回避の先の崖っぷち
城に帰ったアルフレイドはスアリエル様とテオスギフト様に迎えられ、報告の為に執務室へと連れられて行った。
私はそれに供はせず別室でアヴリル兄様と事実の摺り合わせをする事になり、キーファ兄様はナタリア姉様を待ちサルバトーレを迎える準備をすると言って何処かへ行ってしまった。
私は分かりうる全てを報告し、それを調書にまとめたアヴリル兄様に送られ家に帰った。
…………………やってしまった。
石橋を叩いて割ってしまった気分だ。
ベッドの中で私は奇声を堪えながら頭をボスボスと枕にぶつけていた。
なにがどうかと聞かれれば今回の事件は解決してめでたしめでたし所かゲームストーリーよりも悪い方向に話が進みそうという話なのだ。
魔力の暴走もそれから生まれる確執も人格形成も回避したが、その代償が大き過ぎる。
アルフレイドを誑かし、意のままに操ろうとした反逆者の存在が明らかになった。
それはつまり、アルフレイドが危険視される切っ掛けには十分なり得る事だ。
本来なら居ないはずの3人目の王子。
幼く歳が離れ、髪の色が違い、歴史に残る初代国王に心酔した貴族にとっては正に絶好の餌にしか見えないだろう。
秩序を重んじる輩がそれを乱す存在を排除しようとすれば、それを逆手にその存在を祭り上げ都合良く動かそうとする輩も動く。
更に漁夫の利を得ようと他国が介入すれば国自体が危うくなる可能性も現れる。
つまりゲームストーリーでは魔力の暴走によりそれらが表沙汰にならず、さらには反逆者への牽制にもなっていたから少なくとも学園にいる間はそういう問題になっていなかったのだ。
アルフレイドと兄王子がいかに不仲だろうと、アルフレイド1人では何も出来ないから危険視される事が無かったのに…。
この時点で政治的な思惑の渦中に一時であれいたとなると、周囲にアルフレイドが洗脳済みだと思われ更に色々な私怨や妬み嫉みではない、身勝手な正義がアルフレイドを狙うようになるだろう。
馬車の中での会話。
アレを聞いた瞬間、私はルーテルバーク家に連絡をした事を酷く悔いた。
私は誘拐をアルフレイドの身柄を盾に何らかの要求をする、もしくは王家への私怨を幼いアルフレイドを使って晴らす事が目的だろうと思っていたのにまさかこんな事になるとは予想外過ぎる。
いっそのこと変な正義感を持って馬鹿のように私1人でアルフレイドを守るとしていればアルフレイドの代わりに私が魔力の暴走と見せかけたあれこれを引き起こしてでも、全てを表沙汰にせず終わらせられたかもしれなかったのに…。
今頃王家は今回の事件を如何にして内々に済ますかを考えているに違いない。
だが相手がサルバトーレという時点でそれは無理だ。
理由がどれだけ隠蔽されてもサルバトーレの当主含む数名が処刑されれば、周囲が強ち間違いでもない想像で動き出すのは目に見える。
そもそも誘拐が成功すると信じて疑わなかったであろうヤナイトスの煽動者はスアリエル様がアルフレイドを連れて外に行ったという嘘と同時に、王子たちの間に亀裂が生じたように思わせる色々な嘘をばらまいているはずだ。
アルフレイドにはこれから今まで以上に護衛が付き、自由は無くなるだろう。
息苦しくなったので私は枕に顔を埋めるのを止めてベッドに腰掛けた。
何故か私の脳裏にアルフレイドの笑顔が浮かぶ。
見慣れたそれが特別なものに思えるようになったのは、前世の記憶を得てからだった。
明るい、楽しさや嬉しさを溢れさせた笑顔が失われた姿。
前世が悶絶して喜んだストーリー終盤の微笑みは、本物ではあった。
だがその顔は楽しさや嬉しさから生まれたものでは無く、主人公を喜ばせ、安心させる為だけの優しさしか無いように私は感じた。
これからアルフレイドに降り懸かる厄災を取り除けば、人の為ではなく感じたままに笑うその姿を見られるのではないか。
そんな思惑もやる気に変えていたのに、まさかの最初の事件で最悪の結果を残すなんて…。
このままだと国王陛下と2人の王子にとって不本意であっても軟禁というか行動の制限をする事がアルフレイドを守る事という、誰も幸せになれない状況になってしまうかもしれない。
軟禁状態にアルフレイドがグレて諌めるべき立場の人間が申し訳なさから甘い顔をしてそれに増長したアルフレイドが調子に乗った挙げ句やり過ぎて処刑されるような事態になったらどうしよう!?
どうすればここからアルフレイド(17歳)の笑顔を見られる未来へ行けるだろうか…。
1人頭を抱え唸っていたその時、私の部屋のドアを叩く音が響いたのだった。




