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原初の地  作者: 竜胆
2章:手血肉燐の都
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羅刹鬼菩薩


――ギャハァァァァ


 笑うようなその声が、戦いの開始を告げる合図だった。


 ウネウネと虚空を彷徨うウデワナが、狙いを俺達に定めて一斉に動き出した。


「来るぞ!!」


 バッと四方八方に散ったなまめかしい腕が、俺達を掴まんと流星のごとく猛スピードで迫ってくる。


 やばい、このスピードはちょっと俺には対応できないかも。

 

「強化:レッグ!!」

 

 駆けだしたのは、マズローだ。王種の残滓を組み込んだ剣で、ウデワナを切り払っていく。

 いくら亜種のウデワナだろうが、脚の強化スキル(ザ・マッスル)を使ったマズローなら付いていけるようだ。


 撫で切られ、ビチビチとトカゲの尻尾のようにのたうち回った腕は粘筋に吸収されていった。

 キプロスはマズローと共に。タイマルネ、グリッチの後衛2人はネルと共に並んで魔法を放っている。


「ロックバレット!」

「アイスバーン!!」


 ただ放つだけでなく、残滓の欠片を乗せた複合魔法だ。

 これまでために貯めた残滓の大量消費により、弾幕が張られ氷や岩が腕を引きちぎる。


「シャァァァァ」

「っち!」


 王種の幼生と化した赤子は、蠍のような形をもって弾幕の死角からマズローへと襲い掛かる。

 足が増え、尻から腕の尾を付けた赤子の蠍は、その毒々しい紫色の尾をマズローへと向け飛び上がった。


 その蠍を横からネルが打ち抜き、地面に踏鞴を踏んだところでラニャの水魔法が地面から吹き上げ蠍はひっくり返ってもがいている。


 ――行けるっ!


 ひっくり返った蠍ん坊に向かうと、俺はナイフを使って足数本を走り切り、最後に回転しながら尾を切り落とした。流石に王種の武器なら、固い王種相手でも大した力は要らないようだ。


「っが!?」

「フシュッ」


 蠍ん坊の特殊能力なのか、一瞬体が物理的に重くなった気がしたが、とげぞうの針が顔面をとらえそれも消えた。


「くそっ、リーチが足りねぇ」

「ゲン! 武器の中にあるエネルギーを解放するイメージで叫びなさい!」

「こうか!? 解放!!」


 その瞬間、王種のナイフに着いた無数の口が開き、呪詛を吐き出す。すると、一回り小さくなったナイフに風の刃が纏わりついた。

 かっけぇ!!


「おぉぉ……!」


 王種とは言え、所詮は生まれたてか。

 俺が風の刃で首を落とし、ネルがウデワナを落とす片手間に、首だけで動き回ろうとする頭を炎の矢で打ち抜けば本体も動きを止めた。

 

 蠍ん坊を吸い殺しながら、俺はマズローの戦況を伺う。


 ウデワナは量が多くマズロー達だけではさばききれない。

 マズローの横をすり抜けたウデワナが数本、ルル達へと襲い掛かっていた。


「きゃぁ!」

「やっぱリ、こいつらとは相性が悪いネ!」


 弓を何本も打ち、粘筋に貼りつけていくネルの腕前はかなりのものだが、流石に処理がしきれない。

 俺は急いでルルたちの下へと戻り、何とかウデワナを数本叩き落とした。


「大丈夫か!?」

「ゲン! 行って!!」

「行ってって、今ヤバかったろ」

「ラニャと二人なら限定的な結界だって張れるし、大丈夫! それよりも今は腕の数を!」

「一発や二発くらいなら耐えて見せますの」


 それ以上は耐えれないって事か。

 とにかく、腕の数が多すぎてマズロー達も羅生鬼菩薩へと近づくことが出来ない。

 少しでも数を減らさないと、どうしようもなかった。


「今の王種を吸った魔素で、今までよりアウラの親睦性が上がってるはずよ!」

「とげぞう! いくぞ!」

「っきゅ!!」


 俺は、とげぞうと共に走り出した。



 体が軽い。確かに、さっきよりも体にうまくエネルギーが回っている気がする。襲い来るウデワナの手のひらに、うまい事ナイフが刺さった。

 が、そのナイフごとウデワナが手を握りしめてくる。

 ギリギリという音と共に、ナイフの刃がたわんだ。

 ――まずいか。


 そう思った瞬間、ウデワナに向けてとげぞうが針を飛ばした。

 マシンガンで撃たれたように、ウデワナの腕が削り取られ引きちぎれていく。

 繋がりの浅くなった腕を、引き抜いた短剣で一気に切り裂いた。


「ナイスだとげぞう!!」

「っきゅ!」

 

 やれる。

 主のウデワナだろうと、俺は戦える。

 何本もの襲い来るウデワナを、俺は走り抜けて躱していく。


 壮快だ。

 実に壮快だ。


「ははははは!! 森を思い出してきた!!」


 森……そうだ!

 ウデワナはお互いの腕が邪魔しあって、深くは追ってこれない。

 それを見て、戦い方を変えた。


「さすがに、結ぶなんて漫画みたいな戦い方は無理だろうけどさ!!」


 追ってくる腕をからませるようにして動いてみても、生きた腕が絡むなんてことはまずない。


 ならばと、わざとクロスさせた腕の接地点に向かって俺はバインドローズを投げる。

 これは、獄夢(ヘルムメア)の暮らしの中で使い方を見出した、血に触れると急成長して獲物に巻き付く蔦だ。


 自分で絡まることは無くても、重複地点を固定されればそれは動きを封じられたのと同じこと。

 それほど強い力じゃなくても、互いに動きを邪魔しあうウデワナは良い的でしかなく、俺は難なくそれを切り裂いた。


 羅生鬼菩薩は――座ったまま動かない。

 余裕ぶっこきやがって。


 かなりの数の腕を落とし、動きを止めた腕は魔素を抜き再生を遮っていった。

 俺が枯らしてしまわなければ、腕はいくらでも回復してくる。結構な時間、ウデワナとの戦闘に明け暮れていた。


 腕を掴まれては引きちぎられ、肉をえぐり取られ、なんとか回復をしては走り、止まらず腕を落とし続けた。

 

 ようやく、終わりだ――そう思った時だ。

 羅生鬼菩薩が、口を大きく開いた。


「ふしゅっ!」

「全員さがれぇぇぇ!!」


 とげぞうの警戒に反応し叫ぶと、羅生鬼菩薩の口から大量のドス黒い水が吐き出されたではないか。


「ぎゃあああああああ!!!」

「キプロスーー!!」


 前方に向かって吐き出された黒い水は、逃げ遅れたキプロスを巻き込んでバケツの水を返したように押し流した。

 黒い水に当たったキプロスは一瞬にしてボロボロと肉が腐り、骨だけになってばらばらと崩れて行った。


 何だ今の!? 


「マズローは!?」

「ぐぅっ!!」


 同時に最前線で戦っていたマズローは、飛んで避けたものの、着地点へと残っていた黒い水の上に着地してしまう。咄嗟にさらにもう一度飛んだマズローの足はグズグズと煙を上げながら崩れて行った。


 すぐにラニャが瓶を取り出し回復を行い何とか立ち直ったが、脛から下の装備は溶け去り素足になってしまっている。


「くそ、何だよ今の! 即死確定かよ」

「さすがは眠れる主って事か。想像以上に厳しいぞこれは……」


 黒い水が収まり、俺達との距離が空いたことで一度戦闘に空白の時間が出来る。

 恐らく自傷も顧みない攻撃だったのだろう。羅生鬼菩薩の口も大きく爛れているが、ジュウジュウという音と共に回復しているようだ。


――キャアアアアアアアアアア!!


「なっ!?」


 それは、怒りの絶叫だったんだろうか。

 生き延びた俺達の姿を確認すると、羅生鬼菩薩は突然グルンと頭を横に180度回転させた。


 後頭部があるはずの頭に現れたのは、まるで拷問でも受けたかのように皮を削り取られたような顔。


「顔が……変わった!? 目を覚ましたんですの!?」

「いや、周囲に何も変化はない! これは目覚めたっていうよりむしろ……」


 ギョロリとむき出しになった目は俺達に容赦ない悪意をぶつける。

 そして今まで碌に動かなかった羅生鬼菩薩は、ゆっくりと立ち上がった。


――ギャアアアアアアア!


「本気になったネ。肌がビリビリするヨ」

「だけど、もう手が届く……! もう少しで私達は獄夢(ヘルムメア)を終わらせられる!」


 ブチギレた羅生鬼菩薩――いや、羅刹鬼菩薩は、その呪詛を吐き出すようにして天に向かって咆哮を上げる。

 空気が震え、一瞬俺達の動きが止まった。

 刹那――


 羅刹鬼菩薩が四つん這いで走り出す。

 その速さは、俺達の距離を一瞬にして詰めた。

 空気の塊でも纏っていたのだろうか。俺達は突風に吹き飛ばされ壁に激突し、うめきながらも顔を上げれば、そこにはタイマルネを口にくわえた羅刹鬼菩薩が居た。


「あ……」


――ブチブチ……ベギッ


 嫌な音が、周囲にこだまする。

 ズルリと羅刹鬼菩薩から落下したタイマルネの肉体は、腹部から完全に二つに食いちぎられていた。傷口は酷くボロボロで絶望的だ。回復しようと近寄ろうとしたルルを、ラニャが制止する。

 

「タイマルネ!!!」

「待ってくださいですの!」


 真っ二つになったタイマルネは、バタバタとその手足を大きくバタつかせながら、痙攣を始めた。

 口から血の泡を吹き、意味不明なことを叫ぶ。


「だ……ダメ。タイマルネはもウ、彷獄獣堕ちしタ」


 胸を押さえながら苦しそうに、ネルがそう呟いた。

 マズローも同じく、顔を苦痛にゆがめながら汗をぬぐう。


「終わったかもしれん……」

「マズロー? 何を言って――」


 そう言って指差したのは、羅刹鬼菩薩のそば。

 そこに立っていたのは、グリッチだった。

この主は変身をするたびにパワーがはるかに増す……

その変身をあと2回も主は残している……

その意味がわかるかな?


そんなことを言ったとか言わなかったとか。

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