料理
「ところで、街の様子はどうだった? なんか情報は仕入れられた?」
「ゲンちゃんの腕が暴走して、居られなくなった街の様子ね」
「お? それに触れるか? 変装するまでもなく、誰も気づいてくれない聖女様が喧嘩を売ってますよとげぞうさん。お布施が足りなくて喧嘩でも売らないと生きていけないんでしょうね」
なんか、旅は順調だったはずなのに色々あって、俺は人の住む町というものに一度しか入ったことが無い。
指名手配犯だしね……気軽にウロウロできないんだよね。
リベンジマッチか? 喧嘩はいくらでも買うぞと、目の前で触手をうねうねさせれば、顔を引きつらせたルルが話を戻した。こいつが話を脱線させたときにはこれに限るね。
「相変わらず、国内の獄夢の新しい情報は無し。せいぜい知ってる有名所の情報ばっかりね」
ルルは指を折りながら、続けた。
「ドワーフ国の【死金石の鉱山】に、聖都の【怒り狂う鬼の蠱毒】、獣人連合国の【煮えたぎる動物の谷】って感じ。やっぱり国外をめざしたほうが良いんじゃないかしら」
「んー、そうしたいのは山々だけど、案内人が全然役に立たないから、少しはこの世界に慣れておかないとだしなぁ。一緒に戦える仲間も見つけたいところだし」
晶達を助けるためにも、次の獄夢を攻略して核を手に入れることは急務ではあるんだが、いくつか問題があるんだよなぁ。
ちらっと、ルルを見る。
「うぅ……。10年も獄夢に閉じ込められてたら情勢だって変わってるに決まってるじゃない。気分は浦島太郎よ……」
やめろよ。その顔で日本の昔話出されると、違和感しかないわ。
ルルは、村を出てすぐは意気揚々と「私に付いてきなさい」とか言ってたくせに、近場の村の場所どころか物価すら知らなかったせいで今焦っているらしい。
おかげで、最近の事情に疎い二人組の完成だ。
ってか、太古の森での生活から10年も経ってるなんていまだに信じられねぇよ。
ちなみにルルは、獄夢での結界の核となって魂を礎にしたことで、その間の成長が止まったのだとか。
「若作り……」
「なにー!?」
殴られた。
とにかく、こんな状態では獄夢どころか普通の旅も危ういという事になり、現在リハビリ中である。
そして、もう一つの問題が俺達の指名手配問題だ。今のところ追手や手配がきついわけではないのだが、流石に国外に出るとなると身分を偽る必要があるだろう。
まぁ、晶に動けない自分の代わりに、この世界を楽しめとも言われたしな。
こうやって、街の近くに陣取って情報を仕入れたり、人の生活になじむ努力をしながら対策を練っているといったところだ。
そんな生活がここ数日続いてるわけだが、どうもルルは姉ポジションという謎の居場所を見つけたらしく、そこにしがみ付こうと頑張っているようだ。
確かに、傍から見たら中学生と高校生の姉弟に見えんことは無い……。
だが、そこが最初から座れるはずの無い空気椅子だと気づかず、中腰でプルプルしている様は滑稽である。誰が姉なんて認めてやるか。百歩譲って妹だよお前は。
◇
しばらく沈黙が続き、虫の音ととげぞうの寝息だけが響いていた。
スープの具が焦げ付かないようにかき混ぜながら、さらに街での状況を聞いてみたものの、何故かルルの表情はすぐれない。
まーたなんか悩んでるのかこいつは。
「まぁ、腕に関してはもう少しゴブリンで魔素集めれば解決するし、やっぱりそれから出発でいいんじゃないかね」
「それはそうなんだけど……」
なんだ、なんかはっきりしないな。
いや待てよ。この表情、初めて人里に降りてイキってみるも、知識が古すぎて役に立たなかった時に似てるぞ? 嫌な予感しかしない。
「実は、もうお金が……」
「は?」
「いや、だからもう資金が……ね?」
いや、何言ってるのこいつ?
俺が街に入れないから、虎の子の金貨渡したよね?
俺が獄夢で粘筋採掘してるときにゲットしたタイガーベビーちゃん。
確かアレ、今の物価で10万円くらいの価値だって結論にならなかったか?
「いろいろ買ってたら、すぐ無くなっちゃった」
「てへじゃねぇ! どうすんの!? 金ならあるから心配すんなって村の皆の餞別断って来たのに。ゴブリンの耳の納品報酬なんて銅貨5枚だぞ? 500円相当だぞ?」
信じらんねぇ!
どういう金銭感覚してんのこいつ?
なんでたった数日で10万溶かしてくるんだよ。
何買ったんだよ、まさかまた新しいアニメ衣装じゃないだろうな。
「ちがうの、聞いて? とげぞうちゃんが露店で色んなもの勝手に齧っては吐き出していくの」
「…………それで?」
「食べ物じゃないって止めてるのに、高い錬金素材なんて一口齧ってぺって。すごい勢いで露店駆け回ってくの! 全然止まってくれないの!」
「……………」
うん。とげぞうさん、大興奮だったか。
露店とか初めてだしなー。
頭の上で、とげぞうの鼻ちょうちんがピスーと膨らんだ音がした。大満足だったらしい。
「……さて、そろそろ煮えたし飯にすっぺ」
お、もう芋もいい感じに柔らかいし食べごろだな。
「ちょっと! 反応おかしくない!?」
「腹減ってんだろ? これでも食いねぇ食いねぇ」
「そこはとげぞうちゃんにちゃんとビシッと飼い主らしく――むぅ!」
ルルは全く納得いかない顔で、俺に無理やり押し付けられたお椀を受け取り、まだ言いたいことはあるんだからとばかりに掻き込んだ。
「ブォゥェロロロロロ!」
そして吐き出した。
「わああああ汚ねぇ! 何してんだよ!?」
「げほっ! な、何コレ!? エグミと酸味が絶妙に混ざり合って後味に妙な甘味が……香りは良いはずなのに最後にはドブのような臭みが!? 何入れたのこれ!?」
「えっと、そこらへんに生えてて試し食いで問題なかった雑草類に、とげぞうが齧ってた木の根だろ」
「もう……何入れてるのよ……。野菜買って来てたでしょ?」
「あと、ゴブリンの肉」
「!?」
うん、俺も食ってみるけどまぁわるくないよ。
いや、正直いれない方がうまいんだろうけどさ、森での生活とか獄夢での生活を体験しちゃうと、またうまいものに慣れて極限生活に戻るのって怖いじゃん?
とりあえず、普段から野生で食べれるものの選定もしなきゃだし。今後いつ食べ物が調達できなくなるかわからないから、余裕のあるうちに野草の効能などの選定は済ませておきたい。
あと、適度に不味い物食ってれば、あの状態でも耐えれると思うんだよね。
なにより、舌が馬鹿になっちゃって普通にうまい物だと逆にちょっと満足できなくなっちゃってる。ゴブ肉に至っては癖になってきた。
「……馬鹿なの?」
「俺は食べ物は大事にするべきだと思ってる」
ゴブ肉大量に手に入るしな。
ルルはひとしきり俺に罵声を浴びせたあと、街へと帰っていったのだった。
開始2連続会話回っていう。
批判は甘んじて受け入れます。
こんな感じで緩いのが続くと思います。
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