第二十話 最 終 決 戦
―――司令室に入ると、クロの様子がおかしい事に気づく。
「クロ、おはよう。どうしたの? そんな、考える人みたいなポーズして」
「優斗よ。もし、地球が滅びるとしたらどうする? などと、よく話したりするじゃろ?」
「よく話したりはしないけど……。今日したかな? でさ…なに?」
「滅びるのが本当じゃとしたら……その、まさかじゃっ! 今日! 地球は滅びるっ!!」
神にでも祈るかのように、クロは両手を掲げ天井を見上げた。
「……あ、そう。オペ子おはよう。クロ、熱でもあるのかな?」
「優斗さん、おはようございます。たぶん…いつもの妄想でしょう」
「こりゃぁー! 聞けやー! ほんまじゃって! ほんまじゃって!」
地団駄をしながら、クロは部屋の中で暴れ出す。
「クロ司令! 現実逃避しないで仕事してください! ……あ、通信入ってる」
オペ子は「はい…はい…」とうなづき、
「司令! 大変です!第七支部が謎の敵により、壊滅しました!」
「ほれみてみい!ワシの言った通りじゃろうが!」
「いい加減に……えっ?第三支部、第五支部も敵に襲われてます!各支部から救援要請が出ています!」
「救援は出さんでええ。どうせワシらが最後じゃけえの」
ここが……最後?どういうことだろう?
「うむ!オペ子よ! DM軍を司令室に至急招集せえ! 作戦会議を行うけえの!」
「了解しました。緊急避難警報も出しておきます」
司令室―――僕、クロ、キイ、モモ、アオ、ミドリ、オペ子、DM軍が集結した。
「司令! 第三支部、壊滅! 第八支部も襲われています! このままでは、全DM軍が壊滅してしまいます!」
「オペ子よ……それでよい。どのみち世界はこれで終わるけえ。じゃがの、ワシらはこのままでは終わらん! ……キイ!新兵器はどうな?」
「はっ、敵レーザー兵器にも耐えれる装甲と機動性アップ、超粒子型レーザーを装備した、新装甲兵器パクチュエル・トリヴュート…納品済みです」
「うむ。それではモモ、飛翔型イカロスはどうな?」
「はい~、飛べます! ばっちりですヨ! 変形合体はオミットしちゃいましたけド」
「な、なんじゃと! ワシの変形合体が!」
「しかしですネ、限界飛翔時間は約25分ですヨ。現代の科学ではこれが精いっぱいですネ。旧イカロスのエンジンを推進力として、飛翔可能になったと言えまス。クロ司令、名前どうしましょうか?」
「モモ……飛べイカロス……がいい」
「アオは直球じゃのう。イカロス飛ぶ……イカロスSWと名付ける! カッコいいのう!」
「スカイウイングですカ? あの~、翼は付いてませんけド……」
「なん…じゃと? なんで、付けんかったんな! 翼は鉄板じゃろうがー!」
「そんなこと言われても…付けたら飛べませんヨ?」
その時―――オペ子の緊急報告がこだまする。
「クロ司令!世界各国のDM支部壊滅!壊滅した支部から、謎の白煙が空へと舞い上がっています! 現在調査中ですが、敵が多くて近づけない状態です!」
「なるほどのう……そのまま監視せえ。問題ないけ」
「クロ司令、問題ありますよ! どれだけ犠牲者が出てると思ってるんですか!」
「オペ子よ。おちつけえや、。想定内じゃけ。言われた通り監視せえ」
オペ子はドンっとヒステリックに管制装置を叩き、監視に戻る。
「クロ!世界が大変な事になってるんじゃないの!?」
「優斗。おまえは司令の権限を与える。ここを全力で守るがよい」
「一体、何を言って―――」
「DM軍に告ぐ! 学校を死守せよ!!」
「全員、正装じゃ! ミドリ以外はマントを着用! オペ子、おまえもじゃ!!」
「えっ……私もですか?」
「ミドリは上空監視。敵を確認したら攻撃してかまわん! 黒子部隊はシェルターに避難させえ! 海軍も下がらせい! 全員位置に……ちょっと待てや!」
DM軍が動く途中で立ち止まる。クロは挙げた手を降ろすと、
「うむ。今からお題を与える。お題は【この戦いが終わったら】じゃ!」
「クロ司令!そんな事を言ってる暇ないです! 南西GE8、距離一万二千! 敵です!!」
「……それじゃ、いってみようかの! まずはキイからじゃ!」
オペ子の「クロ司令!!」という言葉は聞き入れられなかった。
「はっ……この戦いが終わったら…邪魔者を必ず殺します。次はモモだ」
「私ですカ? んーと、この戦いが終わったら、イカロスをパワーアップさせる、ですネ」
「終わったら……寝る」
〈この戦い。終わ、たら。優斗と遊ぶ〉
「おお、ミドリもよくぞ言った!ワシはこの戦いが終わったら、バンダイに100分の1、合体変形イカロスのプラモデルを作ってもらおうかの?」
「クロ司令! いい加減にして下さい!!」
「よっしゃ! オペ子よ、危ないと思うたら逃げえの。優斗もじゃ、おまえは最優先で逃げるがよい。ええの?モモ!ワシもイカロスSWに乗せえ!」
「……クロも行くの?」
「まあのう。いざとなったらワシが行くと言ったろう! では、先発はミドリじゃ! 続いてキイが長距離レーザーで敵を狙い打て! ワシはイカロスSWで出るけえの!」
「クロ司令、イカロスは二人乗りですヨ?」
「足でも肩でも、乗れればよい! じゃあの!」
全員、司令室から出ていく。僕は不安でミドリに抱きつき目を閉じる。
〈優斗。ダイジョウブ。心配ない〉
「……心配してるに決まってるよ。僕はいつでも君が心配なんだ。いつもミドリが僕を守ってくれてること知ってるよ。心配かけてるのは僕の方だね……」
〈必ず帰る。優斗約束。嬉しい。戦闘モード開放……また遊んで〉
「うん……遊ぼう。約束だよ」
ミドリは目を赤くし、足元から煙を出すと学校から飛び立った。
そして、クロから通信が入る。
『オペ子ー! 敵影はどうな!』
「はい、敵影を確認しました。これは…とても大きい、白い円盤型飛行船ですね。データを送信しました」
『うむ!よおし!こやつは、白いどら焼きと名付ける!現状はどうなっとる!』
「ついさっき、ミドリが発進しました。キイさんの方は射程範囲外です。え……センサーの故障……? 敵の前に、人が…人が映ってます!衛星望遠最大!」
「……天使…かなあ?」
「ええ、優斗さんもそう思います? 私もそうとしか……」
巨大な円盤型飛行船の前に、背中に羽の生えた女性らしき人物が、白い甲冑を身を纏い宙にたたずむ。両手に剣を持ち、神々しい光りを放っていた。
すでに空は青色の一つもなく、白く塗りつぶされ、海も銀色に染り荒波を立てている。その光景は日常とは違う、異世界に入り込んだような雰囲気だ。
『……あの雌狐め!よし、モモ、アオ! イカロスSW発進せよ!』
「了解~! クロ司令、肩から落ちないでくださいネ~」
「……発進……クロ、落ちるな」
『問題ないけえ! 発進じゃあああああぁ!!』
ゴボォと白煙を上げ轟音と共にイカロスSWは発進した。
「敵、距離九千七百。ミドリ、敵とコンタクトしました! 暗黒エネルギー最大! あっ!」
監視画面が一瞬光りに包まれ、途絶えた。映像が回復すると銀色の海へミドリが落ちていく。
「ミドリぃ―――!」
ミドリが……胸騒ぎが止まらない。
「優斗さん、落ち着いてください! まだ、ミドリの暗黒エネルギーは残ってます! 映像解析開始します!」
「オペ子! 救出班、動かせない!?」
「優斗さん、ごめんなさい。現在、司令の指示は黒子は避難でホールドされています。黒子部隊は動かせません。画像解析完了! これは……ミドリの光線が完全に弾かれています! そして、あの天使がミドリを! という事は、という事はですよ……!」
『緊急連絡! 敵、レーザー兵器無効の可能性あり、物理攻撃に切り替えてください!』
―――学校屋上。
「クククッ……ミドリが倒れたか。装備を物理攻撃兵器にする……レーザーを高圧型ソードに仕様を変更だ。しかし、まったく使えないライフルだな!このポンコツめ!まあいい、その分、暗黒エネルギーの節約が出来たからな」
キイの眼差しは空に浮かぶ、白い円盤船を見つめていた。
―――イカロスSWは肩にクロを乗せ、低空で白銀の海上を飛行していた。
『モモ! アオ! 戦闘準備じゃあ!』
「了解ですヨ! 高圧型ソード、並びに暗黒圧縮ミサイル、準備オッケイでス!」
「敵……レーザー接近」
『避けえ! はようはよう! ぬわあああああぁ!!』
ガクンとガクンとイカロスに衝撃が走る。
「大丈夫でス! 単なる拡散レーザーですネ。少し肩にかすっただけでス!」
『こりゃああぁ! 殺す気かぁああああぁ!! ワシが肩に乗っとるんでえええぇ!!』
「モモ……あのレーザー白い」
「そうだネ……あんな粒子は見た事ないヨ……」
『無視か! 無視なんか!? ええい! モモ、アオ! あの女の近くに行けえ!』
「クロ司令、危険ですヨ! どんな攻撃が来るかわかりませんヨ!」
『大丈夫じゃ! あの女はまだ攻撃はせん! 行けえええぇ!!』
「了解、行きまス! アオちゃん、急速水平上昇!」
「オライ……水平上昇」
イカロスSWと対峙した、翼の生えた白銀の少女は空中で静かに佇む。
「―――お久しぶりですね。また…地球を滅ぼす気ですか」
「グハハハハ!雌狐め!また来おってからに! ほんま、しつこい奴じゃのう!」
―――司令室。
「……イカロスSW、敵と接触! ……? クロ指令が敵と話しています」
「オペ子、聞き取れない?」
「了解。イカロスの外部マイク出力を最大。こちら側に繋ぎます」
『―――メディカリス家の血を汚し、大罪を招いた犯罪者。クロワッテス』
『ふんっ!雌狐とは一生分かり合えんわ!あの時の判断は、今も間違っておらんと言うのに。きさまたちは宇宙で見ていただけであろう!』
『何度、偽りの地球を壊す気ですか?人類はもう宇宙へと進出しているのですよ。片山優斗、彼を渡して頂きましょう。元の地球へと戻す鍵となる事は、調査で分かっています』
『調査とは名ばかりの、根拠のないものじゃ! 渡したとして、ワシの地球を滅ぼす気であろう!』
『当たり前ではありませんか。この黒い地球が生存している事態、宇宙の不協和音ですから。弾かれて当然です。兄さんも呆れていますよ?姉さん』
『グハハハハ! 姉さんとな! 虫唾が走るわ!! 雌狐の理念とワシの理念とは、一生合わんじゃろうの!』
『これ以上は話す事はなさそうですね。……姉さん…それでは』
「オペ子……なに…これ…」
「すみません……私も言ってる意味が……」
唖然とした空気が部屋を包む。
何が起こってるのかわからない……クロが犯罪者? 黒の地球? 姉さん? 僕が……地球を戻す鍵? いくつものキーワードを重ね合わせるが、答えは出てこなかった。
―――稜徳学校第三シェルター。
「……おかしい!って言ってんの!」
黒子軍の群集の中で立ち上がり、優子は言い放った。
「藤宮ぁ~しょうがねぇじゃん。黒子部隊も避難命令が出されたんだからよぉ!」
「うっさいんだよ!この、南川ごときが! いままでこんな事あった? ないでしょ! あたしはシェルターを出て戦う!」
「ごときって……黒子部隊なんだから仕方ないだろ? 出たら懲罰ものだぜ?」
優子はポイッと、黒子の仮面を投げ捨てると「これでいいでしょ」とニコリと笑う。
「わーった、わっーたから! …俺も行く。そんでどうすんだ。ドアロックされてんぞ?」
「パソコンでハッキングするに決まってんでしょ! 行くよっ!」
南川は黒子の仮面を投げ捨て「あいつ…スペックたけぇ……」と呟いた。
―――その頃、上空では激しい戦闘が行われていた。
「アオちゃん、飛行船にミサイル!」
「……発射」
発射後……全弾、飛行船の白いレーザーで打ち砕かれ、空に円光が広がる。
すると、イカロスへと高速突進する白い少女が。
ギャキキキキキキと火花を散らし、二つ剣と高圧ソードが絡み合う。
「ウソ……白い人と戦うので精一杯? パワーで…負けてる!?」
『モモ!距離をあけえ! あやつに全弾打ち出せえ! どら焼きは後じゃ!』
「了解!距離をあけま……ダメっ……相手のスピードが早すぎて、無理でス!」
「モモ……フルオープン……全弾発射」
「この距離じゃダメだヨ! アオちゃん! キャアアアアアアー!!」
ドドドドドドと轟音が鳴り響き、巨大な円光がイカロスを巻き込んだ。
「うう……クロ司令、生きてますカー?」
『アホかぁー!! ゼロ距離射撃とか、死ぬかと思うたわ!!』
「モモ……ヤバい……」
「まずいですネ。右脚部破損、左腕部破損……装甲30%融解……アレ?推進力停止?クロ司令!イカロス落ちまスー!」
『なんじゃとぉおおぉ―――!!』
「落ちちゃう! アオちゃん! 脱出装置!」
「……ヤー…脱出」
イカロスのコクピットがバウンと煙を巻き上げ空中へと飛び出した。
「させません。テリオレア」
白い天使少女が剣を天へと突き上げると、円盤飛行船から白光線が放たれ、脱出コクピットを直撃した―――
―――司令室。
「オペ子、今……なにか…爆発しなかった?」
「優斗さん……イカロス脱出コクピット…破壊されました……モモさん、アオさん生死不明です。私、もう、どうしていいかわかりません!」
オペ子が両手で顔を隠し首を激しく振る。
僕は現実を受け止められず、画面を呆然と見ていた。
周囲に煙が上がり、海へと沈むイカロス……白い天使は、いや……そんな事はどうでもいいんだ……モモと…アオが…生死不明?
「ウソだ……ウソだよ。そんな……」
その時―――画面上に一筋の光が駆ける―――
『…………司令室…聞こえるか…』
「キイ!モモとアオが!」
『……その声…片山…優斗か……余裕がない……端的に言う……時間を稼ぐ……オペ子と一緒に……逃げろ!!』
画面上に、白い天使と交戦する、キイの姿が映し出されている。
逃げろ。キイはそう言った。それじゃ、クロやキイ、モモ、アオはどうなるんだ。ミドリだって探さないといけない。逃げるなんて出来ないよ……。
―――そうだ……あの地下のロボット!
僕は意を決すると、管制装置にうつ伏せになっているオペ子に言った。
「オペ子、オペ子!今から逃げて!」
オペ子の肩を揺さぶると、黒子の布の隙間から生気のない顔が覗く。
「優斗さん……私は…私は、イカロスの飛行時間を、把握してなかったんです。オペレーター失格です……もう、いいんです」
「よくないよ!オペ子。まだ、キイは戦っているんだ。僕も……戦う。みんなを助ける! いいね! 逃げるんだ!」
僕が中央エレベーターまで行くと、オペ子が振り返る。
「優斗さん!危険です!やめて下さい!!」
「大丈夫だよ! 僕は、世界を救う戦士だからね!」
僕は……精一杯の笑顔で、そう答えた。
―――その頃上空では。
「なかなかやりますね。しかし、よく持ちますね。フフフ……」
「だ……まれ、ワタシは、ここを……死守せねばならんのだ。クロ様の為……」
半壊の武装兵器。身体を襲う激痛。無表情顔が苦痛へと変貌する。見た目にもキイの体力は限界に来ていた。
―――勝負は最初から着いていた。圧倒的な力に弄ばれ、蹂躙されるだけであった。
白い天使少女は、僅かに薄ら笑いを浮かべ、二剣を鞘へと収める。
「キサマ、なんの……つもりだ……」
天使はスッとキイへと手をかざすと、白い蒸気がキイの身体を包む。
言葉を発する事も出来ず、キイは力なく海へと落下した―――
「……さあ、地球を本来の形に戻しましょう。テリオレア、侵攻を続行します」
その時―――黒いオーラを纏ったクロが、海上から上空へと駆け上った。
腕を組んだクロは、白い少女の前に立ちはだかる。
「グハハハ!! やらせんわ、雌狐シロめ! 調子に乗りおってからに!」
「クロ姉さん、本性を表しましたね。なんて…禍々しく不快なオーラでしょうか。また、大罪を繰り返すつもりですか」
「ふん! 何のために地球破壊を繰り返すたびに、黒子軍を鍛えておると思っとるんじゃ! ワシのこの力、無限じゃけえの!! 今こそ、おまえを殺して地球を破壊してやるわ!」
シロは二剣二刀を構え不敵に笑う。
「フフフ、地球を破壊…ですか。性懲りもなく同じ過ちを繰り返す。そこに意味なんてないでしょう」
「遺憾じゃのう! 破壊と再生を繰り返し、未来へと戻る! ただそれだけじゃけえ!分かっとらんのはシロ! おまえの方じゃ!!」
クロの片手から黒いオーラを放つと、黒煙が巨大な黒剣へと形を変える。
「片山優斗…彼を渡してもらいましょう。彼を回収できれば、本来の地球へと戻るのです。何故わからないのでしょうか。本当に…ダメな姉を持つと苦労しますね」
「グハハハ!それは、絵空事よ!!」
上空に白と黒のオーラが飛び散る。
―――稜徳中学校グラウンド。
優子は白く巨大な円盤に呆然とし、立ち止まる。
「やっぱり……謎の敵が来てる! 南川、早く砲台へ行くよ!……南川!?」
振り向くと言葉はなく、南川は地面へと突っ伏している。
「ちょっ、何やってんのよ! 早く起き上がりなよ!」
優子は抱き起こすと、南川の蒼白顔に目を見張る。
「藤宮やべえ…力が入らねぇ……」
「ちょっと…大丈夫? あんた休んでな。あたしが行ってく……あ……」
ぐにゃりと視界がぼやけ、優子はその場へと倒れた―――




