プロローグ
拝啓、父上母上様。
突然の申し出だった留学を、快く快諾してくれてありがとうございます。
あなた方の言葉に従順だった俺が、突然ひきこもり、ようやく社会復帰したと思ったら学校を辞めて留学したいなんて言い出したのにはびっくりしたことでしょう。心配ばかりかけて申し訳ありません。
俺は今、留学先で毎日必死に生きています。
言葉の通じない奴らばっかりで、言葉の壁ってのはとてもとても高いものなのだと気づかされました。
生活も大変です。何しろ色々なものが足りません。
出来ることなら仕送りをお願いしたいのですが、それは叶わないということは知っているので無理は言いません。
ところで、俺の留学先ってジャングルでしたっけ?
俺は何で言葉の通じない化け物に今、必死に命乞いをしているのでしょうか?
「待って待って待って!! 落ち着こう! 一度落ち着いて話し合おうじゃないか。誤解だって! 俺はただ通りかかっただけでお前の卵なんて取ろうとは思っていない! ただちょっと丸いものを見ると触りたくなる性癖があるだけなんだ! だからほら、いや! そのヒレをバタバタさせるの止めて!!」
木の上で卵を取ろうとしたら、親に見つかってしまった。
今現在、必死に説得中なのだが、一つだけ無礼を承知で言わせていただきたい。
「なんで魚が空飛んでんだよ馬鹿野郎! あ、うそうそやめて! ぎゃああああーーーー」
怒れる空飛ぶ魚のヒレから放たれたソニックブームが俺の二の腕を掠め、俺は木の上から落下してしまった。
地面に強く体を打ち付け悶絶していると、何かが俺の体の上に乗る。
「ふしゅ!」
ハリネズミが俺の上で針を立ててあらぶっている。
「……とげぞう、すまん失敗した。次の獲物を探すしかないみたいだ」
ハリネズミはフンっと鼻息を俺に吹きかけ針を収めると、立ち上がる俺のフードの中に潜り込んだ。
こいつは俺のパートナー、ハリネズミのとげぞうだ。ひょんなことから命を助けたら、なんだか懐かれてしまったので一緒に生活している。
「はぁ……体中傷だらけでいてぇ……熊肉だけじゃ栄養偏ると思って食糧探してみたけど無謀だったかね?」
「きゅー?」
とげぞうが定位置の俺のフードの中で返事をする。
何度も自分で歩けっつってるのにこいつはいつも俺のフードに入り込みやがる。
体中が痛い。
腹も減った……。
この森に来て数週間、ようやく生活基盤が整ってきて食糧も少しずつ手に入るようにはなってきたんだが……カレーが食いたい。
甘ったるいジュースを飲みながら、腹いっぱいになるまでピザ味のポテチを食いたい。
だけどそれは叶わない。
なぜかって?
この森には、店がないからさ。hahahaha。
……店どころじゃない、人もいない。
ここは、多分地球じゃない。
なんでこんなことになってしまったんだろうか……。
俺が留学を決めたのは、突然の事だった。
ある日偶然見かけた、≪本当の自分を探そう≫というキャッチコピーの留学サポート会社のチラシ。
そのキャッチコピーに釣られて、自分を見失っていた俺は留学を決めた。
そして気づいたらこの森に居たんだ。