決着の時
すみません、お待たせした上に短いです。
「あっつ! あちぃぃぃ!」
爆炎が上がり、思いのほか近かったため俺達も爆炎に巻き込まれそうになるが、蟲手器の盾を出しておいてよかった。熱風に耐えながら隙間から見れば、黒煙の中から何かが墜落しているのが見えた。
「ど、どうじゃ!? わらわも使えるじゃろ!?」
なんでとげぞうに張り合ってんだ。
チラチラこちらの評価をうかがってるんじゃないよ。
こんな糞近い場所でこんな大爆発起こしやがって、甲殻の腕が若干エビみたいに赤くなってるじゃないか。
ただまぁ評価するなら、控えめに言ってだな……
「最高だよ馬鹿野郎! なんだよ、ほんとに活躍してんじゃねーか」
「ケロケロケロ。ケーロケロケロ! 当然なのじゃー!」
この世界に来て、一番魔法少女してたのが蛙ってのが非常に納得いかないのはこの際気にしないでおこう。
「ご褒美に、尻から爆竹の刑は勘弁してやるよ!」
「尻!? 何の話じゃ!?」
何って、ギルドでとげぞう馬鹿にした罰だ。
真剣にあれから黒色火薬の製造方法思い出そうとしてたよ。硫黄とウンコ必要なことくらいしかおもいだせなかったけど。
「さて……馬鹿話は此処までだ」
遠目に見ても、表面が炭化しているのが分かるボイズが地面に立っている。
完全に翼は焼け落ち、呼吸も荒いがまだまだやる気らしい。ただ、藁人形がその場で崩れ落ちるように倒れている辺り、恐らくもうあいつらを操る力が残ってないんだろう。
「馬鹿話してたのはお主だけなのじゃ……で、大丈夫なのかの?」
「地面にさえ落ちてしまえば、こっちのもんだよ。大体なんとなくわかった」
カタツムリの眼のような不気味な目から生えた芽の片方が落ち、ボイズの本来の目が見えていた。
◇
黒く焼け焦げた肌からは、煙の臭いが漂っている。
見るからに、満身創痍といったところだ。
それでもボイズは牙をむき出しにし、咆哮を上げながら俺の方へ全力で駆け寄ってきた。一歩進むたびに、口の中から大量の緑の芽がふくらみ蠢くのが見える。
来いよ、これが最後だ!!
「うおおおおおおおお!!」
「ガアアアアアアアア!!!!」
走りながら口から放たれたのは、茨の濁流。
口からブレスではなく大量の茨が現れ、俺に向かって来た。
「その手で受け流すのか? ぬお! 大きくなったのじゃ! お主、全部が面白すぎるのじゃ!」
「ケロちゃんに言ってもわからんだろうけど、相手の全力が来るなら俺も正面から全力で迎え撃つのが礼儀だろ」
甲殻化した腕を前に突き出し、足を止める。
次の瞬間、俺の目の前は全て緑の濁流に包まれた。
「な……なんじゃ!? 当たった茨が萎れていくのじゃ!」
「しっかりつかまってろ! 全部、飲みつくしてやるよ!!」
獄夢を攻略してからしばらくたってからの事だ。
獄夢の中では出来なかったはずの、意図的なスキルの使用。それが可能になっていることに気づいた。
大量の魔素を使うこのスキルは、魔素の薄い場所では使うことが出来ないし試す機会が殆どなかったが、自在な発現からある程度の意思で形を変えること、さらに甲殻化した腕からも蟲達を出すことが出来るようになっていたのだ。
あの紫の核を吸ったことにより、スキルの力を操れるようになったというのがルルの見立てだった。
「おぉ、マナサキスか! もっとしっかり見せてみるのじゃ――のあああああ!」
「馬鹿っ! しっかりつかまってろって言っただろうが!!」
押し込んで来ようと力を振り絞ったのか、ボイズから流れ出す茨の威力が一瞬あがった。その瞬間に一気に体が押しやられ、ケロちゃんが俺の体から転げ落ちてしまった。
足元は、萎れることなく活き活きとした茨がいまだに流れている。あれに飲み込まれたら――
「きゅっ!!」
「のあああああ……と、とげぞう殿!」
ココで持っていくのがお前だと信じてたよとげぞう!!
転げ落ちたケロちゃんを、とげぞうが空中で咥えキャッチした。下半身が食われたままだが、あの様子なら大丈夫だろう。
「残念だったな、ボイズ! 今のが最後のあがきだろ!?」
一気に茨の力が失われていく。
俺は全力でそのまま茨の中を押しやるようにして進んでいった。
「…………」
ブチブチと、力を失った茨を引きちぎってやればそこに居たのはもはやただの木彫りの操り人形のように脱力したボイズの姿だった。