アルフレイド誘拐事件 中編
アルフレイドと手を繋いで馬車に向かう私…と偽スアリエル様。
何でお前もアルフレイドの手を握るんだというかスアリエル様はそんな事しない!
アルフレイドも普段と違う事に気付かないのか!!
あと側近その無言の圧力程度では私は引かない。
と、色々思う所はあったがアルフレイドと引き離される事もなく馬車に乗る事が出来た。
私と偽スアリエル様がアルフレイドを挟んで座り、向かいには側近と護衛が1人。
馬車は紋章無しのありふれたもので、馬も良い馬ではない。
確認だけだから注目を集めないように配慮した、という設定だろうか。
残りの護衛は城に残ったが、それが工作員なのか騙されていただけだったのかは今は分かりようが無い。
流石にここまで来れば私の事も誘拐犯の屋敷に招待してもらえるだろう。
いきなり馬車から放り出すなんて事をすれば目立ち、街中に置き去りすれば城の人間が気付く時間が早まる可能性もある。
屋敷の中で意識を奪うか空き部屋に放り込む方がリスクは少ないと考える筈だ。
「城下町に行くの久々だな。 あ、エルシュタインはそうでもないか」
「僕は帰ってからはずっと家族と一緒にいるから、外には滅多に行かないよ。 欲しい物も無いしね」
「欲しい物って…そんなもん無くても外を歩いて見て回るのが楽しいんだろうが」
「アルフレイドにとっては珍しい物ばかりだもんね」
そんな事を話している間に側近と護衛が窓に薄布を張った。
こちらからなら薄っすらと見えるが、外からは簡単には見えなくなる。
私の視線に気付いたのか偽者が
「中にいるのが我々だと分かると騒がれるからな。 念の為だ」
なんてわざわざ言い訳をしてくれた。
何の為に王家の紋章付きの馬車が有るのかを解説してやろうかとも思ったが止めておく。
そして馬車が動き出し城からある程度離れた途端、側近と偽スアリエル様がアルフレイドと私に眠りの魔法を使った。
アルフレイドは事態に気付く間もなく眠ってしまったが、私は寝たふりをして耳を澄ます。
「まさかルーテルバークの子どもが付いて来るとは。 情報通りのただの子どもで助かったが、考えればこれは幸運かもしれんな」
「王子だけで十分ではあるが、不信感を持つ者は多ければ多いほど良い」
「カトリーナの髪を王にする為、使えるなら子どもでも使ってやる」
「今はただの子どもでも、血はルーテルバーク。時期がくる頃には使い物になる程度には育つだろう」
予想以上に口を緩めた誘拐犯に驚いたが、なんとなく話の全容が見えた。
国王陛下は側室を持たなかったのでスアリエル様もテオスギフト様もアルフレイドの実兄だが、先ほどの会話にあったカトリーナ様の髪。
それはアルフレイドの髪だけがカトリーナ様の髪と同じ色という事を指している。
恐らく誘拐犯はカトリーナ様の身内もしくは信者で、カトリーナ様に唯一似ているアルフレイドを国王に望む一派という事だ。
何故それが誘拐に繋がるのか。
それはスアリエル様に扮してアルフレイドを誘拐した事や先程の会話から、アルフレイドにスアリエル様への不信感を持たせる事が目的だと予測できる。
どこかの屋敷の部屋にアルフレイドを閉じ込め、意識の戻ったアルフレイドにスアリエル様がアルフレイドを売ったと言えば、言葉では否定しても必ずアルフレイドはスアリエル様に不信感を持つだろう。
あとは想像に過ぎないが、アルフレイドを助けに来た振りをし使い捨ての手駒を口封じ。
そのままアルフレイドに取り入り、スアリエル様への不信感を使いじわじわと王位を狙うように誘導。
というシナリオを思い描いているのではないだろうか。
しかしゲームではアルフレイドはショックのあまり魔力の暴走を引き起こし、アルフレイド一派は壊滅。
誘拐犯の目的は判明せず、アルフレイドはスアリエル様への不信感を誤魔化しながら成長する。
といった感じか。
「着いたか」
馬車が停まり、アルフレイドと私は屋敷の中に抱きかかえられて移動した。
連れて行かれたのは予想より悪い…地下牢だった。
こんなものを屋敷に作ってあるなんてどんな疚しい事をして、と思ったが使われた形跡が全く見当たらず汚れも少ないので今回の為に作られたんだろう。
いつから計画していたのかは知らないが演出に凝って改装したなら使い捨てられるのはこの屋敷の持ち主という事か。
これだけの事をしたなら業者が手を貸したに違いなく、そこから足が着くのだから誘拐犯の罪を被せるにはもってこいとしか思えない。
誘拐犯たちはアルフレイドと私の手足を枷で戒め、それに続いた鎖で壁に繋ぐとその場には誰も残らず行ってしまった。
会話を聞く機会が無くなり屋敷の人間が誰かは分からないままだが、どうせアルフレイドの誘拐に加担した人間なのだから目の前で殺されてもなんとも思わない。
しかし説明も無いままアルフレイドにそんな光景を見せる訳にも行かないので見張りが居ない事を十分確認し、アルフレイドを起こす事にした。
眠りの魔法は術者の込めた魔力で機能時間が変わる。
対象者が抵抗をすれば魔力の強い者が勝つが今回のアルフレイドは全くの無抵抗だった。
見たところあと2時間は目を覚まさないように魔力を込められているが、あの誘拐犯より強い私にとってこの程度なら解術は容易い。
念の為起きてすぐアルフレイドが取り乱さないよう枷を外しておく。
さて、魔力暴走事件と誘拐犯の思惑。
どちらからも私が、アルフレイドを守るのだ。
「さあ…起きて、アルフレイド」
魔法についてどこまで誤魔化すかを考えながら、私はアルフレイドに声をかけたのだった。




