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転生したけど恋が出来ない  作者: Kei
転生初期、幼少期無自覚編
14/20

手の平の上で踊るのは…

「無事で良うございました、アルフレイド様」


白金色に輝く全身鎧姿。

ヤナイトスを死に至らしめた剣を血も拭わず鞘に収めたのは、予想通りの人物だった。


「お久しぶりです、叔父上」

グラナータ・サルバトーレ。

サルバトーレの当主、そしてアルフレイドの実の叔父。


アルフレイドの表情は硬い。

それに対してサルバトーレの表情は安堵を顕わに…、正に甥の無事を知り心配から安堵へ変わった叔父の表情を浮かべている。


もし馬車の会話を聞いていたとしても、真っ直ぐに此処へ来た事を知らなければ疑う事を過ちのように思わせる真摯な姿だ。


その後ろにいた私兵が数人、他を探っている隊にアルフレイドの発見を伝える為か上に向かう。

鉄格子を挟んで、此方は2人、あちらは6人。


「もう暫くお待ち下さい。 魔術師が来れば、直ぐに鍵を開けさせます」

「その必要は無い」

「……アルフレイド様?」


アルフレイドの言葉を合図に私は1歩前に出る。

サルバトーレは大きな音を響かせ落ちた枷を見て納得したのか安心したように頷いた。

「なんと! ルーテルバークの子息は開錠の魔法を使えたのですか!! 確かにこれなら私の魔術師は必要ありませんね」

「叔父上」

振り向かなくても分かるほど、アルフレイドの視線は鋭い。

声が落ち着いている分、空気がゆっくりと動く気配を感じた気がする。


「何でしょうかアルフレイド様」

それでもまだ、サルバトーレの放つ空気は柔らかく、温かい幻想を纏っている。

だがその背後、5人の兵士はほんの微かに身動ぎし自身の持つ剣に意識を向けた。


「この髪が次の王座に就く事は決してありません」

「……アルフレイド様?」

「この髪に意義など無い。 この髪に宿るのは母上の面影では無い。 この髪はサルバトーレの象徴でも無い。 この髪は私、アルフレイド•リスタート•ルナフォーレの髪で有り、それ以上でもそれ以下でも無い」

「まさか…、ヤナイトスが何か戯言を…」

「叔父上、私は既に、全てを知っている。 偽の兄上と側近、騙された近衛兵とそれに紛れているであろう扇動者、騙されたヤナイトス…そして、貴方の思惑」

空気の流れが止まる。


途端に血の臭いが鼻に付いた。

サルバトーレの目には、もはや温かさは微塵も感じられない。


「答え合わせをしようか、サルバトーレ。 分からない所を教えてくれるとありがたい」

「そうですね王子。 私も何故見破られたのかを教えて頂きたい」

兵士が1人、この場を離れ上がっていった。

話に応じ時間稼ぎをして、何をするつもりだろうか。


サルバトーレもこちらが時間稼ぎをしようとしている事は理解している筈だ。

私の魔法を見た以上、それを疑っているに違いない。


応じたという事はサルバトーレには計画をしくじってもなお勝算があるという事。


だが当然、アルフレイドと私にも勝算がある。


どちらが上手かなんて、考える必要は無い。


「まず聞かせてもらいたいですな。 完璧だった筈の変装がバレてしまった原因を」

「随身の姿が無かったからな。 あまりの変装の見事さに敢えて捕まってみようと思ったんだが、あれはどういった魔法だ?」

嘘も方便とは良くいったものだと思う。

こんな場面じゃ無かったら事実を大声で叫びたくなりそうだ。

「随身…? あれは姿を見せないよう、常にどこかに隠れているのでは? 王子は隠れ場をご存知で?」

なる程、隠身を知らず公の場でしか随身を見た事が無いとそう思うのか。

というより知っている私が特殊なんだろうが…。

「質問に答えよ。 あの魔法は何だ?」

「……わざわざ教える必要は無いかと。 お答えした所で何も変わりませんので」

「そうか。 なら城に帰ってから吐かすとしよう。 次に、私を兄上支持する貴族の屋敷に連れて行かなかった理由は何だ? あれだけ完璧な変装ならば、兄上派を唆す事は難しい事では無いだろう」

「万が一、勝手をされ傷物にされると困りますからな。 その点ヤナイトスは非常に扱いやすかった。 そもそも計画がうまくいけば、そんな事をしなくとも石は転がりだしたでしょう」

「同意はしないが理由は分かった。 ……こうして話すと聞きたかった事は案外少なかったな。 1番の疑問に答えが無かったのは残念だが…そうだ、思惑が外れた今、これから私をどうするつもりだ? 殺すのか、それともヤナイトスの言葉にあったが種馬扱いでもする気か?」

「抵抗せず、幽閉されて頂ければ苦痛を与えるような事はいたしませんよ」

いや13歳年上に襲われるとか苦痛でしか無いだろう。

お前から見れば若い娘でもこちらから見れば13歳も年上だ。

「そろそろこの屋敷を焼き尽くす準備が終わる頃合いです。 王家には錯乱したヤナイトスが王子を殺し屋敷に火を付け、結果王子の骨は跡形もなく燃え尽きてしまったと報告させて頂きましょうか」


サルトバーレは血に染まった剣で格子の鍵を壊すと後ろに立つ兵に合図を送り、こちらの時間稼ぎを待つつもりは無いというように勝ち誇った顔で笑って見せた。


そんなサルトバーレの合図を見た兵は一歩踏み出しそして…




そのまま地面に崩れ落ちる。


「お話が終わったのなら、帰りましょうか」

「エルシュタインどんな魔法を使ったんだ!? 絶対初歩の魔法じゃ無いだろ! お前ばっかりこんな…」

「7歳になったら1番に教わるよ。 アルフレイドも1回使った事がある風魔法で、動いた人間に毒を吸わせただけだから」


紙に包まれた粉末状の毒、痺れ薬はキーファ兄様に貰った物だ。

相手に気付かれないほどの、でも確実に粉を届かせる微風を使うこの手は普段のキーファ兄様からは想像できないほど精密な魔力の扱いが必要になる。

相手に察知されない程度の魔力を武器にする事は、相手が強ければ強いほど有効だ。


別の兵が息を止めて此方に向かおうとする。

「無駄ですよ」

息を吸わないならそのまま鼻の粘膜まで薬を運べば良い。

そのまま後ろの全員に痺れ薬を使えば、鎧の音を激しく鳴らしながら崩れ落ちた。


「一応聞きますが、後ろの皆さんもこの計画を知っていてここに来たんですか? アルフレイドを助けに行くと騙されて来た人はいませんか?」

気配の動揺は無い。

まあ、そんな人間は全部上を探っているだろうとは思ったけど。


サルバトーレの表情にはまだ余裕がある。

反撃は予想の内なのか、ただのポーカーフェイスなのかは分からない。

だが、サルバトーレの周囲には護符の結界が展開され弱い魔法に対応しようとしているみたいだ。

「全員を倒す前に手の内を明かすなんて、何を考えているんですか?」

「この薬は使うと半日は身体が鈍るんです。 貴方は帰ったら直ぐ色々と教えてもらわないといけないので、最初から薬は使う気は無い。 あとは貴方を殺さずに動きを封じればおしまいになります」

「私を倒す? そんな事が出来ると本気で思っているなら君は自分の家名を過信している。 身内が強くともそれは自身の強みではない」

「私は何も過信していないし、誰も私を過信しない。 私だけで対処出来ると確信しています」


サルバトーレの持つ剣に魔力が渦巻いた。

風の属性を纏わせた剣で鉄格子を切り裂き、私を切り刻むつもりだろう。


「エルシュタインお前、実際はどのぐらい強いんだ?」

狭い地下の空間に渦巻く風を全く気にせずアルフレイドは私に声をかける。

この風を私の魔法と思っているのか、分かっていて動じず構えているのか。


「アルフレイドと自分に傷一つ付けず城に帰れるぐらいかな」

「俺が7歳になったらさっきの魔法教えろよ」

「約束する」

「あと…」

キィン…と澄んだ金属音がアルフレイドの言葉を遮った。


ようやく剣に魔法が定着し終えたらしい。

もう一度金属音が鳴ると、目の前の鉄格子がバラバラと落ちた。


「……最後の軽口は終わりましたか?」

剣を振り下ろしたままサルバトーレが哂う。

「お前も覚悟は出来たのか? エルシュタインは強いぞ」

「ちょっとアルフレイド、全然説得力無いから」

「さっきの言葉で十分なんだよ。 お前が自分を強いと確信してるなら、間違いない」

これは信頼されているって事なんだろうな。


……それと当時になんだか凄い魔法を使って見せろという過度な期待もあるような気がする…。


「それじゃ、さっさと帰ろうか」

期待には気付かなかった振りをして、私はそのままアルフレイドの手を掴むとそのままヤナイトスの横を通り抜けた。


「ちょ、エルシュタ……イン?」

「なっ!? ……っ!? 身体が動かん!?」


ギシギシと耳障りな音を立てながら立ち尽くし驚愕するサルバトーレに、それを見て呆気にとられたアルフレイド。



私はサルバトーレが鉄格子を切り落とすと同時にその1部を風で切り裂き鉄片にし、鎧の全ての間接部分にその鉄片を噛ませたのだ。


完璧な操作の風で周囲の風を相殺し気付かれないほど早く間接部分に鉄片を仕込んだだけだが、原因が分からず足掻くサルバトーレを横目に、私は口を開いた。


「お疲れ様でしたサルバトーレ。 貴方ならきっとアルフレイドを王に仕立て上げようとする反逆者を教えてくれると信じていますよ」

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