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原初の地  作者: 竜胆
1章
20/144

たたりがみ



 ……遭難12日目。


 腕がヤバい。


 昨日はあの後、無事に竹を運ぶことに成功した。


 巨大なカマキリの鎌を持ったダチョウみたいな鳥をやりすごし、アナコンダほどの大蛇に襲われたが、なんとか逃げ出せた。

 午後は当然秘策を施し、安全に2往復目を終えた。


 秘策の力ってスゲー!!


 んで、腕だ。昨日竹を運び終わってから拠点であまりの痒さに刺された箇所を見てみると、めちゃくちゃ腫れ上がっていた。


 表面が膿んだように白くなり、10円玉くらいの大きさに腫れ上がっている。

 痛痒いその場所を掻くこともできず、周囲を爪で押してごまかしながら夜を過ごした。


 時々ビクビクと痙攣を起こすし、大丈夫なんだろうかこいつ……。


 たまにとげぞうが、心配そうにフンフンと匂いを嗅いでいる。

 大丈夫? 痛くない? と言いたそうな目で俺を見てくるその姿に癒されながらなんとか我慢して、今日も竹採取へと向かう。


「な……なんだ?」


 森を歩いていると、草むらから何かの気配がした。

 ガサリと葉の擦れる音が聞こえる。


 ……おかしい。


 昨日ならまだしも、今日は秘策を施しているためこういった小動物の気配を感じることはあまりないはずなのに。


「ちょ……ちょっととげぞうさん様子見てきてくれません?」

「きゅ!?」


 緊張をほぐそうと冗談を言うと、とげぞうが驚いたような声を上げた。


「冗談だよ冗談……お前行っても、様子伝えられないだろ」

「きゅぅ……」


 なにやらとげぞうは落ち込んでしまった。

 かわいいなこいつ。





 仕方なく、俺が草むらの様子をこっそり伺ってみることにした。


 別に何も用がないのだからスルーしてしまってよかったはずなんだけど、なんだか妙に気になってしまったのだ。


 人生何が役に立つのかわからないからな。


「あ、失礼しました」


 ……茂みの奥には、額から角が生えた真っ赤なキツネが踏ん張っていた。

 腰を落とし、後ろ脚がプルプルと震えている。

 デリケートな時間だったようだ。


 キツネは俺のことをじっと見つめながらプルプルと震えている。

 どうやら、動けないタイミングで見つけちゃったせいでキツネとしても困っているらしい。


 数日振りにお通じが来たのになんでこのタイミングで!! って感じだろうか。


 涙目で見つめてくるキツネのことを、俺は見つめ続けた。

 とげぞうがフードの中から顔をだし、俺の後頭部を前足でペチペチと叩いてくる。


 いや、だってなんかこんなに涙目でみられたら……ねぇ?

 見てやるのが礼儀なんじゃないかなと。


 そんなことを思っていたら、半分ほど出ていたキツネのアレが、ッポーンとひねり出た。


 ほら、俺が見ててやったから力んで出たんだぜ? 感謝されるべきだろこれは。


 キツネはその瞬間、ものすごい勢いで飛び上がるようにして森の奥へと走って行った。

 もういや! こいつ! そんな声が聞こえてきそうだった。


「ふしゅっ!」

「もうそんな怒るなってとげぞう。俺が悪かったからさ。でもちょっとだけ気になるじゃん? 森の生き物が何食べてるのかとかさー」


 とげぞうがフードの中で威嚇を続け、俺は木の棒を拾ってキツネのウ○コに近づく。


 俺がしようとしているのは、よく動物番組などで見ていた、排泄物を詳しく見ることでそいつが何を食べているかなどを調べるアレだ。


 俺がこの森で生き残るためには、まだまだ知識を蓄える必要がある。

 もしかしたら食べられる物の発見につながるかもしれない。


「だからそう怒るなってとげぞう」

「ふしゅ!」


 そんなバッチイもの触らないでー! いやー! と言った感じだろうか。

 俺もできることならこんなものを触りたいわけではないんだけどな。


 恐る恐る棒をもって、生まれたてのベイビーに近づけていく。


「ん? いま、何か動いたような?」


 茶色いアレが、ピクリと動いた気がした。

 枝を持つ手が止まる。


 茶色いそれをじっと見つめていると変化が起こった。

 茶色いそれの表面が、ボコボコと膨れ上がる。


「うわ! 気持ち悪!! なにこれ?」


 ボコボコと膨れ上がった表面から顔を出したのは、白いミミズのようなもの。

 頭だけ出しながらうねうねと動いている。


 俺が気持ち悪がりながらも、そのミミズを棒でつつこうとした時だ。

 茶色いそれのいたるところを、白いミミズが食い破って出てきた。


「うわあああああきもちわりいいいいい!」


 背筋がぞわっとした。

 これは……寄生虫?


 野太い一本の表面を、うねうねと数十匹の白いミミズが這い回っている。


「す……すまんかったとげぞう。こいつは俺も無理だ」


 これは無理だ。調べるどころか触るのも憚られるそれを放置して立ち去ろうとした時だった。


 なんと、茶色いそれがその場から少しだけ動いた。

 よく見ると白いミミズがまるで足のように、地面からその茶色いものを持ち上げている。


 驚愕と共に、なんとなく嫌な予感がした。

 自分の顔が、ヒクヒクと引きつるのが分かった。


 そして――


 自由を手に入れた茶色のそれが、地面を駆け回る。白いミミズがムカデの足のような巧みな動きを見せている。


「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 こともあろうか、その茶色いものは、俺を目がけてすごい速さで突っ込んでくるではないか。

 パニックだった。う○こがすさまじいスピードで迫ってくる。


 ゴキブリが飛んでくる以上の恐怖が俺を襲っていた。

 その姿はまさに祟り神だ。綺麗にトイレを使わない人間への怒りから祟り神になってしまったのだろうか。


「すいませんすいません! もうトイレで遊びません! わざとしょんべんしてる人の真後ろにぴったりならんで嫌がらせしたりしませんから許してください! 三角折のペーパーに犬の顔書いたりしませんから許してください!!」


 小学生がしたことにそんなに怒らなくてもいいじゃないですか神様。


 とにかくカサカサと猛スピードで走り回るトイレの神様は恐ろしかった。


「わあああああああああああああああああ!!!!」

「きゅーーーーーー!!!」


 とにかく俺は何かに謝りながらひたすら走った。

 フードが激しく揺れ、とげぞうが必死にしがみついている。

 生まれてこの方こんなに必死に走ったことないんじゃないかというくらいの速さで走った。


 走って走って走って、ふと後ろの様子が気になりちらりと振り向くと、祟り神さまは――


 成仏していた。


 茶色の体から飛び出した白いミミズたちは力なくうなだれ、もはや動く気配はなかった。人間への怒りは収まったらしい。


「こえぇぇぇ……この森じゃう○こまで人を襲うのかよ……」


 違う意味でこの森の危険性を再認識してしまった。 







「会いに来たぞ……」


 俺は、再びジョージ(仮)の石像に会いに来ていた。


「これで……良いんだよな? あんたの差す方角に、集落はあるんだよな?」


 ジョージ(仮)が指差す、太古の森の以外の場所には何も見当たらなかった。

 太古の森自体は、とてもじゃないが人が立ち入れるような場所でもなかった。


 導き出した答えは、川を下れば集落が見つかるだろうという事。

 きっとそこに、この石板を書いた劉さんが待っているはずだ。この人も、きっとこの答えに行きついて先に向かったんだろう。


 俺は、自分の行動が正しいと信じるしかない。

 ここまで来たら、あとはもう突き進むのみだ。


「よっしゃ! あと少しだ!! がんばるぞ!!」

「きゅーぃ! きゅーぃ!」


 とげぞうは、俺の掛け声を聞くと無邪気にジョージ(仮)の周りを駆け回っていた。


「これが……最後か」


 この日の午後、2回目の竹運搬を行うことで秘策は底を尽きた。





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