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ステージはきらめきに包まれている。
降りそそぐ、眩しい照明。
響を呼ぶのは少女たちの黄色い歓声。
素晴らしい空間だ。
まさに熱狂の渦。
演者も観客も激しいリズムに身をまかせ、酔いしれている。
「ギター、ヒビキ!」
間奏は響にとって一番の魅せ場だ。
愛機を爪弾く、ギターソロ。
ボーカルの掛け声を合図に歓声はより大きくなって、響を歓迎してくれた。
響はエナメルの衣装で、白金の髪を振り乱して演奏する。
さらに会場を盛りあげたくて、客席を煽ろうとステージ中央へ歩みだしたとき——
目が覚めた。
現実だ。
(あ……夢か……)
響は呟く。
此処はあの華やかな舞台ではない。
自分の部屋。
白い天井を眺めているうちに、ぼんやりとしていた意識の輪郭がはっきりとしてくる。
(夢かー……)
目覚めてしまったことが残念すぎる。
ずっと夢のなかにいることができればいいのに。そんなことも思ってしまうけれど。
無理だ。
わかりきっている。
憂鬱になり、寝返りをうった。
今日は夕方からバイトのシフトが入っている。アラームはまだ鳴っていないけれど、起きたほうがいい。
「はぁ……」
夢はもう戻れない過去。
終わったことなのに、ため息が溢れた。
ぐだぐだと布団のなか転がっていると、そのうちに二度寝してしまったらしい。
ハッとして飛び起きたときには、とうに支度を済ませていなければならない時刻になっていた。