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原初の地  作者: 竜胆
旅の仲間
126/144

瞬時に治ればノーカンだから

ルビの名称は、確定のものじゃなかったりするので後日あっさり変わってるかもしれません。


 1メートルほどの汚らしい緑色の体。その背中に生えている、純白の美しい羽根がゆっくりと羽ばたいている。


 長いカギ鼻がヒクヒクと動き、目はギラギラと月夜に反射していた。見た目はどう見ても強そうに見えないのに、なぜか背中から汗が止まらない。


 羽根ゴブリンはしばらく口の中の物を咀嚼した後、歯の隙間に挟まった何かを鋭い爪でシーハーと抜き取った。

 月光に生々しく輝くそれをみて、嫌悪感が噴き出す。

  

 それは、金色の髪の毛だった。


「……あっちむいて」

「ギ……?」


 ゆっくりと、指をさして見せた。


 羽根ゴブリンが、俺の指を興味深そうに見ている。やっぱ、少し知能があるタイプのほうがこの技は効きやすいんだろう。


 ニタニタと笑い、俺のことを完全に舐めてやがる。


「ほいっ」

「フシュ!」

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」


 羽根ゴブリンの悲鳴が上がるのと同時に、俺は一気に距離を詰めた。もちろん虫達から魔素は受け取ってある。

 そのまま一気にナイフを突き立て――


「ッシ! ……な!?」

「ギ……ギィィィィッ!!」


 馬鹿な、目は見えてなかったはずだろ!?

 ゴブリンは、俺の攻撃を回避すると空中に逃れこちらに牙をむき出しにして威嚇している。そして次の瞬間、一気にこちらに下降して来た。


 ――早いっ!


 ギリギリで下降を避けると、とげぞうがすれ違いざまに針を飛ばす。だが、羽根ゴブリンは意に介さずそのまま空中を大きく旋回しだした。


「ルル、準備は?」

「大丈夫。おねーちゃんに任せなさい」


 誰がねーちゃんだ。


 だけどいいね、案外余裕あるじゃん。

 やっぱ獄夢(ヘルムメア)なんて体験してると、肝の座り方が変わるよな。


 ルルは、男を庇いながらも着々と準備を進めていた。

 

 っち、空に行かれると戦う手段が一気に減る。

 とげぞうの針も、飛ばせて数メートル。中距離程度だ。

 やっぱり早いこと、後衛タイプの仲間を見つけるべきだったか。


「ゲンちゃん、あれくらいの相手ならもしかしたらアウラ吸えるかもよ」

「……俄然やる気出て来た。虫ばっかりに頼ってられないもんな」

 

 逃げるべきかもと思ったけど、ここでアウラを吸っておけるならありがたい。

 

 って、それってつまりこいつのアウラ……魔素濃度がかなり濃いところ相当の相手って事だよな?


「なぁ……ルル、もしかしてアイツって……」

「えぇ、恐らく災害級堕族に匹敵するわ。本来なら顔隠し(フェイスレス)が呼ばれるべき相手のはずよ」


 顔隠し(フェイスレス)……か。かなり上位の、魔素濃度1じゃ生きていけないモンスターのような人間って事だよな。

 確か、マズローとネルがそれだって言ってたはずだ。


「変異種のオーガぐらいの化け物じゃないと呼ばれないとか聞いたんですがねっ」


 急降下してくる羽根ゴブリンは、巨大な顔に変化して一気に俺にかぶりついて来た。だが、それに合わせてルルの結界が作動する。


「ッギ!!」

「ナイス足止め!!」


 空中に展開された部分的結界が、羽根ゴブリンの動きを止める。そこに合わせて投げておいたナイフが、羽根ゴブリンの翼に突き刺さった。


 だが――


「……タフ過ぎない? なんでもう傷治ってんだよ」

「ゲンちゃん、後2分で枯渇して死ぬわよ」


 くそっ、思ってたよりヤバい。

 もう少し機動力が落ちると思ったんだが、翼が傷ついても一瞬で回復しやがった。

 

突如現れる通行止め(インビジブルクローズ)? あ……あんたらは一体!?」

「やっと正気に戻ったのね。あの羽根ゴブリンは何者?」

「わ、わからない! 村からみんなで逃げ出して、助けを呼ぶ途中で突然襲われたんだ!」

 

 ルルの質問に男が答えるが、何の解決策にもならない。

 

「だ、だめなんだ。いくら攻撃してもすぐにくっつくんだ……」


 男は肩を抱きながら震える。

 その間も俺は、羽根ゴブリンの攻撃を避けまわっていた。


「だあああ! 糞、うっとおしい! 全然当たらねぇ!」

「ギー!!」


 お互い、攻撃が当たらないためイライラが募っている。

 かといって簡単にあいつが大振りになるわけでもなく、俺が焦っている様子を見せれば、あと2分ほどで活動限界なのがばれてしまう。


「ルル、アレやるから準備を! 一気に片を付けてやる!」

「ううー、女は度胸!」


 そういやそうな顔するなよ、痛いのは俺なんだから。


「ッギィ!」


 羽根ゴブリンは、俺が何かするつもりなのに気付いたのか先に勝負を仕掛けて来た。

 一気に急下降したゴブリンの爪が、目前に迫る。

 

――ザシュッ


「ひっ」


 俺の肩を、羽根ゴブリンが深く切り裂く。

 腕の4割の肉がえぐられ、骨まで見えるほどの深い傷は一瞬間をおいて血を噴出した。


 見ていた男から、小さな悲鳴が上がった。

 ぐぅぅぅ、叫びたいのは俺だって。 


 激痛に耐えながら、俺はそのままゴブリンにしがみ付くと羽根の根元からナイフを突き立てた。

 肉を切らせて骨を断つって奴だ。


大いなる癒しを(ラビルド)……!」

「ギィィィィィ!!!」

「もう三秒早く!」

「それくらい我慢して! タイミング難しいの!」


 ルルの回復魔法が俺に飛び、傷を癒す。

 そのまま、俺は一気に羽根を引き裂くが、ゴブリンも俺の体をがむしゃらに引き裂いていく。


「重ねなきゃ意味ないって、何度も言ってるじゃん!」

「あぁもう、今修正してるから! 大いなる癒しを(ラビルド)……! 癒しを(リビル)……! 癒しを(リビル)!!」

 

 ルルの回復魔法が乱舞し、俺に付いた傷をすぐに消していく。


「あああああ。忙しいなぁもう!! 言っとくけどこんなの私しか出来ないんだからね!?」

「ねーちゃん頑張れ」

「がんばるうううう!」


 これが強敵に出会ったときに決めておいた、糞みたいに効率度外視の、ただ生きるための作戦だ。


 名付けて『瞬時に治ればノーカンだから』


「全然ノーカンじゃねぇぇぇ!! いてぇぇぇ。この糞!!」

「だから言ったじゃないの……癒しを(リビル)!」

「ギィィィ!?」


 羽根を引き千切った俺は、そのまま羽根ゴブリンと地上戦に突入した。

 

 ――羽根が生え変わるまでに決着をつけるっ!!


 俺の体が傷ついた瞬間に、ルルが的確に傷ついた部位に魔法をかけていく。完全に治さなくていい、止血だけしていけ。


「ば……馬鹿な! 即時回復!? そんなむちゃくちゃな……!」


 男が、信じられないものを見たという顔で俺を見ていた。


「回復魔法にはアウラを使うから、身体能力の低下がみられて行動中の回復魔法の使用は嫌われるって言ってあるんだけどね……。そんな些細な違い何て俺にはわかんねーよですって。バカよね?」

「そ……それにしたって……正気じゃない……。回復魔法の速度だって……。完全に動きを読み切ってないと、あんな置き打ち不可能だ! あんたたちは一体……?」


 うるせーな。違いが分かんねーんじゃなくて、虫共がアウラに流れる分の魔素をセーブしてるせいでアウラが余ってんだよ。

 

 人をバーサーカーみたいに呼ぶなっ。


「っ!! しまっ」

「フシュッ! ッシュ!」

「ギィィ!!」


 一瞬気が散ったのが悪かったんだろう。

 その一瞬で、翼がいきなり生えた。

 くそ、こいつ狙ってやがったな!?


 とげぞうが追い打ちで阻止しようとしたが間に合わなかった。

 

 羽根ゴブリンは、一気に空中に飛び立ってしまった。

 今まで必死に付けた傷が、空中で治っていくのが見える。


「だああああ!! ちくしょう!!」

「ゲンちゃん!! 時間が無い!」

「バカ! 大声で言うな!!」


 通じてるのかわからないが、羽根ゴブリンが上空で笑ったような気がした。


良かったら、感想おねがいします。

これが面白いのか悩みすぎて手が止まっちゃうことが多いので……。

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