きょじん
「すげぇ……」
盛り上がった土は、あっという間に巨大化していき大木なんて足元にも及ばないほどの巨大な柱へと変化した。
そして、柱は轟音と共に表面が崩れ落ち土煙に覆われていく。
それは、壮大な光景だった。
やがて、聞き覚えのある重低音が森の中に響き渡り、土の柱を覆っていた爆煙が、中にいる何かに吸い込まれるように急速に薄れていく。
最初に見えたのは、無数の光のラインだった。
土煙の中を、光のラインが走っている。
それが、人の形に添った光り方をしていると気づくのに、時間はかからなかった。
――巨人到来の、瞬間だった。
◇
「……神様……?」
土煙が完全に消えた森の中を、巨人はゆっくりと歩き回っていた。
相変わらずこの巨人が動き回る姿は、すごい迫力だ。
巨人は、森の中を歩き回ってはしゃがみこみ、再び歩き出してはしゃがみこんでいる。
初めて見た時と同じ動きだ。
そう、まるでガーデニングをしているような動き。
しゃがみこみ、動かした手には木や土が握られている。
その土や木を、別の場所に移動してゆっくりと降ろす。
こんな動きを繰り返している。
また、不思議なことに、土を動かした後の荒地に巨人が手をかざすと、見る見るうちに緑が伸びていく。
つまり、そういうことなのだ。
こいつは、森の管理人。
庭師とでもいうのだろうか。
どんな意図があるのか知らないが、まるで自宅の庭を模様替えするかのように、毎晩森の配置を変えているのだ。
劉さんのいう神の御座す場所ってのは、こいつのことを言っているのだろうか。
確かに、森の配置を変えるなんて神のような所業だ。
「さて……ここまでは嫌な予感が当たってしまったわけだが、問題はここからだ……」
もともと森を抜けるつもりはさらさらない。
あんな化物だらけの場所に踏み入れば、一瞬で死ねる自信がある。だからこそ、川を伝って集落の探索にいかなければならないのだ。
そう。問題は、川の流れだ。
初めて見た時は、一直線。次に見た時は、曲がりくねった姿。今日見た時は湖へと繋がっていた。
当然この巨人の仕業だろう。
筏を作ったとして、もし近くに集落が見つからなけらば、1日でこの川を下り切れる自信はない。流れ次第にもよるが、おそらく早くて2日はかかると思う。
さらに夜の間は危険すぎて筏で下ることなどできないはずだ。そうなると、川岸で夜を過ごさなければならなくなる。
夜、もしも俺が川岸で休んでいるときに水の流れを変えられたら?
いや、むしろ最初から気になっていたのだが、森の生き物たちはこのガーデニングに対してどう生活しているのだろうか。
人が踏み荒らした草むらの虫のごとく、逃げ惑っているだけなのだろうか。
俺が川岸で休んでいて、踏みつけられる心配は?
……わからない。
いろんな疑問が浮かんでくるが、何一つ明快な答えを得ることができない。
虫刺されをボリボリとかきむしりながら、思考の海に潜り込んでいた時だった。
巨人が川のそばにしゃがみこむ。
「きた! 川をいじるぞ!!」
思わず、誰に言うでもなく叫んでしまった。
俺は巨人の一挙一動を見逃すまいと、食い入るように見つめる。
今回のしゃがみ方は、いつもと違う。
今までは片膝をつくようなしゃがみ方だったのに対して、今のしゃがみ方は、まるで雑巾がけを行うときのように両手を地面に突いている。
そのまま、巨人の手がズレる。
「なっ!?」
その珍妙な光景に、思わず口から声が漏れた。
なんと、両手をついた巨人が膝を上げ足を進めると、川が押しやられていくのだ。
その手を突いた場所だけでなく、川全体がまるで紐の一点を指で動かされた時のように連動して変形していく。
物理法則も糞もない、完全にファンタジーな光景だった。
なんだこいつは?
シ○シティならぬシムフォレストでもやってるのか?
思わずゲームのような光景だと思ってしまうほど、現実離れしていた。
「しかし……」
どうやらこの光景を見る限りでは、俺の最大の懸念はある程度払拭されたかもしれない。
巨人が川を押しやる姿を見る限り、どうやら河原も一緒に移動している。
ということは、河原にいる限り流れを変えられてもずっと河原に居られるということだ。おそらく川ごと俺も移動させられる……はずだ。
実際にその場にいるわけではないので、押しやられている瞬間どうなっているのかとか、まだまだ分からないことはたくさんある。
だが、突然川が消えて違う場所に川が出来てしまい、気が付いたら森の中に取り残されていたなどと言う展開になる可能性は低そうだ。
それに、森の中のいくつかのポイントは森の配置に影響を受けていない気がする。ということは、もしかしたら集落というのもそういうところに作られていて安全な場所になっているのかもしれない。
踏みつぶされる心配など、いろいろ心配事は尽きないが、これはおいおい考えていこう。
とりあえずは、筏を作る計画を続行してもよさそうだ。
「よしとげぞう、帰るぞ!」
「きゅ!」
必要な情報はある程度手に入った。
こうして脱出に向けての準備は、少しずつ少しずつ進んでいった。