異世界転生はオレンジとチョコチップクッキーの香り
ぼくはエルシュタイン・ルーテルバーク。
なのになんだろうこのきおくは。
アルフレイドとぼくがゲームのこうりゃくたいしょう?
ぜんせ? いせかいとりっぷ?
しらないちしきがあたまのなかをぐるぐるしている。
おちつかないと。 ぼくはアルフレイドをまもるためにつねにれいせいでいなくちゃいけないんだから。
……ゆっくり目を閉じ意識を探る。
前世の記憶、19歳で死んだ女性の記憶と知識。
ほわほわとした脳内が澄んでいくのを感じた。
ぼくは…
「エルシュタイン! だいじょーぶか!?」
……アルフレイドが泣いてる!?
目を覚まさなきゃ!
目を開くとすぐそこに泣きそうな顔をしたアルフレイドがいて、ぼくの顔を覗き込んでいた。
横目に映る半分青い潰れたオレンジ。
アルフレイドの魔法で落ちてきたオレンジだ。
「アルフレイド…」
「エルシュタインっ!?」
幼い顔のアルフレイド。
僕と同い年のアルフレイド。
ぼくは17歳のアルフレイドの姿を知っている?
ぼく? 私? 私がエルシュタイン?
ぼくはエルシュタイン。 男の子。 今5歳。
私が男の子。 5歳の男の子。 転生したの?
………そっか、私はエルシュタインなのか。
アルフレイド様って子どもの頃はこんなに可愛かったんだ。
何か得した気分。
だって主人公じゃ絶対こんなアルフレイド様の姿見れないもんね。
それに私がエルシュタインなら、これからずっとアルフレイド様の成長する姿が見れるって事よね。
そっかー。
じゃあ私エルシュタインで良かったのかも。
男になっちゃったのは驚いたけど、ずっとアルフレイド様の傍にいられるんだもんね。
主人公よりずっと長い間。
それにアルフレイド様を守る事も出来るはず。
アルフレイド様の設定資料を暗唱できるぐらい読み込んだ私なら、きっとアルフレイド様の完璧な騎士になれる。
あれ? 騎士じゃなくて随身だったっけ?
ああ!? それよりもアルフレイド様が泣きそう!! はやく安心させてあげなきゃ!!
「ぼくはだいじょうぶだよアルフレイド。 すこうしびっくりしただけだから」
そう、ぼくは大丈夫だから、泣かないで。
「ひっ…う、ほんとうか?」
「うん。 だからないちゃだめだよ? アルフレイドはとってもつよいんだから」
アルフレイド様はこんな事で泣いちゃ駄目! アルフレイド様はアルフレイド様なんだから!
「おれは泣いてないっ!」
「そろそろおへやにかえろう? いいにおいがするからおやつができてるかも」
この匂いはチョコチップクッキーかな? ぼくとアルフレイドが大好きなおやつだ。
「ん! そうだな行くぞエルシュタイン!」
きゃー! アルフレイド様が私の手をっ!?
というかおやつって聞いてあっというまに笑顔になるアルフレイド様たんじゅ…天使!!
うん、良かったぁ。 アルフレイドが気に病む事が無くって。
この調子ならクッキーをかじったらきっとさっきの事は忘れちゃうね。
守る立場のぼくがアルフレイドを泣かせちゃうなんて、絶対駄目だもん。
そう! 私がアルフレイド様を守るんだ!!
恋とか愛とか曖昧な絆じゃない、これからどんどん深まる絆と信頼に応える為に私は転生したんだ!!
この可愛らしい笑顔を守るんだ!! それが私の使命!! 存在意義!!
そう、それがぼくの使命なんだ。
きっとこの記憶は、前世のぼくが持つ知識を使ってアルフレイドを守る為のもの。
ぼくは…私はアルフレイドの随身。
私はアルフレイド様に寄り添い、アルフレイド様を心身ともに守る。
それが私、エルシュタイン・ルーテルバークに架せられた使命なのだから。