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苺ジャムトースト(上)

設定が暴走なかなか連載を続けられないので設定を増やさない事を目標に書きました。


ただし個人的な趣味で超能力は外せません。

ミンミンゼミの鳴き声が響く廃墟を僕は駆け抜ける。


水没したビルの横を過ぎ、草に埋もれた踏切を渡り、壊れた電車が突き刺さった道路を通った。

手には学生鞄、口にはママレードが塗られたトースト、足には走りやすいスニーカー。

そして来ているのは校章を無理矢理取り付けたブレザータイプの学生服。

僕は今学校に向かって走っていた。

道路のヒビを飛び越え、瓦礫の山をよじ登り、看板を踏みつけて走る。

後ひとつ角を曲がれば立入禁止区画から抜け出し、学校のすぐ近くに出る。

僕はスピードを上げて角を曲がり…



何かと衝突した。



右側からぶつかられたので体が左に傾く。

痛みに瞑った目を開けると朝食のトーストが舞っているのが見えた。ここで朝食を失うのは得策ではない。朝食をしっかり食べずに乗りきれるほど鬼教師の数学は甘くない。

トーストが落ちる前にキャッチする!

未だ地面に着いたままの左足を軸にして体をひねり仰向けに倒れながら口でトーストをキャッチし、バッグ転を決める。

危ないところだった。無事を確めるようにトーストを噛み締める。苺の甘味とともに微かにバターの塩味がする。



苺?



僕が食べていたのは確かにママレードトーストだった筈だ。

しかし口元を見ると僕がくわえているのは明かに苺ジャムトーストだ。

ならば僕のママレードトーストは何処へ消えたのだろう?この苺ジャムトーストは誰の物だろうか?そもそも僕にぶつかってきたのは何だったのだろうか?

トーストを口から離し視線を前に戻す。


「いててて…ちょっとアンタ、いきなり飛び出して来るなんて危ないじゃない」


僕のママレードトーストをくわえた少女が倒れていた。


「ごめん、急いでて。それで…あの…、そのトースト僕のなんだけど…」


僕の言葉を聞いた少女が視線を口元に向ける。

視線は僕の手の中のトーストを通り最後に僕の口元で止まった。

少女はゆっくりとママレードトーストを口から離す。


「アンタ、それ食べたでしょ」


「え?いや…その…」


「口元に苺ジャムがついてるわよ」


あわてて口元を拭う。

手には砂糖特有のベタベタした感覚が残る。

少女は立ち上がりゆっくりと僕に近づいてくる。

そして僕の目の前で止まり、手から苺ジャムトーストを奪い取った。

それを口にくわえようとして一瞬止まり…



トーストを海に投げ捨てた。



トーストは回転しながら水没したビルに当たり、海に落ちていった。


「ちょ…何で捨てたの!?」


「アンタの食べかけなんて食べるわけないでしょ、気持ち悪い」


「物資不足のこの世の中でパンがどれだけ大切か…」


「あーはいはい、そう言うのいいから…」


少女は耳を塞ぎながらその場を立ち去ろうとする。


「ちょっと待って!僕のトースト返してよ!」


少女はピタリと立ち止まり、振り返ると僕を睨み付けた。


「アンタ、私の食べ掛けを食べたいわけ?」


「いや、そういうわけじゃないけど…」


「じゃあ食べないの?」


「食べるけど…」


少女は溜め息をつくと…



僕のトーストを海に投げ捨てた。



トーストはさっきよりも遠くに飛んでいき、海に沈んだ。


「僕のトーストが…!」


ショックに鞄を取り落とし、地面に座り込む。


「アンタ、なんかに私の食べ掛けトーストはあげないわよ。さよなら。そこでずっと座ってなさい」


少女はその場を立ち去っていった。



僕がトーストを失ったショックから立ち直ったのはそれから三分後だった。

僕はなぜ立入禁止区画をパンをくわえて走っていたのか思い出したからだ。



僕が走っていたのは学校に遅刻しそうになっていたからだ。



不味い。今から普通に走ったのではギリギリ間に合わない。

普通に走ったのでは。

僕には…



時間を止める力がある。



正確に言うと一日に一分間だけ回りの時間を止めることができるのだ。


時間停止、発動。


念じると同時に回りの景色が色彩を失い、全てが停止する。

唯一リストバンドに隠された右手首のタイマー型の痣のみが赤い光りを放ち、カウントダウンを始める。



色を失った廃墟を駆け抜ける。



立入禁止区画のフェンスを飛び越え、学校の裏に出る。

そして開いているトイレのドアに飛び込み、時間停止を解除する。

白黒の景色から一転、男子トイレの青いタイルが目を飛び込み、ホームルーム前の学校の喧騒が聞こえてくる。

ギリギリ間に合いそうだ。

トイレから出ながら右手のリストバンドを少しずらす。


“11.08”


二桁と小数点以下二桁の痣がくっきりと刻まれている。


「今日は後十一秒か…」


人に見られないうちにリストバンドをもとの位置に戻し、僕は教室を目指した。









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