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原初の地  作者: 竜胆
1章
17/144

まちびと



「……しんどい」


 ゴロゴロと転がる岩の上に寝転がり、滝を眺めていた。

 とげぞうが心配そうに俺の体を鼻でつついては、何故か針を立てている。


 臭いのか? 俺が臭いのか? 臭いならなんで何回も匂ってるんだよ……くせになってるんだろ? この変態め。


「ふしゅ!」


 心の声が聞こえたのだろうか。とげぞうは最後に針を立てると、そのまま丸まってしまった。


 ようやく一度目の運搬が終わった俺は、滝壺で休憩していた。

 さすがに昨日の今日で体力が戻っているわけもなく、想像していたよりもかなりの重労働だ。


 休憩なんてしてる場合じゃないとか思ったけど、さすがに休憩なしは無理だった。


 これをあと1往復、さらに数日間か。

 考えただけで気が滅入ってくる。


「まぁやるしかないか。じっとしててもあれだし、洗濯でもしながら休憩するかな」


 久々に来た滝は、相変わらず水が豊富だ。

 オオトカゲの糞やら泥、汗で茶色になってしまった洋服を洗濯することにした。

 とげぞうが匂いフェチになっても困る。


 汚れきった洋服を水につけた途端、澄み渡る水が一気に泥水へと変わっていく。


 う○こまみれのまま無理やり着てたからな……。

 あらかた汚れは落とすことができたが、結局しみついた汚れはそのままになってしまい、泥染めしたように全身茶色の格好になってしまっている。


 替えの洋服は無いのだから大事にしないといけない。俺はフード付きの洋服しか着ない主義なんだ。

 この洋服がだめになったら裸で過ごさなきゃならなくなる。


 洋服もこんな酷使されるなんて思ってなかっただろうな……お気に入りだったのに。

 そう思い、濡れた洋服を乾かすついでにビリビリに穴が空いたり破れた部分を縫合した。


 武器を作るときに採取した糸が余っていたのと、ホッチキスの芯を針代わりにすることで縫物ができることに気が付いたのだ。

 綺麗に縫い合わせることはできなかったが、まぁ応急処置としては十分だろう。

 ついでに、体に直接当てていたダンゴムシプロテクターを洋服の中に縫い付けるようにした。


 体に直接結びつけていたから動きにくかったもんな。多少はマシになった気がする。


「さて、もうひと踏ん張り頑張りますか……」


 滝壺の水でのどを潤し体力のもどった俺は、無理やりもう1往復してこの日、計8本の竹を運んだのだった。






 


「すっかり遅くなってしまったな……」

「きゅぅ……」


 とげぞうは疲れてしまったのか、若干力なく俺の声掛けに相槌をうつように鳴いた。


 ……お前は俺のフードの中でほとんど寝てたけどな。


 周囲はすっかり暗くなってしまい、月の明かりが周囲を照らしているにもかかわらず、俺はまだ崖沿いの山道を登り続けている。


 今日は槍を作ったり、他のことをしてから竹の運搬を始めたため、予定よりも遅くなってしまったのだ。


 暗くなる前になんとか終わらないかなと思って無理やり2往復してみたが、案の定こんな時間までかかってしまった。


「まぁ、逆に好都合だ。今日は秘策も施してあるから夜でもある程度安全を確保できているし、この時間なら俺の推測が正しかったかどうかを確認できるからな……」


 この間から使い始めた≪秘策≫、これは効果時間も使用回数も限度があるとっておきだ。

 手に入れたのは先日。アリの巣から脱出したときに発見し、試しに使ってみると劇的な効果が現れた。


 おそらくもう二度と手に入らないし、数に限りがあるこれを今日は思い切って使っている。


 最初は秘策のせいで苦しがっていたとげぞうも、流石に慣れてしまったようだ。


「さて……まだ居ない……か。とげぞう、ちょっとここで休憩だ。飯でも食おうぜ」


 俺はがけっぷちに荷物を降ろすと、その場に座り込んだ。


 ここは今日の昼食を食べた場所だ。丁度滝の真上に当たる場所で、拓けた場所になっているため休憩が取りやすい。


 ……あいつを初めて見たのもこの場所だ。


 今日の夕食は、生のどんぐりを5つに、芋なのか果物なのかわからない物を1つ、そして虫だ。


 何故どんぐりが生なのか。

 実はあれから、木の実の調理を何度も行ってきた。


 だが、どうやっても失敗するのだ。特に拠点を広場から、ギリギリ森の縁へと移してからは数回に一度成功していた丸焼きすら成功しなくなってしまい、いくつもの木の実が炭になってしまった。


 果物も、虫も同じだ。試しに焼いてみると一瞬で炎上、もしくは、良くて生煮えなどとにかく失敗してしまう。


 薪やその他、適当に焼いている物は普通に燃えているのに、食べ物になると思い通りにいかない。

 まったくもって意味の分からない炎は、今では完全に照明器具としてしか役に立っていない。


「贅沢はいってられないし、生のどんぐりも案外慣れてしまえばうまいもんだよ。虫のほうは、何でもかんでも食べずにちゃんと幼虫を選んで食べればまだ……食えないことはないし……。覚悟はいるけどな。お前がうまそうにぼりぼり食べるもんだから、結局俺まで食うことになっちゃったじゃないか」


「きゅ?」


 こいつ、幼虫を食べるのに夢中で俺の話を聞いてなかったな。


 とげぞうは、バリバリと嫌な音を立てるのを止めて首をかしげている。かわいいやつめ。


 さすがに毎食果物一個に木の実数個では、お腹が満たされない。

 栄養的にも、カロリー的にも圧倒的に足りない。


 そこで、結局とげぞうの餌として虫を捕まえなきゃならないのならと、俺も虫を食事に取り入れることになってしまった。


 数日前のように、虫を何でもかんでも食べていたらお腹のお百姓さんたちが怒ってしまうので、今は幼虫だけを食べることにしている。

 もちろん、事前にとげぞうに選ばせて、食えると判断した種類だ。


 とげぞうが食えるなら俺も食える……はずだ。


 俺は竹筒に入れていた幼虫を一匹取り出すと、口の中に放り込んだ。


 ……んぐんぐ……ごくん。


「うぉぇ! ゲホッゲホッ! うまい」


 あまりにうますぎて目から涙が出てきた。

 これは多分一生慣れないな。


 前々から思っていたが、虫は食事の最初に食べるのがよさそうだ。最後に食ってしまったら後味が最悪だ。


「あん? なんだよとげぞう。足りなかったのか?」


 気が付くと、とげぞうは俺のバッグに頭を突っ込み中身を漁っている。


 ふむ、そうか。足りなかったか。


「しょうがないなとげぞう、俺の虫をわけてやるよ。俺もめっちゃ腹減ってるけど、足りないならしかたないなー」


 今日はそこそこ幼虫の数が取れたので、まだ竹筒の中には数匹の幼虫が入っている。


 だが、正直気持ちだけはお腹いっぱいだ。もう結構です。


 竹筒から幼虫を取り出し、とげぞうに与えるとものすごい勢いで食いついた。


「おぉ……何度見ても虫を食う姿だけはちょっと引くな」


 鼻にしわが寄るほど口を大きく開けて幼虫にかぶりつく姿は、ちょっとかわいくない。


 ……おもしろいけどな。


「フシュ!」


 そんなとげぞうの姿を見て微笑んでいた時だった。

 それまで幼虫にかぶりついていたとげぞうが突然針を立てる。


「ん? どうしたとげぞう? ……きたか!?」


 慌てて振り向いた俺は、崖の先を見据える。

 心なしか、空気がピリピリしている。

 先ほどまでとは違い、異様な緊張感が太古の森を包み込んでいた。


「……いない。気のせ――っきた!!」


 月明かりの元、太古の森の中央部分がぼんやりと輝き出した。

 思っていた登場と違うけど、これはほぼ間違いないだろう。


「とげぞう、何があってもいいようにフードに入っとけ」


 ここから先は何が起こるかわからない。最悪いつでも逃げられるように準備しておく必要がある。


「きゅ!」


 とげぞうが慌てて俺のフードの中に駆け上がったところで、再び俺は森の光っているところを注視した。


 だんだんと光が強くなっている。

 こんな光景今までの人生で見たことない。

 なんと表現すればいいんだろうか。森の中央に、光のドームができている。


「綺麗だ……」


 俺はその神秘的な光景に思わず見入ってしまっていた。

 やがて光は、中央へと収束していく。

 光りのドームが半径を縮めていく代わりに、中の光は強くなっていった。


 どんどん小さくなっていくドームは、森の真上で光りの玉へと変わる。

 その光の玉は、吸い込まれるように森の中へと沈んでいった。


 森の中に、静寂が戻る。


「なん……だったんだ?」


 ――ゴゴ……ゴゴゴゴゴ……


 だが、その静寂も一瞬で終わりをつげ、異変が起こった。

 光の玉が消えた辺りの地面が突然膨らみはじめ、見る見るうちに盛り上がっていった。



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