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第十八話 戦 う オ ペ 子

「……解析出ました! 王冠の上の12個の球体の一つが本体のようです。本体がランダムで移動する為、攻撃してもダメージを与えられません。倒すには一度にすべての球体を破壊するのがベストだと思います」

 ピピッと通信音が鳴り、モモの泳ぐ姿が映る。

『……オペ子ちゃーん! それなら、とっておきがあるヨー!』

「本当ですか? モモさん! ……大変! 大丈夫ですか?」

 モモは今にも溺れそうな雰囲気だ。

『ウン…救助、来たみたいだから。地下ドックに長距離支援型イカロスがありますヨ!』

「なんじゃと……? モモ! なんで、はよう言わんかったんか!」

「クロ司令!」

 オペ子の怒声にクロは黙り込んだ。

『支援型イカロスは、強力な新レーザー砲を装備してまス。旧イカロスで急造したので動きませんが、その代りレーザーの命中率はバツグンですヨ!』

「モモさん……わかりました。藤宮さん、オペレーター頼みます」

「あ……はい」

 オペ子は立ち上がると、部屋に置いてある工具を持った。

「オペ子、行くの?」

「ええ……優斗さん、私わかったんです。ここが私の居場所だって……皆さんを守り、学校を守ります」

「危険だよ! 僕も行くから!」

「優斗さんは藤宮さんのサポートしてください。大丈夫ですよ! 必ず帰って来ますから! [キミと一緒に桃源郷] の八巻が明日発売なんです。絶対に死ねません!」

「あ、オペ子さん!あれ、面白いですよね!」

「藤宮さんもそう思います? 狭山さん、カッコいいですよね!」

「わかる~! 狭山さんと寿理のカップリングもいいと思わない?」

「いい!いいですよ! それは私も気が付きませんでした!」

 オペ子と藤宮が夢中で漫画の話を始めた。

とりあえず……オペ子に行ってもらわないと街が大変な事になる。

「ねえ、オペ子。そろそろ行かない?」

「あ…そうですね。藤宮さん、またお話しましょう。行ってきます!」

「行ってらっしゃーい!」

 お互い手を振り合い、オペ子は地下ドックへ向かった。

「ふう……よしよし!これで勝てそうじゃのう!やれやれ、オペ子のヤツめ……」

 オペ子がいなくなるとクロはオペ子に対して悪態をつく。その態度は最悪だ。

「藤宮、クロを録画しておいて」

「うん?いいけど……?」

「ありがとう」

 あとでオペ子に見せよう。クロ、もう少し心を入れ替えた方がいいよ。

 ―――稜徳中学校地下40階イカロスドック。

ドック下方部に支援型イカロスが見えた……が。搭乗位置までラインを動かさないと搭乗できない。イカロス製作部隊の黒子は出払っていて、ドックの内部電源も落ちている。

「藤宮さん、聞こえますか?」

『はい!聞こえます!』

「お願いです。ドックの電源を復旧して、イカロスを搭乗位置ラインまで動かしてもらえますか?最初に操作をドックに切り替えて下さい。三番目の列の右端のスイッチです」

『ちょ、ちょっと待って……これかなぁ? ん…司令部からドックへ切り替え完了!』

「次に電源を入れる作業です。操作説明書の17ページに書いてあります」

『片山!説明書17ページを読んで!同時に作業するから!』

『わかった!緑のスイッチ、電源室の供給データを30%をドックに送り込んで……』

 ……電源が付き、同時にイカロスが搭乗ラインまで動く。

「藤宮さん、ありがとうございます!リフト操作まで……」

『オペ子さん、まかせてよ!敵をやっつけちゃって!』

『藤宮!オペ子が乗ったらハッチオープン。リフトアップだよ』

『片山、わかってるって!』

 ―――二人とも息がぴったりですね……必ず成功させないと!

「搭乗完了!ハッチオープンお願いします!」

『了解。ハッチオープン! リフトアップ!』

 地響きと共に体育館が割れ、支援型イカロスが現れる。背中には巨大なレーザーキャノンが装備されており、キャノンは煙突のようにそびえ立っている。

「敵影確認。これより演算作業に入ります。約五分後にレーザー照射予定。それと、黒子軍の撤退、司令室の強化シャッターを下ろして下さい」

 右舷43度、稜角12度。出力量最大。球体ロック。シュミレート…ミッション失敗。

右舷38度、稜角14度。出力量範囲最大。球体ロック。シュミレート…ミッション失敗。

右舷25度、稜角11度。出力最大収束。球体ロック。シュミレート…ミッション失敗。

これは……根本的な修正が必要がある。敵の硬質にレーザーの出力が負けて、球体を途中までしか貫けない。出力量を増やしてレーザーをもっと絞る必要がある。

―――司令室。

「マジ?なにこれ……!すごい!」

 いきなり藤宮が子供のように興奮する。

「……一体、なにがすごいのさ?CG?」

「片山はやっぱバカだよ!豆腐に頭突っ込んだ方がいいよ!オペ子さんがシュミュレーションを手動でやってるの!しかも10秒単位!ハッキリ言って、芸術レベルだよ!」

「……あ、そう」

 熱心に語られても、僕は何がすごいのかわからない。

『……司令部聞こえますか?そう……いえ…暗黒エネルギーをイカロスに出来る限り集めてもらえますか』

「了解…って……片山? どのスイッチ?」

「このスイッチじゃない? 説明書にイカロス暗黒エネルギー注入って書いてる」

「オッケー! 現在、注入中!」

『あと、回転角が右7度ほど足りません。そちらからリフトの回転軸を操作して下さい。タイミングはランプでお知らせします』

「え? はい……了解しました」

『緊張しないで、リラックスです。藤宮さんなら大丈夫ですよ! では』

「……片山どうしよう。あたし、ミスったらヤバくない?」

「じゃ、ミスったら藤宮はバカってことにするから。そして、僕はバカを返上するよ」

「はあ? やってやるから! 見てなよっ!」

 ―――イカロス内。

シュミレート…ミッションコンプリート! これなら大丈夫! 最初の一撃はフィールドスコープで肉眼で捉えて打たない……と? 嘘でしょ! フィールドスコープがない!?

「……あーこれ、二人乗り用だからですか……後ろに付いてる?」

 オペ子は後部座席へと移動すると、フィールドスコープを発見した。

「外れない……そうだ……工具…」

 工具からドライバーを取り出し、スコープを移設作業に移る。

『……オペ子ー!なにやっとんじゃ!敵は防衛ライン突破したけえ、はよう!はよう!地球はもう終わりじゃ~!』

『クロ!なにやってんだよ!邪魔しちゃだめだろ!』

 ……クロ司令、相変わらずですね。でも、予定時間はもうとっくに過ぎている。全力でやらないと間に合わない。あとはスパナで取り付けるだけ……。

フィールドスコープを設置し、照準を合わせ、誤差がないか確かめる。

「完了……司令室、聞こえますか?お待たせして申し訳ありません。これよりカウントダウンを始めます」

『オペ子さん、了解しました! カウントダウンどうぞ!』

「キャノン位置修正。球体ロック。カウント十秒……五秒、四、三、二、一、照射!」

 眩い一筋の光が大地を震撼させ、球体に直撃する。レーザーはゆっくりと旋回し、球体を順調に破壊していく。

「リフト回転角! 7度!」

 ―――指示ランプ、点灯!

「いっちゃえぇぇぇ―――!!」

 最良のタイミングで、優子はリフト回転角を調整する。

 レーザーが敵の後端まで貫くと、キーンという音と共に崩壊し、王冠は消滅した。

「あっは! やったぁ―――!! 見た?片山!」

「すごいよ! 藤宮! 勝ったあ―――!!」

 藤宮が僕に飛びつき、抱き合う形になった。僕は藤宮の柔らかさに動揺する。

気がついたのか、藤宮から離れた……どうしよう……気まずい。

「……ご、ごめん…藤宮」

「あたしが……その、別に…謝る事……ないし」

 ―――イカロスコクピット内。

 目標撃破、任務完了。レーザー威力により、イカロス破損。外装60%破損。内部40%破損。レーザーキャノン全壊。修復不可能……モモさんに謝らなければいけませんね。

 イカロスの状態を調べていると、

『……オペ子!ようやった!これより、キング・オブ・裸族に大勝利した宴を盛大に行うけえ!はよう戻って来い!』

「クロ司令。その前にモモさんとアオさんの救出が先です!次に街中の被害状況も確認してください。それと……優秀なオペレーターお二人に感謝します!」

『いや~てれるのう~』

『クロ! そんなボケはいいから! オペ子、早く帰ってきて!』

『オペ子さん、待ってま~す!』

 さあ、帰りましょうか。私の居場所に―――


―――それから。

「クロ司令~!ひどいですヨ~!」

「クロ……殺す気か……」

 身体に毛布を羽織った、モモとアオがクロに抗議をしていた。

「ワシが悪かった! 悪かったけえ! まあ、無事でよかったのう、よかったのう!」

 にこやかなクロの対応に、モモとアオは反応に困っている。

「モモさん、アオさん、お風呂の用意が出来ました。温まって来てください。今日はお疲れ様でした……クロ司令、あとでお話があります」

「なんかの?宴の準備の事かの?」

 クロの悪態録画を、オペ子は既に閲覧していた。クロはもちろん知らない。

こっそりとオペ子に録画を見せる時、僕はある事を頼んだ。キイをクロの名で午後9時に呼び出してもらいたいと。オペ子は快く了承してくれた。

「……ねえ、片山……キイ先生の事どう思ってるの?」

「え? どういう事?」

「だから、どう思ってるのかって、言ってるの!」

 どうって言われてもな……常に命を狙われてるとしか……。

「……ライバル関係かな?そんな感じ」

「ふうん……それで…他意とかはないの?」

 他意ってなんだよ……藤宮のヤツ何考えてんだ?

「他意?……意味わからないよ。藤宮、質問おかしいって」

「……じゃ……好…き……とか」

「えっ? キイこと? そんなわけないし! 僕はミドリの事が好きなんだ!」

 思わず口走ってしまった……でも本当の事だしいいか。

「へえ、そうなんだ……片山、今日さ、一緒に帰らない?別に嫌ならいいけど……」

「う……うん……帰ろうか」

 そう言うと、藤宮は元気一杯になり、黒子越しでも雰囲気が明るくなったようだ。

しかし、僕はいつもの殺気に気がつく。

「片山優斗……キサマ、いまワタシの事を話していたようだな?」

 キイは司令室の窓の外から銃を構え、僕を狙っている。

「キイ、おかえり……別に他愛のない話だよ。銃を降ろしてくれないかな?」

「フン……まあいいだろう」

 司令室へ窓から入り、キイはクロの所へ行くと頭を下げた。

「クロ様、戦闘に参加出来ず、申し訳ありません……」

「キイよ。問題ないけえ。ワシが新兵器回収の命令を下した事じゃけえ、ワシに責任がある。新兵器は持って帰って来たんじゃろ?それでええ、それでええけえ」

「はっ……ありがたきお言葉」

「優斗、優子、キイはもう帰ってよいぞ。あとは大人の仕事じゃけえの」

 ……クロだって、子供じゃないか……疲れたし、帰ろう。

―――帰り道。

「おおーい!優斗ー!」

 この声、南川だ。地べたでキイに抑え込まれている。

「いだだだだ!! 勘弁してくださいよー!!」

「まったく、またキサマか……!」

 もう驚かない。だって南川だから。藤宮が馬鹿にしたように、

「あんたバカすぎ!キイ先生に勝てるわけないじゃん!」

「うー痛てて……勝てる、勝てねぇ、関係ねぇだろうが!俺がぁ~本気を出せばあぁ~キイ先生から逃げ切れる自信はあるぜぇ?」

「ほお、ではやってみるか?」

 南川はその場で謝り、藤宮に茶化された。そして、南川はべらべらと話し始める。

「そういえば!今日グラウンドの地面が戦闘中に割れて死ぬかと思ったぜ!マジで殺す気かっつーの!ありえねぇだろ?司令室の操作ミスって聞いてるんだが、何か知らねえ?」

 僕と藤宮は顔を見合わせ苦笑いする。正確には藤宮の顔は見えないけど、同じような顔をしているのだろう。それに南川は一日あれば忘れてしまうので、素知らぬ顔で通した。

二人と別れ、家路につく。リビングへ行くと由美ちゃんと母さんが夕飯を食べていた。

「ただいまー」

 二人とも「おかえりー」と何事も無なかったような反応だ。

「ゆう君、早く着替えて食べなさい」

「母さん、夕飯って早くない?まだ……」

 時計を見ると午後7時を差している。

着替え終えると、しばらくベットの上に座り、深く嘆息をするとごろりと寝転ぶ。

「片山優斗、食べないのか?」

「ん……もう少ししたらね…そういえばキイ。藤宮の部署移籍は諦めたの?」

「正式に断られた。残念な事ではあるが…今日の藤宮優子の働きは、DM軍に任命されてもおかしくはないレベルだ。まだ諦めん……片山優斗、キサマがいる限り藤宮優子は我々の手にあるからな!ふはははははは!」

 ……どういう理屈さ…ごはん食べよ。

食事を終えたあと、僕はソファに座りテレビを見ていた。キイが腕を組んでずっと後ろに立っていて落ち着かない。母さんはお風呂に入り、由美ちゃんは食器を洗っている。

時計を気にしながら、オペ子からの連絡待つ。計画犯の犯人としては僕は不向きなようで、気持ちは穏やかじゃない。キイは察してか、ジロジロとこちらを見ている。

―――ピリリリリ、ピリリリリ……来た!

キイは迷いもなく携帯を取る。

「クロ様、いかがなされましたか……ハイ…ハイ……わかりました。すぐ参上致します!片山優斗!今から学校へ戻るぞ!」

「今から?嫌だよ。キイだけで行ってきなよ」

「なんだとっ!?キサマ!ワタシの言う事が聞こえないと言うのか!ようし!聞こえるように風穴を開けてやろう」

 チャキっと鈍い音が耳元に響く。臆する事なく、僕はキイを諭すように話した。

「今日はもう疲れたし……あとはお風呂に入って寝るだけだし。キイが用事を済ませたらまた護衛を頼むよ。頼りにしてくからさ」

「む、では武器を置いて行こう。何かあった時は使うといい。今日はやけに素直だな」

「え……いつもこんなもんじゃない。キイ、ありがとう。行ってらっしゃい!」

 素直な僕に、キイは怪訝な顔をすると、リビングの窓から出て行った。

……よし! 計画成功!

「由美ちゃん、支度して!裏山行こうよ!」

 由美ちゃんの返事を待つ事なく、僕は自分の部屋に行き、望遠鏡を持ち出す。

「ゆうくん、準備出来たよ?」

「虫よけ持った?よし……母さん! 由美ちゃんと裏山まで行ってくるから!」

 大声を張り上げると「気を付けてね~」と風呂場の方から母さんの声がした。

「じゃ、由美ちゃん行こう!」

「うん!星を見るの久しぶりだね~」

夏場に由美ちゃんとよく星を見に行ったらしい。その頃の記憶はすっぽりと抜け落ちている。でも、僕は星が好きだ。この気持ちは忘れてはいない。

僕たちは山へとゆっくり歩きながら、夜空を見上げた。

「あ、もう流れてるね~」

「うん、でも望遠鏡で見るのが通なんだよ!それに、もう少ししたらもっとすごいよ!」

「ふふふ……」

 熱心に僕が語ると、由美ちゃんは楽しそうに反応してくれる。

―――裏山へ着いた。記憶はないにしろ、この場所は既視感を感じる。しかも、まったく違和感がないハッキリとした既視感だ。

望遠鏡を設置し調整をしていると、由美ちゃんがはしゃぐ。

「ゆうくん、ほらほらすごい!」

 夜空一面に流星が流れ、星のシャワーを浴びているようだ。

「もう少しで大極するから。最高の流れ星が見れるよ!」

 望遠鏡を覗き、ピントの調整をしていると、その先に建造物のような物を捉えた。

……なんだ?人口衛星でもないぞ?なんだこれ?

その瞬間―――バカッカーンと望遠鏡が飛び散る!

「わあぁ! ……はあ? …なんだこれ? ……キイ! キイだろ! なんて事するんだ!!」

 僕の大声が辺りへとこだまする。なんの反応もなく、がっくりと肩を落とした。

「ゆうくん! 見て見て! すごいよ!」

 夜空を見上げると、流星群は大極し無限に流れる光りの帯が目に焼きつく。

「本当だ…すごいね。素晴らしいよ……」

 僕は感動し、壊れた望遠鏡も建造物も忘れて夢中になった―――

 ―――草むらの中。

「……クロ様、目標を破壊しました」

『うむ、ようやった。よし、学校へと帰還せよ。オペ子がうるさくてのう』

「了解。帰還します……片山優斗め。このワタシをあざむくとは……しかし、クロ様もおかしな事をする。まあいい」

 キイはライフルをケースにしまい込むと闇へと消えた。

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