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原初の地  作者: 竜胆
旅の仲間
135/144

裏村

ちょっと遅れました。


 宿屋を抜け出してルルを探しに向かった後、出会ったのはまるでゾンビのように大勢で固まって移動する村人の雪崩だった。


 どうやら状況をすり合わせた所、あの腫瘍ゾンビたちはルル達のところに居た村人を襲った帰りだったらしい。


 廃村のようなさびれた村に、あんな虚ろな人間が居る事にすらビビったっていうのに、あいつら全員が全員あの目玉の実を差し出してきやがった。こんなに食えないと、それを断れば、完全に逝った目で俺を追いかけだしたのだ。


「こっちだ!!」


 タンジーに呼ばれて肉繭の裂け目に飛び込めば、腫瘍ゾンビたちはそこから先に入ることは出来ないらしく諦めていった。





 俺達は今、ひっくり返った机や椅子、割れた花瓶の転がる木造リビングの部屋の中に居る。


「……ふーん。そういうこと。で、いいのか?」


 肉繭の中は、家を丸ごと飲み込んだだけあって普通に家が存在した。飛び込んだ先は玄関のような場所で、ある程度の事情を聞く事が出来たわけだが、とてもいい話じゃないか。

 タンジーの兄貴ってのに、俺は好感を持てるよ。


 だけど――


「どうしよう、タンジーさん一人で行っちゃうなんて」

「……死んだかな?」


 飛び込んで、一息ついた瞬間だった。

 タンジーは中に入れたとわかった途端中へと走り出してしまった。

 扉の奥に消えたタンジーを追いかけたのだが、今居るリビングに彼の姿は無かった。 


 数秒しか経っていなかったはずなのに、見失うなんておかしい。


「なあ、ルル。確認だけど、コレがこの世界の普通ってわけじゃないよな? ここは、獄夢(ヘルムメア)なのか?」

「もちろん、異常としか言いようがないわ。だけど……わからない。限りなく近い場所だとはおもうんだけど、何か違和感があるし……」

「違和感っていうと?」

「劣化してるというか、未熟っていうか……なり切れてない?」


 もちろん、発症前の獄夢(ヘルムメア)を探してたんだから未熟なのは当たり前なんだろうが、その状態を知っているルルですら未熟と感じる……か。


 俺は、ちらりと玄関に繋がる扉を見た。


「俺としては獄夢(ヘルムメア)じゃないのなら、すぐにココから抜け出して顔隠し(フェイスレス)から逃げたいところなんだけどな」

 

 ここまで訳の分からない空間が、獄夢(ヘルムメア)と関係ないとは流石に言い切れない。

 だけど正直、この空間よりもあの得体のしれない二人の方に脅威を感じていた。

 居なくなった俺に不信感を抱いて、ここまで追ってくるんじゃないだろうな。


「……まさか、放っておく気?」

「それもありかなと」


 さっさと逃げようという俺に対して、ルルは眉尻を寄せながらムーッと唸って来た。


「ダメよ! もし此処が獄夢(ヘルムメア)だったら取り返しのつかないことになるわ。そうじゃなくても、タンジーさんに助けるって約束したじゃない」


 わぁ、もうすっかりやる気だよこの子。

 うーん。まぁルルの正義感考えると、そうなるだろうとは思ってたんだけどな。一応聞いてみただけだ。


 それならそれで、急がないとあの二人が此処を見逃すとは思えない。


「……はいはい、なら気合い入れてさっさとタンジーとその家族を見つけるぞ。頼み事だってしないとだしな」


 俺だって、助けられそうなもんなら別にわざわざ見殺しにするほど非道じゃないんだ。

 なんとかタンジー達を助けて、どさくさに紛れてあの二人から逃げるしかないか。


 だから、そんな怖い顔で睨むなよ。

 どんだけタンジーに肩入れしてんだ。

 え? なに? まさか、惚れたの? 確かに彼は影のあるイケメンだ。


 ……ま、まぁどうでもいいけど。


「で、だ。あんたは彷獄獣? それともここの家の人?」

「……え?」

「グ……ギャ……!」


 俺は、地面から湧き出してきた目玉だらけの藁人形のような奴に向かって武器を構えたのだった。

  

 



「……ゲ……」


 藁人形は、動きが素早いわけでもなく特出した強さは無かった。強いてあげれば、植物のように蔦が伸び、再生能力が高いところくらいだろうか。

 そして断末魔はあれど、銀の煙が舞うことは無かった。


「ふーん……悪くないじゃんアサシア。思わぬ試し切りになったな」

「二刀流の使い方なんて出鱈目だったけどね」


 アサシアの切れ味は、思った以上に良かった。

 今までがゴブリンの刃だったせいってこともあるが、明らかに魔素量から想定されるよりも切れ味が鋭い。堕族素材の特徴である放出魔素の硬質化が活きてるんだろう。

 腕なんかなくたって、力づくで物が切れるのはいいことだ。


 というか、アサシア……なんかおかしなことになってるな。藁人形の血が付着しないけど、弾いてる? あぁ、露がいい具合に血潮を弾いてるわけか。思わぬ副次効果だ。


 ルルが結界を張りながら、藁人形の死体を調べている。

 こういった未知のモンスターは、一か所一か所魔素計で調べながら採取素材を持ち帰ることになるってのはギルドで習った。魔素濃度の濃さ=最低保証額だ。


 そのため、この魔素を調べる作業は結構ワクワクする探索者の楽しみの一つであるらしい。

 思いのほか魔素濃度が高かったりすると「当たり」って奴だ。


「これ……魔素納入だけで結構良い線いくかも? 3.2もあるわよ」

「おぉ! 臨時収入っ!」


 今回は時間もないため、比較的魔素濃度の高いメインの目玉を採取することにしたようだ。

 もしかしたら、用途次第ではもっと良い額になるかもしれないな。因みにゴブリンは魔素濃度1で、銅貨5枚だ。

 この調子なら、結構数もやれるかもしれない。


 うーん、ただなぁ。

 普通に死ぬし、素材も取れる……か。


「雑魚……ってわけでもないけど、彷獄獣でもない。なんなんだこいつら?」

「やっぱり何か変な空間だわ……」


 物悲しく鳴く鳥の声が、響き渡る。

 ルルがリビングから奥に通じる扉を開き、俺達は目を疑った。


「ど……どうなってんだ?」


 扉を抜けた先に広がっているのは、何とも奇妙な場所だった。肉繭の中に、また村が広がっているのだ。

 外に出てしまったのかと思えば、そういうわけではなくやはりどこかがおかしい。


 今は昼間だったはずなのに、村は夕日に照らされ誰一人外に居ない。いや、うろついているのは藁人形のみだ。


 近くの家を覗き見れば、目を閉じた人間が食卓を囲み一心不乱に何かを貪っていた。

 

 食べているのは、何かの豆……?

 どうやら藁人形が豆を運び、彼らがひたすら食べると定期的に吐き戻される目玉をまた藁人形が運び、外へと放出しているようだ。

 彼らをそのまま村人と呼ぶのはややこしいので、裏人と呼ぶことになった。


「あの目玉、外の村人が食ってた奴だ。一体なんだ?」

「わからないけど……あの藁人形にさえ見つからなければ他の危険はなさそうね……」


 とげぞうが警戒することもなく寝ていることからも、とりあえずの危険性はなさそうだ。


 襲ってくる藁人形を倒しながらしばらく村を歩いてみたが、何とも奇妙な夢を見ているようで気持ちが悪い。


 村に生えた木々の間を通り抜ければ、誰とも知れぬ笑い声が聞こえるが誰も居ない。

 無視して歩いて居れば、野外なのに唐突に机の上に料理が乗ってたりするが、近づくと消えてしまった。

 

 草を抜こうとすればズルズルと同じものが繋がって出てくるし、手を放せば引っ込んだ。

 葉の上では、芋虫がパイプをくぐらせている。


 何だってんだ一体?


「もう、大体周ったよな?」

「うん……。藁人形もかなり少なくなったし、裏人は反応なし。タンジーさんどこ行っちゃったんだろう」

 

 試しに元の小屋へと戻ってみれば、そこにあったはずの小屋が無くなっている。


「わけがわからん……ん? 音楽?」

「どこから聞こえてるのかしら……」


 途方に暮れていると、突然村中に酒場で聞く音楽のような音が流れ出した。かと思うと、村の周りの森だけがまるでテレビの風景のように回りだしたではないか。


「う……気持ちが悪い……。メリーゴーランドの中に居るみたいだ」

「動いてないのに景色が動くと、自分が動いてるような感じがするわね……」


 洗車機に入れた車に乗ってるときのような違和感だ。

 やがて森の回転が止まったと思ったら、また森の奥から藁人形たちがフラフラと現れた。


 何だったんだ一体……。


「あれ? うそっ! 軽いと思ったら、藁人形の目玉が無くなってる!」

「は!? あんなに集めたのに!?」


 開いて見せられた袋の中は、何も入っていなかった。

 20か30は集めてたよな? マジかよ。


「……もしかして、また最初から?」

「何なのこの村は……?」


 入口の小屋が消えたため、外に出ることも出来ない。

 いくら村の中を歩いても、やはり同じように村は回転して元に戻ってしまった。

 

「見ろ、折ったはずの枝が元に戻ってるし、傷つけたはずの板の傷も無くなってる」

「やっぱり、回転がリセットされるタイミング……?」


 俺達は、さらに村を3週周ったが、やはり何も見つからなかった。






 奇妙な声が聞こえた。


 それは、4週目の村の事。

 突破口を見つけられずに居た俺達は、改めてもう一度裏人たちの家を捜索し直していた。


 その家では、相変わらず何かを食っている村人のテーブルが、まるで中華料理のターンテーブルのようにずっとグルグルと周っている。


 こんな訳の分からない現象は、もう見飽きたのだがそこの辺りから声が聞こえた。

 回る料理を見てみれば、そこには緑色の小さな豆のようなものが。


「目が回るー。誰か止めるのじゃー」

「……何してんのオマエ?」

「ケロちゃん!?」


 そこに居たのは、転がる豆に翻弄されて身動きが取れず机と共に回り続けるアマガエルだった。

 

「お……おぉぉ! ゲン! ルル!! 遅かった……のぉ!?」

「お、おい!?」


 豆の皿から救い上げると、ケロちゃんは飛び上がって立ち上がろうとして、目を回してそのまま倒れ込んでしまったのだった。




【ゴブリン複刃改:双剣アサシア】 製作者、ゲン

 品質D-


ゴブリンの変異種の骨を使った双剣。

形としては唯の二本の短剣だが、その刀身は白く霞み常に露に濡れている。

作り出す靄は刀身の姿を歪める効果を持つ。

残留魔素濃度が比較的高く、魔釉薬の効果により見た目よりもはるかに高い硬度を誇る。

常に湿り気があるため、手を滑らせやすい。


硬度+1

切れ味+1

命中率+1

劣化速度低下

落下率上昇

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏側の村とか和風ホラー的な不気味さがあって良いですねえ 1、2部が脱出系サバイバルなのに対して三部は探索、採取系要素が多めなんですね。1部の牙の槍作成の場面とか好きな場面だったので嬉しい限り…
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