アルフレイド誘拐事件 前編
テオスギフト様とあにさまに別れを告げアルフレイドといつもの場所、中庭に向かう。
気が削がれたがまだまだ私の警戒は弱まっていない!
勿論私1人で気負うなんて事はせず、オリス様に
『生誕祭が近付くにつれアルフレイドの近くで嫌な気配を感じる』
と報告して協力は要請済みだ。
城に騎士や魔導師として勤務する従兄姉4人が周囲の警戒や怪しい人物の監視をしてくれている。
しかしそれでも十分とは言えない。
何故なら設定資料には誘拐犯、目的、誘拐方法は載っていなかった。
さらに『生誕祭の準備の慌ただしさに紛れ誘拐』と書いてあったが、出入りが激しくなるという事は警戒も厳重になるという事。
そんな中で誰にも気付かれず王子であるアルフレイドを誘拐するなど至難の業どころか不可能に近い。
従兄姉たちの警戒は生誕祭準備が始まってから城に出入りするようになった人物だが、私の警戒が向かうのはアルフレイドの親しい、信頼している人物なのだ。
例外は王子2人と国王だけであり、アルフレイド仕えの近衛兵やメイド、従者から始まり、アルフレイドに近付く者は大臣や城仕えの貴族でも警戒を怠らない。
それらを踏まえて今日も私はアルフレイドに寄り添い勉学に励み簡単な体術と柔軟を教わるアルフレイドの横でそれを真似る。
ようやく身体を鍛える事を教わる事が出来るようになり無茶が減ったアルフレイドは、最近中庭で魔法についての本を読むようになった。
勿論魔法を使おうとはしない。
何をしているのかと言うと勉強ではなく…
「この魔法かっこいいな!」
「炎のドラゴン? 随分と魔力の構築が複雑な高等魔法だね」
「これを簡単に使えるようになって兄様たちと国を守れたら…」
「じゃあ僕は水のドラゴンを使えるようにならないとね」
「えー、雷のドラゴンの方がかっこいいぞ?」
「アルフレイドが魔法を失敗したら傍にいる僕が相殺しないといけないからね」
「失敗なんかしないっ!」
つまりは本に載っている魔法を使う自身を思い浮かべる空想の為に読んでいるのだ。
前世の記憶から例えるなら『はたらくくるま』や『いろんなおしごと』というような子ども用の図鑑を見て楽しむのと似たようなものだ。
「早く魔法の勉強もしたいな。 エルシュタインもそう思うだろ?」
私が既に魔導師を名乗れる実力を持つ事はルーテルバーク家の人間以外は知らない。
もしアルフレイドに教えようものなら、絶対にアルフレイドも魔法を学びたがると分かり切っている。
「流石にアルフレイドでも、7歳までは国王陛下の許可は出ないと思うな。 スアリエル様もテオスギフト様も、7歳になるまで全く魔法を学ばせられなかったんでしょ? 王族の人間は魔力の所持量が多いんだから、制御出来ずに暴走させるような事になれば、周囲の人間どころか術者の命も危ないんだよ」
「でもなー…」
諦めきれないアルフレイドを宥めていると、城の方から複数の人間が近付いてくるのを感じた。
背を向けて本を読んでいるから姿は見れないがこの気配はメイドや従者では無い。
気配を隠してないし近衛兵も警戒していないから、あからさまに怪しい人物では無さそうだが、それこそ私が警戒する人物だ。
足音が聞こえる範囲に来たのでゆっくり振り返る…。
「魔法の勉強か?アルフ。 読むだけなら良いが使おうとはするなよ」
「アリック兄様!」
側近を連れたスアリエル様…の振りをした別人だ!!
何故ならにいさまがいない。
しかしにいさまがいない事以外はどうみてもスアリエル様だ。
にいさまがわざと私に認識されないようにしている可能性も0では無いが、きっと違うだろう。
まさか誘拐犯がスアリエル様の振りをしてアルフレイドを誘拐に来るなんて!!
ここで下手に偽物だと騒いでも、にいさまは城内で常に隠身を使い姿をスアリエル様と私以外に認知させていなかったから、証拠が無い。
それどころか偽者が私を無礼者とすれば、直ぐに近衛兵が私を…流石に牢は無いだろうがどこかに連行し、アルフレイドと引き離されてしまう。
下手に行動出来ない。
それにこの偽者一行はどこまでが偽者なのだろうか。
スアリエル様は偽者、だが一緒にいる側近と護衛は?
顔の見えない護衛はともかく側近が本物で誘拐犯の一味だった場合、本物のスアリエル様の居場所を把握し鉢合わせや疑いの可能性が無いよう計画を立てているだろう。
「アリック兄様、準備はどうしたの? 凄く忙しいんでしょ?」
「城内での準備は一段落した。 今から城下町でのパレードの下見に行くんだが、アルフの姿が見えたから息抜きだ」
偽者確定だ!
にいさまが隠身している可能性が消えた。
何故ならスアリエル様がアルフレイドに城下町に行くなんてわざわざ教える訳がない。
「城下町に行くの!? 俺も一緒に行きたい!」
そう、それを聞けば必ずアルフレイドが行きたがると知っているから。
「ふむ…、順路の確認だから馬車の外には出ないしな…。 良いだろう」
やはり…。
こうなったアルフレイドは私が仕事の邪魔になるからと言っても聞かないだろう。
そもそも偽スアリエル様の許可がおりたのだから説得する理由が無い。
「アリック兄様大好き! 楽しみだなエルシュタイン!」
「エルシュタインも来るか?」
なるほど、ここでゲームのエルシュタインは遠慮してついて行かなかったに違いない。
偽スアリエル様はアルフレイドの手前拒まないが、後ろで側近がこちらを咎めるように見ている。
しかし、はっきり来るなと言われないなら
「はい! 城下町にアルフレイドと行くのは初めてなのでとても楽しみです」
ついて行くに決まっているだろう!




