。

 見つかれば襲われる、戦ったら呪いが進行する。逃げ出してもその先で他の奴らまで襲ってくるとなると、行動が不可能だ。

 だから今まで気にもしてなかったのだが、よくよく考えてみると妙だ。 


 それは第一段階でもあまり変わらないじゃないか。

 最近はアクティブが増えてきてるし、秘策がなけりゃ結構な頻度で襲われる。

 確かに怪鳥に襲われないってのはでかいけど……。


 それだけでゲームオーバーだなんて決めるか?


 …………。 

 ……まてよ?


 正解を導き出すことに失敗したとも書いてある。

 正解ってなんだ?


 地球へ戻る方法……? 森からの脱出……? 思い浮かぶことはこの二つだが、これらは似てるようでまったく別のものだ。

 目指すゴールが違えば走る道も変わってくる。

 第一、正解なんてあるのかどうか……。


 しかし、この書き方だとまるで正解があることを知っているみたいな口ぶりじゃないか。 


 そうか、この人達は3年もの長い間この森に暮らしていたんだ。

 その間に、何かを発見した可能性がある。

 このメモは、あくまでも警告なんだ。自分たちと同じ失敗をしないためにわざわざ途中で挿入してくれたものなんだ。


 この先に……何かが……。


 この日記には、まだ俺の知らない何かがある。

 まだ詰んでいない。諦めるのはまだ先だ。


 俺は先のページをめくっていく。

 見落としがないか、ページの隅々まで、小さなメモまで攫っていく。

 何かがあるはずだ。俺が気づいていない何かが。





 日記は、再び三日目の夜の記述から始まっていた。

 この後、記録は日付が飛び飛びになっていく。


 数日間は巨人の発見や、獣たちの習性、火の取り扱いについてなど、俺が気付いていること、いないことなどが書き連ねてある。だが、だんだん生活が安定してくると、ちょっとした発見以外は居住区の開発が主になっていくため、生活が安定していくほど書くことが無くなっていったらしい。紙に限りがあるため当然か。


 調査隊は、一週間もしたころには助けを求めることを諦めていた。3名が自力で森を脱出しようとしたが、すぐに二人が死んで一人が片足を失って戻ってきていたことから脱出に対する考えが消極的になっていき、さらに俺と同じく筏で川を下ろうとして筏を化け物に破壊されたらしい。


これ以降、肉体強化を進めて万全の態勢で脱出を図ることに決めたようだ。


 まじかよ、必死に筏の素材を集めたのは全部無駄だったのかよ……。

 ほんとにもう少しでも早くこの本を見つけてればあんな苦労しなくて済んだのに。

 ……いや、出航前に危険だとわかっただけでも運がよかったのか。


 ここが異世界なんじゃないかという記述まであり、彼らは50年前にしてはかなり柔軟な思考で物事を考えていた。死後の世界とかいろいろ考えていたらしいが、結論は出ていない。


 火の取り扱いについてだが、新事実が判明した。

 どうやら火を扱える適正? というのだろうか。そういうものがあるらしい。

 その適性がない人はどう頑張っても火を起すことも、物を焼くこともできないようだ。


 俺には一応その適性とやらはあるらしいが、日記の中に出てくる人のようにうまく火を使えていないから優れているというわけではないらしい。日記の中では火担当のアディソンという女性がしっかりと全員分の食事を作っていた。


 ん? と思う記述も発見した。どうやらメンバー全員が何日たっても健康で、病気を発症しないというものだ。

 腹痛や怪我などはあるが、当初心配された病気らしい病気を発症することは、結局最後までなかったようだ。

 俺は普通に病気になったし……偶然か、それともなにか生活の仕方が問題だったんだろうか。


「うーん……基本的には、普通のサバイバルって感じか……植物学者が集まっているだけあって、植物に対する知識が強みになってるな」


 諍いを起こしながらも、それぞれが自分たちのできることを行い、協力して生活していたようだ。


 畑を作り、持っていた種をまいたり、食べられると判断した植物を栽培していたのだろう。何故か中でも目を見張る活躍をしていたのが、先日の日記にも名前が出ていたメリルという女の子だ。


 旨い具合に食べられるものを発見したり、危険を予知するなどの不思議な力を発揮していたらしい。


 彼女は青いトカゲを拾ってペットとしてかわいがっていたようだ。ジョセフィーヌという名前を付けいつも一緒に出歩いており、著者がうらやましがっていた。


 日記の中には、何やら大事な種を持ったまま、崖上の森で初日に死んでしまったコナーという男性を捜索するシーンもあった。


 遭難する以前に発見していた、ものすごく珍しい種だったらしい。結局見つからなかったようだが、なんでも伝承に残るほどのものでどうしても失いたくなかったとかなんとか。まぁこれは脱出には関係ないか。


 マックスをリーダーとした狩り部隊が活躍する裏で、獣のアクティブ、ノンアクの習性を理解した調査隊は、探索チームの再編成を行っていた。すなわち、恨みをためてないメンバーならばかなり安全に探索を行えるというものだ。


 赤い傷が大きなメンバーはマックス率いる狩りチームへと編入され、新たに傷の小さな者、さらにその中でも一度も銀の煙を吸っていない者で探索チームを組みなおしていた。


 その条件に当てはまるのは……エマとメリルしかいなかったらしい。著者は相当反対していたようだが、彼女たちは立派に探索の役目を果たしていたようだ。キャンプのある洞窟周辺に櫓や、家を作ろうとしても次の日には何故か消えているという謎の現象を解明したのも彼女たちだった。


 どうやら太古の森に人工の建造物のようなものを作ろうとすると、巨人が排除を行うらしい。

 必ず一度踏みつぶしたうえで、念入りに地面ごと救い上げて遠く向こう側の森の外へと運び出すということを発見していた。


 巨人は、自分の森に人の手が入るのを極端に嫌うらしい。


 驚いたことに、森の中にいるときは巨人の存在に気付かないようだ。外から見ると巨人が歩いていても、中の人には全く影響せず、気が付いたら地形が変わっているらしい。どういう仕組みなのかさっぱりだ。







 俺は、時間を忘れて日記を読みふけっていた。

 彼らがどういう生活をしていたのか、一体彼らの身に何が起きたのか。何を見つけ、何が起こり、何を選択して失敗したのかを追っていく。


 そしてとうとう、俺は本命を発見する。


 ページをめくったその先には、俺が探し求めた情報の一つがあった。

 それは、遭難から約4か月の出来事。




『大手柄だ!! 信じられない、本当にあったなんて!!

 エマとメリルが、文明の痕跡を発見してきたらしい!


 森を東に向かって探索を続けた結果、古い遺跡にたどり着いたというのだ。


 これはうれしい発見だ。

 興奮気味に帰ってきたエマの手には、一つの石版が握られていた。

 そこには、オオカミと戦う人の絵が描いてあったのだ。


 間違いない、この世界には人類が繁栄している!

 この森を抜けた先に、人が居るのだ。ここが地球かどうかは定かではないが、人が居るという事実は我々に大きな希望を抱かせてくれる。


 生活に疲弊し、絶望しかけていた皆から歓喜の声が上がった。』







「こ……これだ。きた……。きたあぁぁぁぁぁ!!! これだ!! この情報が欲しかったんだ!!」


 思わず大きな声を出してガッツポーズをしてしまった。あまりの衝撃に背中が粟立ちゾクゾクする。


 今度こそ間違いない。この世界には、人が居る。

 何度もぬか喜びさせられて疑心暗鬼になっていた俺は、何度も何度もこの文を読み返してしまった。


 うん……。間違いない。


 遺跡は巨大な石造りの廃墟で、周囲には巨大な頭をした人に似た化け物が大量にうろついていたらしい。

 匂いで反応され襲われかけたため、慌てて石版だけ回収してその場を離れたそうだ。 


 後日、皆を連れて再調査を行えばいいと考えたと書いてあった。


 だが、残念なことに、この遺跡にたどり着けたのは一度だけで、何度も再調査に向かうも二度と訪れることはできなかったようだ。


 森の景色が変わり地形が変わるため、偶然辿り着いたその場所へ向かうことが出来なかったらしい。


 ……この調子では、俺が探索してもおそらく発見するのは無理だな。

 巨大な頭をした化け物ってあのおっさんだよな……? 遺跡は気になるけど、あんなのがうじゃうじゃいるところに向かってもなぁ……。


 それでも、それでもその石版という証拠がある以上間違いなく文明は存在する。

 日記によるとその石版は洞窟の中に保管されているらしいので後でしっかり探してみよう。


「これで……一つ」


 正解に辿り着くためのカギが、一つ見つかった。

 ゴールが無けりゃスタートすらできない。ある意味で一番大事なピースだと言える。

 つまり、正解とはこの森からの脱出。これで答えは導き出せたわけだ……。


 残るは行程。答えがわかっても方程式や解き方を導き出さないと点はもらえない。


 正解は結局著者たちが発見できていない以上見つからない可能性もあるが、少なくともあといくつかのカギがこの日記には隠れているはずだ。

 第二段階に至るまでゲームオーバーじゃないという判断基準もまだわかっていないしな。


 俺は日記を最後まで読み進めていった。




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