旅立ち
本日二話目です。
「で、その恰好はなんだ?」
出発の日。
準備を終え、いざ出発と言うところでルルが村の出口に立っていた。
恰好はと言えば、すっかり血やヘドロで色がくすんだアニメ衣装に、ユニコーンの杖。そして大きな背嚢。
「決まってるでしょ! 私も行くのよ」
「ふーん。いってらっさい。それじゃ俺はこっちなんで」
「行ってきまーす!」
……さて、折角晶たちがなけなしの魔素を分けてくれて体型も戻ったことだし急ぎますか。
「じゃ、みんな元気でな」
「お、おい。良いのかアレ?」
見送りの皆さん、世の中には触れちゃいけないものってのがあるんだよ。
「いい天気だなぁ。とげぞう」
「きゅ!」
「ばかぁぁぁ!! 止めなさいよ!!」
別の方向に出発しようとすると、ルルが猛スピードで走って帰って来た。
元気だなこいつ。
ほら、さっき盛大なお別れをした村の皆が後ろでポカーンとしてるじゃないか。
「2点」
「5段階評価なら悪くないわね!」
あほか、100点満点に決まってるだろうが。どんだけポジティブな思考してんだよ。信じられん。
「いや、意味が分からん。とげぞう、俺こいつ誘ったか?」
「きゅー?」
「ほら、聞いてないってよ」
「言ってない! とげぞうちゃん絶対そんなこと言ってない! 文字数もあってない!」
いやいや言ったって。俺ととげぞうくらい心が通じてればあの一言に3万字くらい込められてるから。
それにしてもこいつ、あれからブローチ使ったせいでなおさらノリがおかしなことになってるな。
「ゲン、少しいい?」
「何だよ晶。こいつ引き取ってくれるの?」
「アキラちゃん! ゲンが意地悪する!」
涙目で縋りつくルルを、晶が頭を撫でながら慰める。
おい、何だよ何時の間にそんなに仲良くなったんだよ。
「ゲン、君の名前はゲンだ。他の誰でもない。元希は僕の中に居る。僕はこれからもずっと君をゲンと呼ぶよ」
「……あぁ。俺は俺だ。名前なんてどうでもいいよ。これからもゲンでいい」
そう答えた時だ。何かが体の中からすっと抜ける気がした。
「これで、君の真名は消滅したよ」
「ん……? それってあんまり良くないんじゃねぇの? 真名持ってたほうが、なんか魂の魔素の流れが良くなるんだろ?」
なんかそんな説明受けてたんだけど。
だからこそ、デメリットを飲んでまで真名を受ける人が多いわけだろ。
ってかあの宣言って何かの儀式だったのか。
怪訝な顔をしてたようで、ルルが呆れたように説明してきた。
「あのねぇ。私たちは、納得できないけど指名手配犯なのよ? そんな人間が真名なんて持ってたら万が一の時に弱点になりかねないわ」
「あー……、アレがもし本物のばーさんだったら国中に真名が渡ってるってわけか」
「アキラちゃんに感謝しなさいよ。真名の証人が破棄を許可しないと、真名の破棄なんて早々できないんだから」
そいえば、莫大な金請求されることもあるとか言ってたな。なんたってほぼ命を握られてるようなもんだからな。
「そっか。サンキュ晶」
「僕に出来るのは、此処までだ。あとは……そうだね、ゲンは今後村に帰ってくることを禁止するよ」
「えっ!?」
「少なくとも、その腕を制御出来るようになるまで帰って来ちゃだめだ」
「なんで!?」
此処は俺の故郷みたいなもんだぞ!?
えぇ? 俺なんかしたか?
「これからこの村はどんどん発展させていく。それはある意味で、獄夢化が進むようなものだから、腕が暴走するようなことがあれば、村がゲンに滅ぼされちゃうからね」
ま……マジかよ。
そういえば、腕が色々やらかしてたわ。
ちょっと村救ってくるってつもりで感動の旅立ちしてるのにまさかの勘当の旅立ちだった。
「ぷふっ」
「笑ってんじゃねーよ!」
「痛い! なにすんのよ!」
「ぐはっ」
ツッコんだら、蹴り返されたんだが。
痛い、マジで痛い。泣くよ?
「貧弱過ぎる……ほんとに旅立って大丈夫なのか?」
「ほら! みんなも言ってるわよ! 私が居たほうが良いって」
「耳が腐ってんじゃねーの? 誰一人そんな事言ってねぇよ」
止めろ、そんな目で見るな。俺は本番に強いんだから大丈夫なんだよ。
ギャーギャーとルルと一歩も譲らず言い合っていると、いい加減呆れた顔の晶が口をはさんできた。
「んー、そこまで言うならとげぞうちゃんに決めて貰ったら? 基本的に戦闘で言えばとげぞうちゃんに負担がかかるんだから、とげぞうちゃんが必要かどうかで決めなよ」
「それはいいわね!」
ふむ、晶ナイスアイディアだ。
とげぞうは、俺と一心同体だからな。二人旅にこんな変な女連れて行けるかって突っぱねてくれるはずだ。
「よし、あっち向いてホイで決めるか」
「きゅ!」
「それ死ねる奴! 今の話聞いてた!?」
えー、とげぞうと俺で出来るゲームと言えばそれしかないんだけど。
ほら、なになに出番か! みたいな感じでとげぞう起きたじゃん。
「普通に、とげぞうちゃんに聞きなよ……」
「えー、つまらんな。とげぞう、ルルは必要か?」
「っきゅ!!」
俺が問いかけた瞬間、とげぞうが全力でルルの元へと走っていった。
……あれ? とげぞうさん?
「きゅっ!」
とげぞうが、素早く駆け上りルルの頭の上に乗っかり座り込んでしまったわけだが、とげぞう……。
「決まり……だね?」
「……はぁ。わかったよ。好きにしろ」
「やったー! とげぞうちゃん、大好き!」
晶が、覗き込むように俺の顔を見て来てウィンクした。
見てなかったと思うか? お前、ルルのフードに肉でも入れてただろ。とげぞう、もぐもぐしてんぞ。
腹立つのは、ルルの奴何も気づかんとドヤ顔してるところだ。
「ゲン、君は外の世界で獄夢の攻略を。僕たちはこの村でダンジョンと村の発展を。お互いやることは違うけど、心はいつも一緒に居るつもりだよ。君のサポートになるように色々考えてるから、その内手紙を送るよ」
「あぁ、村がどんな発展を遂げるのか楽しみにしてる。ただ、追手にだけは気を付けろよ。信用できる人間見つけたら連絡要員を頼んどくからな」
晶と握手を交わすと、横からもう一つ白い手が伸びて来た。
「よろしくね、ゲンちゃん?」
「……なんでちゃん付け?」
もう何なんだこの女は。
やれやれと言った様子で、みんなが見送ってくれる。
泣くな、アリエル。すぐ帰ってきてみせるさ。
え? 笑ってたの? ……まぁいいや。
「ゲン、お前は本来悪夢を終わらせた英雄なんだ。指名手配なんて気にせず、胸張って行け!」
「ついでに俺達の真実も広めてくれよなー! 英雄は沢山いるんだぞってな!」
「おめーは唯の難民じゃねーか。ゲン! 触手が制御できるようになったらいつでも帰って来いよ!」
「ゲンちゃん! ルルねーちゃんと仲良くねー!」
だんだんと、後ろから聞こえる声が小さくなっていく。
「絶対、世界を救おうね」
「なんでそんな話になってんの? 俺は村を救うために獄夢の核を手に入れに行くだけだ」
「それが、世界を救うことになるの。獄夢は殲滅でしょ!」
……まぁ、こいつも色々思うところとか目的があるんだろうな。
ばーさんの話したとき、一瞬顔色曇ったし。
しゃーない、かぁ。
「なぁ、聞きたいことがあるんだが」
「え? 何?」
「とげぞう、なんで聖獣様って呼ばれてたんだ?」
「え? 今それ?」
「聞くタイミングがなかったんだよ」
バタバタしてたしな。なんか意味はあるんだろうとは思ってたけど、知っとかなきゃいけない感じでもなかったし。俺の中では聖獣化なんて当然の格付けだし?
「ごはん……」
「ん?」
「ご飯、とげぞうちゃんが備蓄まで食べちゃうから、怒られないように聖獣だって言い張ってたのよ」
「……なんか、すまんかった」
「きゅー……」
とげぞう、危うく害獣扱いされてるところじゃねーか。
なんだよ。託した時からずっととげぞうの事守ってくれてたのかよ
「ルル、これからよろしくな!」
「その認められ方は、なんか納得いかないんだけど」
「ははは。とげぞうが店の物食い散らかした時の、免罪符ゲットだぜなんて思ってないさー」
「きゅ!」
「やめさせなさいよ!?」
まぁ、にぎやかなのも悪くない。
森の一本道は、案外日が差し込んで明るいもんだった。
お疲れさまでした。
これにて二章完結です。
三章君は行方不明なので探さないでください。
嘘です。とりあえず詳しくは活動報告の方にて。
ご愛読ありがとうございました。
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明日への活力にします。